武士の格式を保持するための”身分費用”の内、交際費と雇い人への給金の費用が多くを占めています。
まず、交際費の多くは、親類縁者への儀礼行事の費用です。
百姓町人にも年中行事や儀式もあったのですが、武士の場合は、年中行事や儀礼を盛大にに行うことが身分の証しであり、社会的に、そうしなければ不都合が生じるのです。
武士の付き合いは、親類や同僚、上司、部下や雇い人などに、歴代の当主がしてきたと同じようにしなくてはなりません。
端的に言って、ええかっこをしたのです。
農民がムラや本家・分家の関係のなかで生きてきたように、武士も「親族の世界」に生きてきたのです。
むしろ農民より親類関係は強かったのです。
武士は、日頃から親類関係を濃密に保っておく必要があったのです。
「親族の世界」は、婚姻や養子を通じて生じる縁戚関係によって形成されることが多いのです。
普通の武士の日常生活は、嫁、養子のやりとりで形成される「血の濃い親族」のほうが重要なのです。
武士が親族関係を重視する理由は多くあります。
まず、親族関係にはお金で繋がっているからです。
武士の金融は親類関係に大きく依存していました。
内情を知った者同士であればこそ金融取引のリスクは小さくなるからです。
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また、武家社会では、情報や教育の面でも親族は重要でした。
親族関係は、同じ格式俸禄の似通ったもの同志で形成されています。
当時の平均寿命は短く、当主が早死にすることが多く、残された遺児が家督を継ぐために、その教育やしきたりを伝授するのは、親戚であり、たとえ成人していても親族の助言や後見は重要で、その家の存続にはかかせないものなのです。
まして、男子が生まれなかったとすれば、養子をとらなくてはならず、その養子をとるにしても親族の同意が必要なのです。
親族は運命共同体であり、コミュニケーションは欠かせなかったのです。
これらのことを見越して、常日頃から親族を大事にすると同時に、親族に多額の交際費が使われたのです。
交際費と同時に多額の費用は、これも身分を保つために雇い入れた家来や下女の給金です。
これについては、後日に・・・・・