【加工食品新時代とアミノ酸発酵】
テレビを観ている、加工食品のランキング競争や製造現場のビデオレポート番組が盛
んに行われているに気付く。そこで、今夜はアミノ酸発酵について考えてみた。アミ
ノ酸発酵は日本のオリジナル技術として開発され、今や世界のアミノ酸供給に甚大な
貢献をもたらしている。いわずとアミノ酸とは、同一の分子内にアミノ基(NH2)と
カルボキシル基(-COOH)を持つ化合物の総称。アミノ基とカルボキシル基が結合す
る炭素原子の位置によって、a、β、yなどのアミノ酸があるが、天然のタンパク質の
構成成分として存在するのはa-アミノ酸である。一般式R-CH(NH2)-COOHで
表示され、Rの違いによる20種のアミノ酸がある。アミノ酸にはL体とD体があるが、
タンパク質を構成するアミノ酸はすべてL体で、発酵法で作られるものはL体である
ことは余り知られていないのではないだろうか。また、化学合成法で得られるものは
DL(ラセミ)体で、L体に変換するには光学分割という工程が必要になる。
アミノ酸の機能用途上の呈味効果として、よく知られているのはグルタミン酸ナトリ
ウム(Monosodiumglutamate: MSG)で、1908年に池田菊苗によってコンブのうま味成
分として発見され、鈴木三郎助によって「味の素」として商品化された。アスパルテ
ームは甘味料として販売されている。また、栄養効果として、アミノ酸輸液や経腸栄
養剤は血漿、卵白等のタンパク質の組成に合わせてアミノ酸を配合した栄養剤である。
大きな市場があるのは飼料添加剤で、飼料用穀物は栄養的に貧弱であるが、リジン、
メチオニンなどの補添によって栄養効果が大幅に高められる。また、薬理的な効果か
ら肝疾患治療薬、消化器潰瘍治療薬などに活用されている。また、アミノ酸の反応性
を利用して医薬品や界面活性剤などに広く活用されているのが現状。
さて、アミノ酸の製造法には、(1)タンパク質分解法(2)化学合成法(3)発酵
法(4)酵素法の4法があり、目的とコストに合わせて使い分けられている。チロシ
ン、システインなどはタンパク質分解法、DL-メチオニン、グリシン、DL-アラニンな
どは化学合成法、グルタミン酸、リジンなどアミノ酸の過半は発酵法、アスパラギン
酸、アラニンなどは酵素法で作られ、世界の生産量は、うま味調味料としてMSG、約
240万トン、飼料添加剤として200万トン以上(リジン約120万トン、DL-メチオニン約
70万トン、スレオニン約15万トン)、医薬用アミノ酸類は2.5万トン(2010年推定)であ
り、代替物がないため今後も需要増が見込まれている市場だ。
そこでアミノ酸発酵方法としては、(1)菌株のスクリーニングと育種(2)生産株
の大量培養(3)培養液から分離と精製、および(4)培養と分離精製の4つの要素
技術で構成される。「味の素」事業の成功により多くの企業がMSGの生産を企図したが、
タンパク質分解法では、原料高と濃塩酸を使用するため大量生産には適さず、また、
コストダウンに限界があり、新技術の開発が要請され、化学合成法と発酵法からアプ
ローチされた。前者は、アクリロニトリルを原料とする方法が昧の素㈱で開発、工業
化されたが、1973年に中止。コスト的に発酵法に及ばなかったことにもよるが“化学
合成された食品"が消費者から拒否されたことが大きい。一方、発酵技術の基盤となる
科学と技術の面で、アミノ酸の生合成と制御に関する生化学的・分子生物学的な研究
が広がるほか、1940~50年から始まった抗生物質生産研究の全盛時代にあり、徹生物
のスクリーニングが活発に行われると同時に、DNA、RNAの機能解析や突然変異
株の取り扱いなど、微生物遺伝学に大きく進展する。そこで、協和醗酵工業㈱が1956
年に、グルタミン酸の直接発酵に成功。グルタミン酸生産菌 Micrococas glutamicus
(のちに Corynebacterium glutamicum と改名)が、乳酸菌を用いるバイオアッセイ
の応用でスクリーニングされた点に特徴があった。培養法が確立され、安価なダルコ
ースを原料とする画期的な(1)グルタミン酸発酵が誕生し、続いて(2)栄養要求
変異株を用いたアミノ酸発酵(3)アミノ酸アナログ耐性変異株を用いるアミノ酸発
酵(4)遺伝子工学技術によるアミノ酸発酵の改良(5)酵素法によるアミノ酸生産
などとして発展する。アミノ酸発酵の技術は日本で生まれたが、原料立地のため、国
内での生産はほとんどなくなる。技術の海外展開は協和醗酵では技術輸出を中心に進
められたが、不成功のケースが多かったのに対して、味の素では原料生産地での工場
建設を中心に進められ多くが成功を収め、現在の世界のMSG(グルタミン酸ソーダの
略)工場は中国、タイ、インドネシア、などの東南アジアを中心に、ブラジル、さら
に欧米にも分布している。中国は生産、消費量ともに、全体の1/3を占める大国であ
る。大きな未開拓の市場はインドとアフリカ大陸である。飼料用アミノ酸工場は畜産
業の盛んなアメリカ、ブラジル、フランス、中国が中心、医薬用アミノ酸はアメリカ
中国が中心である。
さて話は、アミノ酸の製法に関連する科学と、科学に由来する技術、これらの技術に
よるアミノ酸の製法と生産の開始時期を時系列的にまとめて展開図を上に示し(1)
菌株育種(2)新しい発酵(3)培養法(4)環境問題(5)ペプチドなどのへの新
しい展開をパノラマにした。このようにアミノ酸発酵工業は名実ともに日本のリード
で世界に広がった産業である。代替品がないので、アミノ酸の需要は今後も増えると
考えられている MSGの安全性には問題がないことが、なお、有害説が広がってい
る一方で、最近のNHK“クローズアッブ現代’でも取り上げられたように、欧米の
シェフの間で“うま味¨を重要視する傾向が強まり広がっている一方、飼料用アミノ
酸では豚や鶏のほかに、反芻胃を持つ牛や羊に使用できる方法や製品が開発されれば、
さらに需要が期待されると期待されており、トップランナーとして研鑽を怠らなけれ
ば日本の世界的貢献の立ち位置は不動のものと確信する。
【頑張ってる多結晶シリコン系太陽電池】
昨日から最新の各太陽電池の製造技術の新規考案の棚卸しを行っているが、そのなか
でシャープ社の「多結晶シリコンインゴット製造装置、多結晶シリコンインゴット、
多結晶シリコンブロック、多結晶シリコンウエハ、多結晶シリコン太陽電池、多結晶
太陽電池モジュール」(特開2013-116845)が目を引いた。つまり、多結晶シリコン太
陽電池向けウエハは、一般的にキャスト法で製造されているが、坩堝内で溶融シリコ
ンを一方向凝固させて多結晶シリコンインゴット(インゴット)を成長させた後、イン
ゴットからブロック状に切り出して、さらにスライスすることによりウエハを作製す
るが、インゴット内のどの高さから取り出されたかによって、太陽電池を作製した際
の特性にばらつきが問題になるというのだ(上図参照:図12は、ウエハが取り出さ
れたインゴットにおける高さ方向の位置と、そのウエハから形成された太陽電池の出
力との一般的な関係を示すグラフ(下図参照)である。なお、上図は、縦軸に太陽電
池出力、横軸にウエハが取り出されたインゴットにおける位置を示すが、太陽電池出
力のばらつきの原因は、溶融シリコンを一方向凝固させた際の初期の段階で凝固した
インゴット下部の領域Iにおいては、坩堝からシリコン結晶内に多くの不純物が拡散
している。その不純物の影響によって、領域Iから取り出されたウエハから形成され
た太陽電池の出力特性が低下する。領域Iの上部に位置する領域Ⅱにおいては、偏析
により、結晶中に取り込まれる不純物量は少量で、結晶欠陥も少ない。領域Ⅱから取
り出されたウエハから形成された太陽電池の出力特性は、インゴット中またはブロッ
ク中において最も良好となる。領域Ⅱの上部に位置する領域Ⅲは、徐々に結晶中に取
り込まれる不純物量が増加とともに結晶欠陥が増加する。そのため、領域Ⅲから取り
出されたウエハから形成された太陽電池の出力特性は、領域Ⅱから取り出されたウエ
ハから形成された太陽電池の出力特性に比較して低下する。 領域Ⅲの上部に位置する
領域Ⅳは、領域Ⅲよりも結晶中に取り込まれる不純物量が増加とともに結晶欠陥がさ
らに増加する。インゴットが完全に凝固した後に、インゴットの最上部の表面部分に
現れる不純物の高濃度部分から、不純物の逆拡散が起こり、結晶中に取り込まれる不
純物量がさらに増加する。領域Ⅳから取り出したウエハから形成された太陽電池の出
力特性は、領域Ⅲから取り出された太陽電池の出力特性がて顕著に低下する。
結晶欠陥が発生する原因は、インゴット中の温度分布に起因する応力であると考えら
れ、応力が特に大きな場合、インゴットに割れなどが発生、インゴット中の温度分布
の制御が重要で特に結晶成長時の固液界面を平坦化することが望ましい。坩堝側方に
ヒータを有する多結晶シリコンインゴット製造装置では、インゴット割れおよび結晶
欠陥の発生が抑制可能で、廉価で安定して製造可能な、多結晶シリコンインゴット製
造装置、多結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンブロック、多結晶シリコンウエ
ハ、多結晶シリコン太陽電池、多結晶太陽電池モジュールが提供できる。
【符号の説明】 1,2,3,4,5 多結晶シリコンインゴット製造装置、10 筐体、11 開口、12
排気口、13 ガス供給管、20 坩堝、21 収納容器、30 ヒータ、40 載置台、41 側面、50,
50a,50b,52 断熱板、51 カーボンフェルト、60 中蓋、60a 天井部、60b 側壁部、60c
底部、61 加熱領域、70 駆動部、71 支持部、80 溶融シリコン、90 冷却部
そのため、多結晶シリコンインゴット製造装置を、溶融したシリコンを下方から上方
に向けて一方向凝固させることで、多結晶シリコンインゴットを成長させる多結晶シ
リコンインゴット製造装置とし、多結晶シリコンインゴット製造装置は、坩堝と、坩
堝の側方に位置するヒータと、坩堝を支持する坩堝支持部材と、坩堝の側面部とヒー
タとの間に介在する断熱部材とを備えた構造とすることで出力品質を一定にすること
ができるというもの。これはパネルメーカだけではなく、材料メーカの領域に渡り問
題を解決するという発明であり、わたしの興味を惹くこととなった。
※それにしても、膨大な知財情報量を前に四苦八苦し消耗する状態が当面続く。^^;
東京電力福島第一原発事故発生時の所長吉田昌郎が昨日都内の病院で死去したという。
ネット上でもあれこれと取り立たされているが、事故の当事者でありそのストレスは
想像を絶したところにある。当時の緊迫した心情が思い出されたが、事態の予測の困
難さとは別にテレビでの取材て結構頼りがいのある方と思って看ていた記憶が残って
いる。結果的にいえばこの範囲に押さえ込んだのも彼の力量によるものだろう。後世
のためにも聴き逃したものが多いように思われるが、それも詮無い話となった。事故
現場はいまも観測用井戸から極めて高い値の放射性セシウムを含む地下水が検出され
ているように、破壊された原子炉の現状が把握されておらず、何らかの突発性の災害
や事故が発生すればチェルノブイリ事故規模を上回る災害が誘発されてしまう可能性
も残されていると考えている。今回のこの訃報は有る程度予測していたことだとはい
え「薄氷の上に築かれた墓標」として改めて心得た。
合掌