この映画ができた経緯というのが面白い。
2009年にジャーナリストのマーチン・シックススミスが実話を取材し、
"The Lost Child of Philomena Lee"(フィロミナ・リーの失われた子供)という本を出版。
それを読んで感銘を受けた俳優スティーヴ・クーガンが映画化を企画し、
ジュディ・デンチとスティーヴン・フリアーズ監督が賛同して
それが実現したというのです。
登場人物は全て実名、実在の人物なのだとか。
1952年のアイルランド、10代で妊娠した未婚のフィロミナは
ふしだらの烙印を押され、カトリックの修道院に入れられる。
刑務所のようなそこで重労働に従事させられ、生まれた子どもは
勝手に養子に出され、以来消息不明。
息子のことを片時も忘れたことがなかったフィロミナは、それから50年経ってから
ジャーナリストのマーチンに頼みこみ、二人で息子探しの旅に出かける。
その頃のアイルランドの修道院については
以前「マクダレンの祈り」を観て息を呑みました。
2002年のこの映画も、かつてそこに入れられていた女性の回想録を基にしており、
婚外交渉などをした少女たちが収容されたそこで、どんなに酷い重労働が強いられていたか
どんなに悲惨な虐待が行われていたか…
それが1996年まで続いていたというのですから。
そうした施設で生まれた子どもたちの行く末については
2011年の映画「オレンジと太陽」でも暴露されています。
こちらの舞台はイギリスですが、何万人もの養護施設の子どもたちが
政府と教会によってオーストラリアに移住させられ、労働に従事させられていたというのです。
イギリス首相が事実を認め、正式に謝罪をしたのが2010年というのにも驚きました。
話を戻して、フィロミナは50年の沈黙を破って息子を探し始める。
マーチンとまず、かつて自分が収容されていたロスクレアの修道院を訪ねるが
息子に関する書類はすべて焼失したと言われる。
無知でロマンス小説が大好きな労働階級の老女、フィロミナと
オックスフォード卒のシニカルなマーチンとの組み合わせが面白い。
最初のうちはユーモアもまったく噛み合わず、
人の気持ちを斟酌しようとしないフィロミナに困惑気味のマーチンでしたが
次第にフィロミナの優しさ、純真さがわかってくるのです。
息子を探しにアメリカまで飛んだ二人が最後に辿りついた真実とは。
修道院にまんまと騙されたと知った二人は
またロスクレアを訪ねるのです。
怒りに頬を紅潮させたマーチンと対照的に
フィロミナは始終、落ち着いていた。
そして最後に、シスターに向かってあなたを赦す、と言うのです。
無知無教養なおばさんはこの時、見事に逆転した。
小賢しい策略を弄したシスターたちよりもインテリのジャーナリストよりも
はるかに高みに立ったのです。
このシーンは圧巻でした。
秋から冬にかけてのアイルランドの田舎風景も美しい。
余韻が残る映画でした。
「あなたを抱きしめる日まで」
http://www.mother-son.jp/