極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

金魚草と愛しき常夜鍋たち

2009年01月23日 | 創作料理


ふわふわと寒に漂う金魚草 英語の意味を問うきみに似て


きみはグルメかと聞かれればたぶんそうだろうと答えるだろう。わたしは
素晴らしい先輩や上司に恵まれたと思っている。上品かというとかならず
しもそうではないが、諧謔で機智に富んだそうした先輩達の多くは、酒好
きでグルメだった。そうして学んだことは、職域や地域と家庭のその中間
にちょっとした美味しい小料理屋があれば人生の大半の幸福が実現でき
たのと同じだという確信が育った。だから職域の後輩達にも結構お金に
糸目をつけず辛くて疲れる仕事の帰りに気の利いた小料理屋に立ち寄っ
たものだった。但し、酒に呑まれれないことは心がけたが・・・




シチュー鍋に背中を向けた瞬間に白い巻き毛の天使がこぼれる
 
                       北川草子/歌集『シチュー鍋の天使』


そのなかでも印象に残っているのは近江しゃも(軍鶏)の常夜鍋で、じ
ょうやなべ、じょうよなべ、とこやなべとよばれるものだ。通常、豚肉、
ホウレンソウ(または小松菜)、白菜を具の中心にして、水を張った鍋
に昆布を敷き、日本酒を入れた出汁に、豚肉、ホウレンソウ(または小
松菜)、白菜を入れて煮込む。決まったレシピはなく、牛肉や鶏肉、シ
イタケや豆腐、春雨を入れても美味しい。水を使わずに、清酒のみで
煮る場合もある。いつ頃からあるのか不明だが、起源の一説として旧
制高校の寮生がはじめたというものもある。脚本家の向田邦子の好
物だったといわれるが、豚肉を使用することから豚しゃぶ、豚ちりと呼
ばれる事もある。常夜鍋の名は、毎晩食べても飽きないとされるところ
から名付けられた。


白菜のお鍋が好きと貧しき日 芯まで食べる吾を笑いぬ

冬深し豚肉 豆腐 えのきだけ白菜加えて今夜は土手鍋

寒い日は白菜鍋で温まり 湯気の向こうの君と語りて

キムチなべ食べたいという人来たり 入れる白菜美味なる自家製

@乙女短歌会


摂取カロリーが配慮できていればなんでもいいということになるが、オ
リーブオイルを加えればイタリアンにもなるし、ちくわ等の練り物や牡
蛎やベーコンなども構わないし、豆腐や薄揚げだけの野菜鍋でもかま
わない。たれもヨーグルトやココナッツミルク、キムチの素など工夫の
余地はまだまだ残されている。



ところで、近江しゃもは、シガポートリから仕入ニューハンプシヤー種雄
(早熟性・産肉性良)と横斑プリマスロック種雌(産卵性良・肉質良)を交
配させ。さらに、しゃも種雄(ニワトリの中で肉質最高)を掛け合わせたも
ので1993年に滋賀県産地鶏として誕生した。開放鶏舎に平飼いして
いるのでのびのびと育ち、若鳥の3倍にあたる160
日間飼育。じっくり
と育てているという。わたしは大腸菌の抗生物質アレルギーを持ち肉質
により覿面に反応するのでよく分かる。肉質はきちきちと噛み心地が良
く味にコク(濃く)がある。




へぎ柚子のただ一片で冬の夜の鍋は豊かな香りを放つ


料理はシンプルで土鍋に銘柄はどんなものでもかわないが出汁昆布を
入れ、日本酒(鬼ごろし、金亀)を豪快にほりこみ沸騰させアルコール
を飛ばし後、水炊きの要領でしゃも肉(もも)と野菜(ホンレンソウ、小
松菜または白菜)等をいれ煮込みたれをつけ食べる。具には、薄揚げ、
豆腐、水煮里芋などをいれる。最後に、具を取り除きコンソメを加え、
中華そばをいれて煮込み、取り出して胡椒を振りかければ旨い出汁が
効いた締めのラーメンとなるがこれは格別だ。



黒松 金亀 岡本本家

浅草の駒形どぜうの鍋囲み昼ながら飲む花見を前に  奥村晃作/歌集『蟻ん子とガリバー』


岡本本家の金亀はお勧めだが、要は酒の旨味があればいい。斯くし
て、今夜は鍋づくしとなった。ある意味ではこれは‘団’と‘暖’の取れる
日本的なファースト・フードであり、摂取カロリーはラーメン分を除いて
250Kcal(60歳の基礎代謝は2300Kcal/日、これは男性用茶碗で
8.8杯のご飯に相当)で「ZONE理論」(食事のエネルギー比率を「炭
水化物4、たんぱく質3、脂肪3」の割合で摂取するもの)にも合いそうだ
し、栄養学的にも合理的な食事だと思える。それに、冬場だけでなく、
夏鍋もあり一年を通して食することもできるので、『すし革命』の次は世
界に『鍋革命』を起こそう。

2008夏鍋

 




キンギョソウ(金魚草 Antirrhinum majus)はゴマノハグサ科(APG分類
体系ではオオバコ科に入れる)キンギョソウ属の植物。南ヨーロッパと
北アフリカの地中海沿岸部を産地とする金魚の養殖で有名な愛知県
弥富市の市の花にもなっているが、花言葉は「でしゃばり」と金魚だけ
にギョットする。冗談はこれぐらいにしておき、別に金魚が浮遊してい
るわけではないが、冬の日差しがある居間とはいえ寒い。そんな午後
のゆったりとした時間帯に家内は英会話教室の宿題をし、わたしはパ
ソコンに向かいブログを書いているというワン・シーンをコミカルに隠喩
を伴い歌ったものだが、実際に部屋には金魚草は存在していない。


ぬばたまの 夜の片隅に いる吾は せつせせつせと 鍋洗いおり

鉄かぶと鍋に鋳直したく粥のふつふつ湧ける朝のしづけさ  土岐善磨/歌集『夏草』

 


 







 

 


 

コメント (2)
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