土砂降りの深夜、黒いフードを目深に被った若い女が、教会へ続く細い階段を登って行く。
おくるみに包んだ赤ん坊を、赤ちゃんポストの前にそっと置く。
それを見ていたクリーニング屋のサンヒョン(ソン・ガンホ)と、教会でバイトしている児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)は、こっそりと赤ん坊を持ち去る。
赤ちゃんポストに預けられた赤ん坊を、子どもを欲しがる親に売り飛ばすことが、彼らの闇稼業だった。
赤ん坊を捨てた母ソヨン(イ・ジウン)もついて行くことになり、ついでに養護施設から逃げ出してきた少年へジンも加わり、クリーニング屋のおんぼろワゴンで養親を探す5人の旅が始まる。
その後ろには、児童売買を現行犯で逮捕しようと追いかけている警察の車があった…
登場人物は全員が訳アリです。
妻子を捨てたサンヒョン、母親に捨てられたドンス、赤ん坊を捨てたソヨン、親に捨てられたヘジン。
最初は警戒し、自我を丸出しにし、責め合っていた彼らだったが、赤ん坊の世話をしながら旅を続けるうちに次第に打ち解け合い、疑似家族のようになっていく。
ことに途中から加わった少年へジンの役割は大きい。
家族を切望していたであろう少年の無邪気な願いは、大人たちの利己的な思惑を吹き飛ばしたのです。
最初から手放すつもりだったせいか、赤ん坊にどうしても声をかけようとしなかった母ソヨン。
物語の終盤でドンスに促されて、初めて声をかけます。
「生まれてきてくれてありがとう」
その言葉を、赤ん坊だけでなく全員に。
あの場面はベタですがうるっと来ました。
祝福されて生命を受ける。
そんな当たり前のことが叶わない人生を、この人たちは生きてきたのだと。
自分は生まれてきてよかったのか?と常に思ってきたのかと。
「生まれてきてくれてありがとう」
その存在を承認されることを、そんなにも渇望していたのかと。
母親ソヨンは実は売春で生活を立て、赤ん坊の父親のヤクザを殺していた。
終盤でソンヒョンも、ヤクザの手下を殺したようでもあるのです。
そんな後ろ暗い人生を送ってきた彼らだからこそ、尚のこと…
始まりでは土砂降り、そしてずっと雨が続いていた画面が、物語の終盤ではカラリと晴れていました。
是枝監督の最新作、ソン・ガンホはカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞。
「誰も知らない」や「万引き家族」のような、心がヒリヒリするような痛みはあまり感じられず、ファンタジーのようになった嫌いはありますが、しみじみとした映画でした。
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