「極夜」は「白夜」の反対語であり、冬の北極や南極で太陽が地平線の下に沈み、24時間中真っ暗になる現象のこと。
著者は極夜の中、グリーンランドとカナダの国境付近を四ヶ月かけて探検したのです。
その為に3年かけた準備旅の様子を書いた「極夜行前」を以前読んで、本番を書いた「
極夜行」を楽しみにしていました。
北極圏の何も見えない闇の中を、二台の橇に150キロの荷物を載せ、一頭の犬とひたすら歩く。
あえてGPSを使わず、天測でと地図とコンパスだけに頼るものの、旅の初めに大事な六分儀を失くしてしまう。
以前の準備旅で、やはり死ぬ思いで置いておいた食料は、白熊や現地の漁師に食べ尽されてしまっていた。
食料にするべくジャコウウシを求めて奥地に行くも、何日かかっても獲物は見つけられない。
食料はいよいよなくなり、最悪、愛犬を食べて生き延びるしかないと思う。
”餌を減らした上、一気に進んだことで犬は急速に痩せ衰え始めていた。
寒さに強い犬種とはいえ、氷点下三十度以下での重労働である。
あばら骨が浮き出て腰回りが貧相になり、後脚から尻にかけての筋肉がごっそりなくなっていた。
身体中を撫でて確認する度に、可哀想で思わず涙が出そうになる”
だったのが
”この頃になると私はもう、犬の肉を食べることを完全に視野に入れていたからだ。
村に戻るには一カ月近くの物資が必要だが、手持ちの食料はそれには全然足りない。
だが、ここまで獲物が取れない以上、犬が死ぬのは避けられず、死んだ犬の肉を喰えば最低でも十日分の食料になる”
そして
”犬はげっそりと痩せこけ、惨めな身体つきになっていた。前日よりも明らかに腰回りの肉が削げ落ちており、日一日と小さくなっていくのがよく分かる。(中略)
身体つきだけでなく、行動にも今まで見られなかった顕著な変化が現れていた。
私に物乞いのような仕草をするようになったのだ。
犬はゆっくり立ち上がり、のろのろと私の横にやって来て、お座りの姿勢をしたまま、カロリーメイトやナッツを頬張る私を、力を失ったくぼんだ目でじーっと見つめたのだ。
お願いですからその旨そうな食い物を私にも分けてくれませんか。
本当に少しでいいんです、分けて下さい、頼みます…”
愛犬に見つめられて耐えられなくなった著者は、狼狽え、逡巡した挙句、遂に食べ物を投げ与えるのですが、それは小さなレーズン二粒だったのです。
極夜の探検というのは、それくらい厳しいものなのですね。
強烈なブリザードに度々襲われ、道に迷い、何度も死にかけますが、なんとか一頭のオオカミを仕留め、食料を確保して生還します。
私は犬好きなので、つい犬の部分ばかりを取り上げましたが、この探検の動機には哲学的な理由もあり、とにもかくにも過酷で壮絶な探検記でした。
この本があるということは、著者が無事生還できたことを意味しているのですが、それでもどうなるのやらとハラハラドキドキの連続でした。
この本の冒頭に著者の妻の出産シーンが登場し、探検記に何故?と不思議だったのですが、それが最後に見事に帰結します。