1960年代のイタリア。詩人・劇作家で蟻の生態研究者でもあるブライバンティは、教え子の青年エットレと恋に落ち、ローマで一緒に暮らしはじめる。しかし2人はエットレの家族によって引き離され、ブライバンティは教唆罪で逮捕され、エットレは精神病院へ送られてしまう。
同性愛の許されない時代に恋に落ちた詩人と青年を巡る「ブライバンティ事件」の実話を基に描かれた作品。
その時代、ムッソーリは「同性愛者はイタリアにはいない」と言ったのだそうです。
ブライバンティは、伝統的な家族の価値観を腐敗させ、若者を教唆したという罪で裁判にかけられる。
エットレは精神病院に入れられ、同性愛の治療と称して電気ショックを受けさせられる。
その電気ショックたるや…
裁判に出廷したエレットの姿を見て驚きます。
元気溌剌としていた美少年が、ゲッソリとやせ衰え、目はうつろ、歩くのも覚束ない姿に変わり果てている。
イギリスの天才数学者アラン・チューリングが同性愛で50年代に逮捕された事件を描いた「イミテーション・ゲーム」にも驚きましたが、この時代にまだそんなことが行われていたのですね。
ブライバンティの老母は、息子のことで町中から非難され、ひっそりと亡くなります。
ブライバンティが哲学者でもあったことから仕方ないのかもしれませんが、哲学的、観念的な会話が交わされて、結構冗長な作品でもあります。
それでもふんだんに差し込まれる、光に満ちたイタリアの田舎の光景が美しい。
それに引き換え、個性や多様性を認めない社会の恐ろしさ。
今も尚、同性愛というだけで死刑になる国があるということに、戦慄を覚えます。
「蟻の王」公式HP