A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【今を生きる地下音楽の至福】Naoki Kasugai(春日井直樹):『film:music』『SCUM TREATMENT Vol.2』『Walk』

2019年07月06日 02時24分03秒 | 素晴らしき変態音楽



地下音楽のごくつぶし(スカム)が雌伏して私腹を肥やした至福の年月を紙幅が尽きるまで書き連ねたい

2018年4月にリリースされた名古屋在住のミュージシャン春日井直樹のアルバム『DADA 1981』は、彼が1981年、高校生の時に録音した音源だった。14ヶ月後の2019年6月末、春日井の最新録音アルバムが2作同時リリースされた。それをレビューしようとパソコンに向かっていると、1981年から2019年の間の38年のタイムスパンが脳神経を痙攣させ、キーボードを叩く指の縺れが誘発される気がする。

些か(というか全くの)脱線するが、読者に馴染み深いと思われるジャズ・ミュージシャンに譬えれば、筆者が38年の歳月に逡巡する理由が少し理解していただけるかもしれない。オーネット・コールマンのデビュー作『Something Else!!!! 』は58年、38年後の1996年は『Sound Museum: Hidden Man』と『Sound Museum: Three Women』の2作をリリース。マイルス・デイヴィスのソロ・デビュー作『The New Sounds』がリリースされたのは1951年、その38年後の1989年にリリースされたのは『Amandla』と『Aura』の2作であり、その3年後の92年に 最終作『Doo-Bop』を残してマイルスは他界してしまう。サン・ラのデビュー・アルバム『Jazz by Sun Ra』が1956年、38年後の1994年を迎えることなく、93年5月にサン・ラは没してしまう。ジョン・コルトレーン『Coltrane』(57)、エリック・ドルフィー『Outword Bound』(60)、アルバート・アイラー『Something Different!!!!! 』(60)に至ってはデビュー作から38年後には天国に召されていた。

一体何が言いたいのか、とうとう頭が狂ったのかと当惑される読者もいると思うが、最初の作品から40年近くの間、制作意欲を失わずに音楽を作り続けることは、並大抵のことではない。死や病に蝕まれる危険もあれば、意欲や気持ちが失せてしまう可能性もある。マイルスやオーネットのような世界的評価を確立したミュージシャンなら兎も角、地下音楽の沼の最深部にひっそりと暮らす山椒魚のような異端音楽家の場合、40年間表現・創作活動を続けるためのモチベーションは一体なんなのだろうか。「世界への怒り」か「死への恐れ」であろうか?もしくは「承認欲求」や「破戒勧告」かもしれない。頭の中で沸騰するモチベーションの気泡がパチンと弾ける度に、破裂音が大脳皮質の皺で変調され、異常な周波数を伴う音波となって、シナプスを通じて、記憶の底の古傷がずきずきと痛み始める。

●Naoki Kasugai (春日井直樹)/ 「 film:music」

DAYTRIP RECORDS DTR-LP009
限定200枚アナログLP盤  定価税込2800円

架空の80年代映画音楽サウンドトラックアルバム。80年代のカセットテープ及び4トラックカセットMTRを使用して当時のサウンドを再現。NAOKI KASUGAIの架空の中で作られた存在しないインダストリアル映画の音楽集。全8曲。特典として2曲入りカセット付。(レーベルコメントより。以下同)

DD.Records時代の制作方法を採用し80年代インダストリアル音響を再現した作品。TG、CABS、DOME、DAFといった名前が頭に浮かぶが、筆者の脳裏に最も鮮明に浮かび上がったのは、大竹伸朗らによる音響ユニット19/JUKEの4thアルバム『SOUNDTRACK』だった。欧米のインダストリアルやジャパノイズよりも個人的に大きな影響を受けた19/JUKEを想起させる作品を耳にすることは滅多にない。春日井が意識したかどうかは分からないが、本能的に接近してしまう獣の習性に、同じ穴の狢の絆を感じてしまう。


●Naoki Kasugai (春日井直樹)/ 「 SCUM BTREATMENT vol.2」

DAYTRIP RECORDS DTR-LP010
限定200枚アナログLP盤  定価税込2800円

ジャケット及びインナーの全てがハンドメイドで作られ1枚1枚違うコラージュ・アートがほどこされております。全てが1点モノで同じジャケットは1枚もありません。NAOKI KASUGAIのスカム・ワールドがあなたの目と耳をレイプする。

破戒(破壊ではない)的な逸脱音響が奔流になって地下音楽の定めを蹂躙する潔さに魂が浄化される。具体音や電子雑音、断末魔の叫びや爆発音がコラージュされたカオスの中に、春日井のポップセンスが溢れ出すサイケデリック絵巻である。1枚1枚全て異なるハンドメイド・コラージュ・アートのジャケットを含め一期一会のレア感たっぷりの芸術作品。「スカム=灰汁・ゴミ・汚物・人間の屑・ごくつぶし」と称しているが、地下音楽愛好家にとってはスカム・ミュージックの神の福音に他ならない。雌伏する私腹の至福を祝福するしかない。

Naoki Kasugai / 「 film:music」「SCUM TREATMENT VOL.2」(ダイジェスト)

JazzTokyo Disc Review:#1616 『Naoki Kasugai(春日井直樹) / Scum Treatment Vol.2』

もう<元DD.Recordsの〜>とだけ呼ぶのは辞めにしよう。春日井直樹は今を生きる地下音楽の最高のごくつぶし(褒め言葉です)なのだから。

★購入・問い合せはDAYTRIP RECORDS公式サイトまで

スカム神
先立つ至福
恨みっこなし

●Naoki Kasugai (春日井直樹)– WALK series 2018 / mp3 data


2018年4月〜2019年6月の14ヶ月間に10枚ものアルバムをアナログ・オンリーでリリースした春日井の制作意欲は正直言って正気の沙汰ではない。その半分が過去の作品の再発とは言え、全てリマスターし、曲順を変えてのエディット作業は、新たにレコーディングするよりも労力と知力を必要とするに違いない。それらに加えて2018年11月7日〜12月7日の31日間毎日『Walk』としてカセットテープ作品をリリースし続けた。60分の散歩のフィールドレコーディングにドローン・アンビエント・ノイズ加工をした各限定1本の激レア作品だが、31曲31時間の作品を纏めたmp3discで販売されている。春日井言うところの『肉体のビート「足音」+「環境音」とアンビエント・ノイズの融合』は、真剣に対峙して聴くと気が狂うが、作業用BGMとして流し聴きしたら仕事の効率が上がりそうだ(ただし仕事の質は保証しない)。

naoki kasugai(春日井直樹): walk2018/11/14


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