浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

安保体制の歴史

2015-12-23 22:50:13 | 近現代史
 岩波講座の日本歴史第19巻に、吉次公介の「アジア冷戦のなかの日米安保体制」という論文があり、それを読んだ。いろいろ参考になったが、吉次は、当然のごとく、多くの人の研究をもとに論じているのだが、それらを読んでいて、参考にされている文献にあたらないと、にわかには信じられないという箇所が多々あった。やはり、一次史料にさかのぼらないといけないと強く思った。それは、山辺健太郎の常に言っていたことであるそうだが。

 アメリカは当初日本防衛を負う意思はなかったようだ。日本防衛は、1960年の安保改定で入れられたわけだが、そこから「安保ただ乗り」論や片務性が論じられるようになり、また「安保効用論」が池田勇人政権で主張されるなど、安保体制に関わる議論が、歴史的な経過の中でつくりだされてきたものであることがわかった。

 しかし在日米軍は日本防衛のために存在しているのではないことは、最近発売された春名幹男の『仮面の日米同盟』(文春新書)にも明確に記されていることであり、岸政権が安保に「日本防衛」を書き込んでから、アメリカの対日要求(対米あるいは「自由主義陣営」への貢献や日本の「防衛」強化)が強化されてきたように思える。となると、やはり岸の安保改定は、アメリカのための改定ではなかったかと思えてしまう。

 吉次は、「冷戦期のアメリカにとって日米安保体制とは、アジア戦略上の要請から日本に基地を確保し、できるだけ自由に使用する権利を手にするための仕掛け」と結論づけているが、では冷戦期以後はどうなのか。そんなに変わっていないのではないかと思う。ただ、「アジア戦略上」ではなく「世界戦略上」となっているくらいか。



 
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【本】中塚明『歴史家 山辺健太郎と現代』(高文研)

2015-12-23 00:07:28 | 近現代史
 直接ボクは、山辺健太郎という歴史家は知らない。しかし、岩波新書の『社会主義運動半生記』、『日韓併合小史』、『日本統治下の朝鮮』はいずれも読み、今も書庫に大きな顔をして鎮座している。というのも、ボクの朝鮮認識は後二者の本によって開眼させられたからだ。まだまだ近現代の朝鮮史に関しての本がない時代、この本はきわめて学問的に、そして人間的に近現代朝鮮史をまとめたものであったからである。それ以後、朝鮮史にかかわる本は、書庫にあふれんばかりになっているが、今でもボクの朝鮮認識をスタートさせた本として、新書ではあるが、堂々と鎮座しているのだ。

 『社会主義運動半生記』は、山辺が1926年の浜松日楽争議に参加していたことを知っていたので、それに関心を持って買ったものだ。

 歴史研究者から山辺健太郎の名は何度も聞いているが、しかし山辺自身について書かれた本は読んだことがなかった。

 中塚明という、山辺と同じ学問的な、且つ人間的な研究者が、山辺という人間の姿やその学問について紹介したこの本は、歴史研究者が読むべき本となるだろう。

 読み進めていて、力強さが伝わってくる。それは二重三重の力である。まず山辺という人の生と学問のそれであり、中塚の山辺を紹介したいという熱意であり、また一次史料にもとづく研究を推進してきた自信としてのそれが、読む者を引っ張るのだ。

 山辺は大学なんか出ていない。独学である。しかし独学ではあっても、その独学による知的水準は、はるか高く、とても仰ぎ見られることができないほどだ。

 「学問に学歴はいらないが、努力はいる」という山辺のことばはとても重い。歴史に関しては、ボクも独学であり、まさに「努力」を積み重ねてきて今がある。そしていま現在も、ボクは「努力」「努力」の日々である。「努力」せざるを得ない状況に追い込みながら、みずからに鞭を打っている。

 日本近現代史を研究する場合、日朝関係史を抜きに考えることはできないという山辺がもった認識を、ボクも持つ。司馬史観は、朝鮮に対する、あるいは台湾に対する大日本帝国による植民地支配の視点がまったく欠如している。それでは、日本近現代史を描いたことにはならない。

 その視点をボクはいつも主張している。今年の夏も、熊本でそれを具体的に話してきた。

 ボクの歴史研究は、山辺からも、中塚からも学び、そのなかで作られてきた。具体的な内容は記さないが、この本を読むことによって、近現代史の研究とはいかなるものか、そして一次史料の重要性を認識できるはずである。

 歴史を学ぶものにとっては、必読である。

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