映画『Shall we ダンス?』のアメリカ公開にあたってのキャンペーンで、全米を移動する周防正行監督の、その顛末記。
日本映画がアメリカでも大ヒットしたと聞けば、それだけで映画フアンとしては嬉しくなるのですが、その裏にこんな熾烈な攻防戦があったのかと驚くばかりでした。
まず、アメリカの契約至上主義が凄い。
映画会社ミラマックスがこの作品を配給することに決まったが、とにかく契約書にサインしろと迫る。
この本によれば(著者が相談したアメリカのショービジネスに詳しい弁護士によればということ)、大会社であろうといい加減な契約を結ばされて、その世界で泣き寝入りをしている日本人は多いというのです。
その次には、この作品は長すぎてアメリカ人には受けない、短くしろと迫られる。
これには監督はかなり抵抗したらしいのですが、結局2時間16分の作品を1時間58分に短縮されたのだそうです。
出来上がった予告編のあまりの下品さに監督が切れて
「僕の映画を侮辱するのか。こんな下品でセンスのない予告編は許せない」と言うと
「僕もそう思うが、アメリカの多くの観客は馬鹿なんだ。その馬鹿に合わせなきゃヒットしないんだ」とミラマックスの担当者。
そんなあれやこれやの攻防戦を経てこの作品は全米で公開された訳ですが、その大ヒットは周知の通り。
試写会では、何処も拍手とブラボーの嵐、そしてスタンディング・オベーション。
セックスも暴力もない、こんな映画をアメリカは待っていた。
アメリカの重要な社会問題であるミッドライフ・クライシスを見事に描き上げた、などと絶賛される。
監督はあちこちでのインタビューに対して、杉山(役所広司)を通して、日本のサラリーマンの悲哀、平凡なサラリーマンであっても人生を楽しんでもいいのだということを言いたかったと答えているのですが、英語にいわゆる「サラリーマン」という言葉はない。
businessmanではちょっとエグゼクティブな雰囲気があるし、office workerと言ったのかな?employee?
御存知の方、教えてください。
アメリカとカナダの18以上もの都市を廻ったという監督の、旅行記のようでもあって面白い。
アメリカの食事の大味には不満たらたらだったようですが、ヒューストンの「パパスブロス」のステーキを絶賛した箇所にはにやりとしました。
私もそこで食べたことがあるからです。
そして、サンフランシスコのフィッシャーマンズ・ワーフで食べたロブスターも、数少なく褒めた料理の一つ。
”なぜ美味しかったかといえば、ただ焼いて塩、胡椒で味付してあるだけだったからだ。アメリカで食事する時はこの手に限る”。
これも、私も同じことをサンフランシスコで思ったのでした。
1996年公開のこの映画、詳細を忘れてしまっていてもう一度観たくなりました。
アメリカのリメイク版は、あまりにもあっけらかんとしてリチャード・ギアがかっこよすぎて、少々不満でした。
東京の駅前の、裏寂れた社交ダンス教室に思い切って飛び込む役所広司、そのなんとも気恥ずかしいような雰囲気がある日本版の方が私は好きでした。
『Shall weダンス?』アメリカを行く