
2009年のサンダンス映画祭でグランプリ、
第82回アカデミー賞で助演女優賞と脚色賞を受賞した「プレシャス」。
この映画を観るには、ある種の勇気が要りました。
主人公の女の子プレシャスは異様に太っている。
150㎏はゆうに超えているような巨体。
昔、ニューヨークの地下鉄やバスで遭遇したこういう人たちの
強烈な体臭を思い出して、息苦しいような気持ちになってしまう。
しかもいつもふてくされている。
予告編で観たそんなアップを、大画面で延々と観せつけられるのは
楽しいことではありません。
という訳で劇場で観そびれ、ようやくDVDで観たのですが…
16歳のプレシャスが置かれた状況は、過酷なものだった。
圧倒的な貧乏(ハーレムで生活保護を受けている)
目を覆いたくなるような無知(16歳で読み書きができない)
父親からレイプされて二度妊娠(先に生まれた子は障害児だった)
母親からの絶え間ない虐待…(精神的にも肉体的にも)
これでは彼女がふてくされた顔しかできないのも無理ないでしょう。
これでもかという不幸の連鎖。
終盤の、ソーシャル・ワーカーに対しての彼女の母親の独白は
聞くに堪えないものです。
父親が娘をレイプするのをどうして止めなかったのか?と
ソーシャル・ワーカーに訊かれて
「あの男に逆らってあの男が私から離れていったら
誰が私を愛してくれるのさ?
誰が私を気持ちよくしてくれるのさ?」
文字にするのもためらいたくなるこの言葉。
無知で愚かな母親を持ったことは、娘の罪ではないのに…
文明社会に身を置きながら、16歳にもなって読み書きができないなんてあり得るのか。
平和な日本に住んでいると、ここまでの不幸があるものかと思ってしまうのですが
ちょっと検索してみたら
原作小説の著者のサファイアという詩人は、実際にNYのハーレムに住んで
児童虐待の調停人や教師をした体験を元に、この小説を書いたのだそうです。
”「プレシャスにモデルはいないが、あえて言えば32才の自分の教え子かもしれない。
彼女には知的障害を持つ20才の娘がいた。
父親に強姦されて12才で娘を産んだのだ。
アフリカ系コミュニティで児童強姦の話題はタブーだが、かなり多くの子供たちが
親族や家族の知人などに性的暴行を受けており、加害者や被害者に男女の別はない」
と語っている。
サファイア自身も被害者の一人だ。
この映画の推薦人を買って出ているオプラやコメディを得意とする映画監督タイラー・ペリーも自身の性的虐待体験を告白している。
ペリーは友達の父親に性的暴行を受け、現在も実父からの虐待が続いている現実も明かし、「この映画は自分自身の体験と一緒だ」と語っている。”
http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20091220/1261324588
小さなフリースクールに行くようになったことで
負の要素しかなかったプレシャスの人生に
愛情や友情といったプラスの要素が初めて加わります。
それによるプレシャスの表情、歩き方、そして生き方の変化は
目を見張るものがあります。
せっかく新しく歩き出した彼女を新たな不幸が襲うのですが…
それでもこの悲惨な話は、どんな劣悪な環境にあっても希望はある、
人生は捨てたものじゃないという人間賛歌にも見えてくるのです。
☆4
プレシャス http://www.precious-movie.net/