実話から作られたという映画「ウェイバック」、こんなことが本当にあったのか!?
どうにも気になって、原作をamazonで取り寄せてみました。
「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」
スラヴォミール・ラウイッツが口述し、ロナルド・ダウニングが著したという
1956年出版「The Long Walk」の、海津正彦による翻訳本。
「発刊から50年、いまなお読み継がれる冒険ノンフィクションの白眉、
世界25カ国で翻訳されている 」(amazon)ということですが…
映画と違う点はまず、ソ連警察による拷問の様子が克明に書かれているということ。
ポーランド陸軍騎兵隊中尉だった著者ラウイッツは1939年、ソ連当局にスパイ容疑で逮捕され、
カルコフ監獄で一年に渡って過酷な取り調べを受けるのです。
「キシュカ」という、立っているだけがやっとの煙突のような細長い独房に入れられ、
糞尿は垂れ流し状態(一度も掃除されなかったという)、ここに6カ月。
その後、ここに書くのも憚れるような様々な拷問を経て、
裁判の結果は「25年の強制労働」。
家畜列車にぎゅうぎゅうに押し込まれ(一車両に60人)
ここでも身動きできず、立ったまま排泄しながら3週間。
貨車から降ろされた後、2ヶ月に渡って鎖に繋がれながら雪の中を1500キロ歩き、
そうしてシベリアの第303収容所に着いたのでした。
ここからの脱出、そして逃亡の様子は、概ね映画と同じです。
映画の登場人物には多少、脚色が加えてありますが、
驚いたことに、17歳の少女との出会いとその死も、本当に出てくるのです。
少女が集団農場から逃げてきた経緯が映画では省略してありましたが
要するに性的虐待から逃れてきたらしい。
極寒のシベリア、灼熱のゴビ砂漠、厳冬期のチベット。
飢えと渇きと寒さと暑さに何度も死にかけながら、
実際に次々と仲間を亡くしながら、ひたすら南を目指して歩いて行く。
芋虫や蛇を食べながら、凍傷や脚気や日射病に苦しみながら
それでも人間性を失わず、仲間と励まし合いながら。
モンゴルの、或いはチベットの素朴な人々から受けた精一杯のもてなしが
映画では省略されていたのが残念です。
面白くて夢中で読み終わりましたが…
しかし、面白すぎて疑問が残る。
こんなことが本当にあり得るのか?
何の装備もなく、極寒のシベリアや灼熱のゴビ砂漠や厳冬期のヒマラヤを
踏破できるものなのか?
ネットで検索してみたら、やはりフィクション疑惑があるそうです。
最終的に著者ラウイッツを含めて4人が生き残ったのに、
他の生存者の証言がまるでないこと。
雪男との邂逅など、話ができすぎていること。
イギリスBBC放送のニュースによると
ラウイッツがインドにたどり着いたと主張している1942年に
ソ連の強制収容所から恩赦で釈放されたと自分で書いている記録もあるのだそうです。
"Rawicz's own hand described how he was released from the gulag in 1942, apparently as part of a general amnesty for Polish soldiers."
(BBCnews)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/6098218.stm
何が本当なのかは皆目分かりませんが
ラウイッツというポーランド人がソ連の強制収容所で耐えがたい経験をし、
その後イギリスで結婚して幸せな家庭を持ち、
体験談の講演活動をしながら祖国ポーランドの孤児院の運営を援助し、
2004年に88歳で亡くなったことは事実のようです。
「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち」
http://tinyurl.com/kzcbpoz