Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

わたしの叔父さん

2021年02月28日 | 映画

デンマークの寒村で叔父と二人で酪農をしながら暮らす、若い女性クリス。
朝起きて体が少々不自由な叔父の着替えなどを手伝う所から、映画は始まる。
一緒に朝食を取るのだが、この二人、仇のように喋らない。
質素な食卓の上を、国際情勢を伝える旧型のテレビの音だけが流れていく。
共に牛舎の世話をするときも、農機具の手入れをするときも、一言も喋らない。
映画が始まって10分ほどして初めて出た言葉が、食料の買い出しに行ったスーパーでの、叔父の「ヌッテラ」(が欲しい)という言葉。

しかしこの二人、決して仲が悪い訳ではないということが段々に分かってくる。
クリスは27歳、早くに両親を亡くして、叔父と12年間暮らしてるらしい。
彼女が本当は獣医になりたいのに、叔父の世話の為にあきらめたことや、彼女の前に若い男性マイクが現れて、多少心が揺れ動いていることも分かってくる。
叔父は自分の為に、若い姪を縛り付けたくないと思っている。



お互いが相手を思いやりながら、動き出すことができない。
そのじれったさに、観ている方は多少イライラする。
クリスは若者なのに、スマホさえ持とうとしない。
いつも髪をひっつめにし、Gパンに綿シャツ、泥だらけになって牛の世話をしてる。
何故にそこまで禁欲的なのか?



が、前進だけが人生ではないということが次第に分かってくる。
このもどかしい関係、地味な家族愛に、二人は結構満足しているのだろう、と。
改革、急進派の私としては、何故獣医の夢をあきらめちゃうの?何故マイクの胸に飛び込まないの?と納得できない思いも多々あったのですが。
自分に好意を寄せているマイクに対して、クリスがいきなりGパンをおろしてお尻を向けたのは、あれは何だったのか?
私には叔父さんの方が大事なの、さっさと済ませてというところか。

監督のフラレ・ピーターゼンは、小津安二郎ファンと聞いて納得です。
第32回東京国際映画祭グランプリ受賞作。

公式HP 

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「風神雷神」 

2021年02月27日 | 

著者は、京都を舞台にしたアート小説をと京都新聞から依頼されたのだそうです。
そこで思い浮かんだのが、京都国立博物館にある国宝、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」。
宗達の生涯は謎だらけということですが、1570年頃の生まれということは分かっているらしい。
そしてその安土桃山時代の1582年に、天正遣欧使節団が派遣されていたという史実。
この二つのことから、宗達を遣欧使節と一緒にローマに行かせてしまうのですから、作家の想像力って凄いですねえ。

京都の扇屋に生まれた天才少年絵師・宗達は、織田信長にその才能を気に入られる。
狩野永徳と共に描き上げた「洛中洛外図」を、信長の命によりローマの教皇のもとにまで届けることになる。
伊藤マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルチノからなる少年使節団と共に。
彼らは3年をかけてマカオ、インド、ポルトガル、スペイン、地中海を経てローマに向かう。
命懸けで辿り着いた彼の地にはまた、教皇グレゴリウス13世以外にも思いがけない出会いが待っていた。



1581年に信長がイエズス会宣教師ヴァリニヤノに狩野永徳筆の「安土山図屏風」を贈り、それが少年使節団によってローマ教皇グレゴリウス13世に献上されたということは、史実であるようです。
その後、絵は行方不明になっているようですが、こんな感じの物であったらしい。
あの時代にローマまで旅をするということが、どれほどの困難を極めたものであったことか。
遥かなる欧州の地で、想像を絶する異文化に彼らがどんなに感動したか、極東の地からやってきた高貴なる使者として、彼らがどんな歓待を受けたことか。
単行本上下2冊で描き上げるのは無理があるようで、かなり端折ってあるのは残念ですが、天衣無縫な少年宗達の目を通しての、そういった様子を読めるのは楽しいものです。

副題の「ユピテル、アイオロス」というのは「風神雷神」のラテン語名。
スペインでギリシヤ神話の絵を観た宗達は説明を聞くまでもなく、光の槍を手にした勇壮な「ユピテル」は雷神、風邪の袋を担ぎ青白い顔をした「アイオロス」は雷神だと気が付いた、というのです。
帰路を含めて8年もの歳月をかけて彼らが帰国した後、どんな運命が待ち受けていたのかを我々は知っているだけに、おもしろうてやがて悲しき冒険物語でした。

風神雷神」 


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「世界で一番しあわせな食堂」

2021年02月26日 | 映画

フィンランド北部、ラップランド地方の小村にバスでやってきた中国人の父と幼い息子。
二人はバス停前の食堂に入り、女主人シルカや客に、たどたどしい英語である人物を知らないかと聞く。
寡黙で礼儀正しい父親チェンと、つまらなさそうにスマホでゲームばかりしている息子ニュニョ。
「フォントロン」という人物の消息を求めて、チェンはその食堂から離れようとしない。
ホテルもないその村で、シルカは見かねて空いている部屋を提供する。



ある日、観光バスが車の故障でそこに停まり、大量の中国人観光客が店に来る。
ソーセージとマッシュポテトくらいしかない食堂の料理に難色を示す中国人たちにチェンがやおら立ち上がり、近くのスーパーから食材を買い込んで料理を始める。
鶏肉の麺料理、魚の甘酢あんかけ、バナナの揚げ春巻き。
チェンは上海の有名レストランのシェフだったのだ。



料理が評判を呼んで、閑古鳥が鳴いていたシルカの店は繁盛するようになる。
チェンの料理を食べたおかげで病気が治った、体調がよくなったと村人が騒ぐのは大げさな気もするが、毎日ソーセージとポテトばかり食べていた人々が丁寧に料理された様々な野菜、魚、肉を食べるようになれば、それもありかと。
頑固な村の老人たち、訳ありのように見える独り者のシルカ、もっと訳ありの息子連れのチェン、
それぞれがどのように文化の違いを乗り越え、心を開いて行ったのか。



「希望のかなた」を作ったアキ・カウリスマキの兄ミカ・カウリスマキが監督。
ストーリーはやや薄っぺらい気もするが、森と湖の国フィンランドの美しい風景を舞台に、ホッとさせられる映画です。
こんな北の果てまで中国人の団体客がと驚きますが、コロナ前のラップランドには中国人観光客が殺到していたのだそうで、実際に監督はそれを見て、この映画を作る気になったらしい。
世間の狭い私は、寡黙で礼儀正しい中国人という人物を具体的に知らないのが、ちょっと残念です。

2019年フィンランド・イギリス・中国合作 原題「Mestari Cheng」
公式HP 

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ロベール・ドアノー写真展

2021年02月25日 | お出かけ
フランスの国民的写真家ロベール・ドアノーの写真展@文化村。
テーマは「音楽とパリ」。
カフェ・ドゥ・マゴが入っている文化村に、なんとピッタリのテーマ!


シャンソンやアコーディオン、オペラやジャズなどのアーティストの写真を観ながら、パリの街角を巡ることになります。
会場のところどころにスライドショーのモニターがあり、そこから小さな音で音楽が流れている。
すぐ近くに寄らないと聴こえないような小さな音ですが、本来展覧会では喋ると注意されるくらいですから、仕方ないのでしょう。




「流しのピエレット・ドリオン」


それでも写真を見ているだけで、パリで聞いたあの音楽がよみがえってくるようです。
街角や地下鉄の構内で聞いたアコーディオンの音色。
モンマルトルのジャズクラブで聞いたサックスやベースの音色。
今はコロナ禍で、まるで様相が変わってしまったのでしょうが。


「音楽好きの肉屋」
お洒落なパリだけではなく、庶民の生活を切り取ったような写真も。
ドロドロに汚れたエプロンを掛けたまま、アコーディオンに聴き入る肉屋さん。

長らく憧れていたパリの街では、実際にはスリに遭ったり、微妙に差別的なサービスを受けたり、今も路上は汚れていたりトイレは壊れていたりと、決していいことばかりではなかったのですが。
それでも年月が経てば、あの美しい街並みばかりが思い出されます。


「ル・プティ・サン=ブノワのマルグリット・デュラス」
あの性に奔放な女性が主人公の「愛人」を書いたデュラス。
この写真を見ると、結構普通のおばちゃんだったのね。


見出し写真、ポスターにもなってる「サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ」は、デビュー前、まだ無名だった頃のグレコに遭遇した時の写真だそうです。
愛犬デビもいい顔をしている。
サン・ジェルマン・デ・プレ教会をバックに長い睫毛を伏せたグレコの、この写真が一番好きです。


ドアノー写真展 

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今からでも遅くない

2021年02月23日 | 社会

SNSの友人が、朝日新聞の「悩みのるつぼ」の記事が面白かったと紹介していました。
70代の男性からの相談。
50年来の友人とは、大学も会社も一緒で仲良くして来た。
リーダー格の友人は会社でも出世したが、自分は中間管理職どまり。
定年後も大学のOB会で彼は会長、自分は副で彼を支えて盛り上げてきたのに
役員改選時に、彼は自分ではなく他の人を指名した。
自分はショックで友情は消え失せ、OB会も退会。
彼はその後病没、自分はいまだに気持ちの整理がつかないがどうしたらいいのだろうかというもの。


朝日新聞では、上野千鶴子女史が回答。
 男はそんな風に一生マウンティングしあって、序列を確認しながら生きていくのか。序列のもとで強烈なライバル意識を持ちながら、尽くし尽くされる男同士の関係が「男の友情」であるのか。
日本の企業はその競争意識を人事に利用して上手くやってきた、その人事管理術がこの男同士の嫉妬のコントロールにあるとしたら、女がそこに入っていけないのは道理である、と。
乱暴にまとめるとそんな感じです。


そして友人は、この相談は他の新聞にも投稿されたそうだが、他の回答をご存知だったら教えてくれと。
私も2週間ほど前に、読売新聞で読んでいたのです。
”回答は、意外なものでした。
 相談者はその友人に感謝すべき、彼はあなたの資質を見抜いていたのだろうと。
 詳細は覚えてないのですが、そんなものだったと思います”
とコメントしました。


その後気になって、古新聞の中から探し出してみました。
出久根達郎氏の回答をまとめると
”友人はあなたのことをよく理解していたと思います。
 あなたの本質や力量、性格や才覚、長所短所をわきまえていたから、あえて推挙しなかったと私は取ります。あなたに恥をかかせたくなかった。これぞ友情ではありませんか。
 あなたは、友の真心に感謝しなくてはならない。あなたは良い友人を持ちながら、友人の素晴らしい所を学ばなかった。
 今からでも遅くありません。人に尊敬される方の、せめて立ち居振る舞いを見習ってみてはいかがでしょう。”


私のいい加減な記憶も、あながち間違ってはいませんでした。
男のマウンティング社会を笑い飛ばした上野氏。
70代の男性に対して、今からでも遅くない、自分の器を自覚せよと言った出久根氏。
この相談がヤラセであるかもしれないということは、もうどうでもよくなりました。
いや、面白い…
 

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大きな切り株

2021年02月22日 | お出かけ

春のような陽気に誘われて、久しぶりにタロウを連れて代々木公園に行って来ました。



大きな切り株から、2頭のレトリバーが生えていました。
タロウも参加させたかったのですが(レトリバーの飼い主さんからどうぞと言われた)、犬嫌いのタロウにはとっても無理。
レトリバーがいなくなってからようやく乗せてみたら、こんなに大きな切り株だったのね。



河津桜は満開。
木によっては、もう葉桜になりかけていました。
見上げるほどに大きなミモザも、こんなに綺麗。



公園の中に、メキシコのケツァルコアトゥル(風の神)の像がありました。
メキシコの大統領夫人来日記念として、1990年にメキシコ政府より贈られたものと小さく書いてありました。



羽毛のあるこの蛇の神はマヤ文明ではとても重要な立ち位置で、それを祀るピラミッドまであったのに、代々木公園では何のこっちゃ?という感じで、じっくり見る人もいないようだったのがちょっと残念。
メキシコの人がこれを見たら、喜ぶのかもね。



原宿まで歩いて「THE GREAT BURGER」のベーコンチーズバーガーとコーンビーフサンド、自家製レモネード。
アメリカン・スタイルのこのお店は、犬連れ可なのです。
タロウもポテトを少々、お相伴しました。


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この違い

2021年02月21日 | 社会

全豪オープンテニス女子決勝、オオサカナオミ選手優勝おめでとう!
胸がすくような試合運びでしたが、私が一番驚いたのはその試合環境。
大勢の観客が、割れるような声援を飛ばしている!
このコロナの時代に!?

ちょっと調べてみたら、試合が行われたメルボルンでは5日間のロックダウンが18日に解除されたのだそうです。
観客席は半数に減らし、会場には消毒液をそこら中に置いたのですって。
昨日の時点で、オーストラリアのコロナ感染者数は28,920人、死者909人。
ちなみに日本は421,967人、7,274人。



下のサイトによると、オーストラリアでは2020年3月20日以降、海外からの全ての入国を禁止(オーストラリア市民および永住者を除く)。
オーストラリア市民および永住者は、到着日から14日間は強制検疫施設に隔離されるのですって。
1月22日より、オーストラリアへの渡航者は、出発前に新型コロナウイルスの検査を受け陰性でなければならない。
かたや日本は、2020年12月28日から2021年1月31日までの間、海外からの外国人の新規入国を原則拒否。
ええ?
1月いっぱいでこれ、解除されちゃったの?
しかも自国民および永住者の帰国後の隔離についてのチェックなし、罰則なしのゆるゆる措置はご承知の通り。
これじゃあねえ…



写真は、陽気に誘われて歩いた住宅街の中の緑道。
サイモン&ガーファンクルの冬のなんとかという歌があったねと夫に言うと、「冬の散歩道」と即答。
同世代というのはこういう点、ありがたいです。

オーストラリアのコロナウィルス最新情報


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春の味

2021年02月20日 | 家庭料理

「俺のベーカリー」のクロックマダムと自家製レモネード@恵比寿ガーデンプレイス。
クロックマダムは目玉焼きがのっかっているのが多いのに、これはちょっと珍しい。
こちらの三越とガーデンシネマが、今月いっぱいで休館になってしまうのはなんとも寂しい思いです。




コロナ以降、質素な居酒屋メニューが多い我家です。
スペシャルは奥の小皿、蕗味噌。
蕗の薹20個ほどで作ったのに、こんなにちょっぴりになりました。
多くても少なくともかける手間は同じなのになんだか損した気分ですが、ほろ苦い春の味がしました。
アサリの味噌汁と納豆でご飯を。



今夜はちょっとお洒落な一品がメイン。
生ホタテとゆでたエビ、アボガドを、ネギ、生姜をゴマ油で炒めたのに塩麹を加えたソースで和えます。
牛肉は塩コショウ、ニンニクでシンプルに焼き、トウモロコシと菜の花の辛し和え。
小鯵の南蛮漬けを添えて。

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孤独という名の

2021年02月17日 | 社会
昨日2月15日の東京の新規感染者は266人、全国は965人で、千人を切ったのは3か月ぶりなのだそうです。
今日の東京は378人で少し増えたとはいえ、11日連続で500人以下なのですって。
しかもワクチン接種が今日から始まって、希望の光がようやく見えてきたような…

「六畳間のピアノマン」というテレビドラマを観て、あまりに懐かしくて久しぶりにビリー・ジョエルの歌を聴いてみました。
2006年の東京ドームでのライブ。
数年前にポール・マッカートニーのライブで東京ドームに行った際の、5万人の観客が酔いしれる、あの熱気を思い出しました。
観客全員が立ち上がり、ウェーブを起こし、そして合唱する。
コロナ禍の今では考えられない光景。
しかもこの詞、改めて聞いてみると、実に何でもないような内容です。


”Sing us a song, you're the piano man
 Sing us a song tonight
 Well, we're all in the mood for a melody
 And you've got us feelin' alright

 they're sharing a drink they call loneliness
 But it's better than drinkin' alone
 Sing us a song, you're the piano man

 歌ってくれよ、ピアノマン
 今夜は俺たちのために歌ってくれ
 みんな何か聴きたい気分なんだよ
 あんたのお陰でいい気分になってるのさ

 みんな孤独という名の名の酒を共有し合ってる
 でも独りで飲むよりはずっとマシだよ
 だから歌ってくれよピアノマン 俺たちに”

この歌に出てくる情景。
小さなバーの中のピアノ弾き、常連の客たち、バーテンダーとの駆け引き。
そういったシチュエーションも、コロナ禍の今だったら絶対にあり得ない。
コロナってつくづく人間関係を分断させるものですね。

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差がありすぎ!と「52ヘルツのクジラたち」

2021年02月15日 | 

春の緊急事態宣言下に買ったGlidicのワイヤレス・イヤフォン。
毎日一時間ほどのタロウの散歩時に重宝していたのですが、何しろ落ちやすい。



で、ダイソーでワイヤー付きのイヤフォンを買ってみました。
こんな値段で聴けるの?と思いながら試してみたら、ちゃんと聴こえる。
しかし。
タロウの散歩の際に装着して、パンツの後ろポケットにスマホを入れたら聴こえない。
ダウンのポケットに入れても駄目、手に持ったスマホの向きを変えても駄目。
結局、一定の位置と角度に決めて、片手にスマホを捧げ持たないと聴こえないことが判明。
Glidic7千円とダイソー300円では、差がありすぎたか…




52ヘルツの鯨というのは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴くという鯨のことだそうです。
沢山の仲間がいる筈なのに、自分の声を永遠に届けられない、孤独な鯨。
親に虐待されて育った女性キナコと、母に虐待されている少年ムシの物語。
虐待されている子供は、そのことを外に訴えることができない。
その少年の声なき声を、同じ体験を持つキナコは必死に聞き取ろうとする。
「わたしはあんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ」
今時の社会問題を、ラノベ風にさらりと書いているところに好感が持てました。
「よそもん」キナコへの、田舎特有の剥き出しの好奇心も面白い。
心に傷を負って東京から大分の海辺の村に引越しした若い女性を、地元住民は想像逞しく噂するのです。
「元風俗嬢」と見なし、あまつさえ若いのに仕事もしないとは何事だと説教しようとする。
キナコが関わった男のおばあちゃんなど、味方につけてしまえばこんな頼もしい存在もないのだけど。
良くも悪くも、田舎の人間関係は濃密ですね。

「52ヘルツのクジラたち」 


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