普段私は本や映画について、生意気にも結構辛口の批評をぶっているのですが
こと動物ものには弱いのです。
最近読んだ愛犬小説「ウイスキー!さよなら、ニューヨーク 」。
写真家宮本敬文氏の本。
”1988年、大学を卒業したばかりの僕は1台のカメラと3000ドルだけを持って、NYへと渡った。
マフィアのボス、心優しき友人、いくつかの恋、旅……
たくさんの出会いと別れを繰り返しながら写真家として一歩一歩階段を登っていく、
その傍らには、いつも愛犬ウイスキーが いた。
ありがとう、ウィスキー。さよなら、ウィスキー。”(amazonより)
”1988年9月9日、僕はどんよりと曇ったJFK空港に降り立った。
飛行機のドアを出たその瞬間から
「どうしてここに来てしまったのかな?」と思っていた。”
冒頭から、初めて海外に出た若者の不安と孤独がピリピリと伝わってきます。
著者はクィーンズのぼろアパートの地下室に住み始め、
一年ほどしてブルックリンのイタリア人街のアパートの一階に引っ越しをする。
勉強とバイトに明け暮れ、次にプエルトリカン街の2階のロフトへ移った時、
あまりにも物騒だからとシェパードの仔犬を貰ってきたのでした。
”よく晴れた朝に、ブルックリンの真ん中にあるプロスペクトパークで
仔犬だった頃のウイスキーと走り回ったのは、とても素敵な思い出だ。
人生の中で一番美しい時期だった気がする。
今でも時々、その時のことを夢に見る。
夢の中では、ウィスキーの大きな右目は傷一つなく、しっかりと僕を見つめている。
真っすぐに走りながら”。(ウィスキーの右目はつぶれてしまったのです)
著者はその後、失敗と挫折を繰り返しながらも成功の階段を上っていく。
カメラマンとして色々な仕事が入り、日本や海外へ何カ月にも渡って行くようになる。
その度にウィスキーをスタジオのスタッフやドッグシッターに預けながら。
”出発の前にスーツケースを出して来ると、ウィスキーはいじけてソファーの前で
丸くなってしまう。上目づかいでチラッチラッとこっちを見ている。
ちょっと目を離すとスーツケースの中の物を噛み散らかしたりする。
空港に向かうのにアパートを出ようとすると、毎回あの「クォーン・クォーン」と
悲しい雄叫びを上げる。”
やがて9.11が起こり、彼は東京に拠点を移す決心をする。
恋人に赤ちゃんができ、結婚して杉並に家を構える。
そうしてようやくNYからウィスキーを呼び寄せるのですが…
14歳になって、ウィスキーの口の中には悪性の腫瘍ができたのでした。
”無条件でそこにいてくれたのは、ウィスキーだった。
僕がどんな状態でいようともいつでも傍にいて僕を受け入れてくれた。(中略)
それなのに長い間、自分の都合で僕は彼を放り出していた。
彼を一人ニューヨークに残して。
それでも帰ればいつでも彼は何事もなかったように僕を受け入れてくれた。(中略)
そうして僕に家族ができると、バトンタッチをするように天国に行ってしまった。”
”もう一度、人生をやり直せても、
僕はNYで写真家になり、君(ウィスキー)と生きるだろう。
「もう大丈夫だよ、僕がいなくても君は生きていけるよ」
ウィスキーは最後に瞳の中で僕にそう言った。”
この文章には号泣でした。
著名な写真家の本だけあって、
ウィスキーやNYの街並みの綺麗な写真で溢れています。
ブルックリンの裏通り、私の大好きなセントラルパークの雪景色、コニーアイランドでの海遊び、
可愛らしい仔犬から段々勇ましいシェパードに成長していくウィスキー、
そしてウィスキーの最後の写真。
我家の愛犬タロウはその日が来たら、私に何を語ってくれるのだろう…?
「ウイスキー!さよなら、ニューヨーク」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4838722125