新国立劇場に芸術監督として着任された大野和士氏が掲げる方針のひとつが
「レパートリーの拡充」なのだそうです。
その第一歩としての今回の企画が、フィレンツェを舞台にした作品によるダブルビル。
プログラムによると
”耽美的で絢爛豪華な音響世界が現出するツェムリンスキー作曲「フィレンツェの悲劇」と
シニカルな笑いに満ちた喜劇「ジャンニ・スキッキ」”という組み合わせ。
オペラは通常3~4時間(休憩時間含む)、ワーグナー作品に至っては6時間という
長丁場が多いのに、今回は1時間強の作品を2本と短いのも嬉しい。
「フィレンツエの悲劇」は、私には馴染みのない楽曲もそのストーリーも
まったく面白味を感じられなかったので、感想はスルー。
プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」、これは楽しみにしていました。
「フィレンツェの悲劇」
この作品の中で歌われるアリア「私のお父さん」は
誰もが聴いたことがある曲なのではないかと思います。
この曲は映画や舞台でも数多く使われ、ざっと思い出せるだけでも
イギリス映画「眺めのいい部屋」アメリカ映画「僕の美しい人だから」、
そして近年観た歌舞伎「桜の森の満開の下」に使われていました。
野田秀樹と坂口安吾がコラボした新作歌舞伎の終幕、桜の花が降りしきる中を
夜長姫が息絶える所で、この曲が流れるのです。
なんとも切なく美しく、悲しい曲。
で、その曲が歌われるオペラとはどんなものだろう?と興味津々だったのですが
「ジャンニ・スキッキ」はなんとドタバタ喜劇でありました。
大富豪のブォーゾが亡くなり、親族が集まって、修道院に全額寄付するという
彼の遺言に大ショック、どうしたらよいのかと右往左往。
ブォーゾの甥が、機転の利く男ジャンニ・スキッキに相談して何とかなったら
スキッキの娘ラウレッタとの結婚を許してくれと懇願します。
そのラウレッタが歌うのが「私のお父さん」なのです。
”ああ愛するお父さん
私は彼を愛してます、とても素敵な人なの
だからポルタ・ロッサへ行って指輪を買いたいの!
私の恋が叶わないのなら、ポンテ・ヴェッキオに行って
アルノ川に身を投げちゃうわ!”
な、なんと、こんな軽い歌詞だったの!?
あの切なく美しい曲が?
恋に浮かれ、父親に駄々をこねる娘。
そして、世間ではヤリ手の商売人であるジャンニ・スキッキも、
困ったものだと思いながらも、娘は可愛くて仕方ないというところか。
ちなみにジャンニ・スキッキは、才知を働かせて遺言を書き変え、
親類たちに手際よくブォーゾの遺産を分配しますが
「ラバ・屋敷・製粉所」という一番美味しい遺産を、ちゃっかり自分のものにしてしまうのでありました。
タイトルロールはカルロス・アルバレス。
新国立劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/giannischicchi/