都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「19th DOMANI・明日展」 国立新美術館
国立新美術館
「未来を担う美術家たち 19th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」
2016/12/10~2017/2/5
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毎年冬恒例、現代美術家の活動を紹介するドマーニ展が、国立新美術館で行われています。
今回の出展は13名。いずれも文化庁の「新進芸術家海外研修制度」に参加した作家です。絵画、写真、映像のほか、インスタレーションなどのジャンルも問いません。
一部の作品を除き、会場内の撮影が出来ました。
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岡田葉「元彼の家の家事」 2006年
冒頭はペインターの岡田葉です。1974年に神奈川で生まれ、研修ではイギリスへ留学。現在もロンドンを拠点に活動しています。2枚の絵画に目がとまりました。家が燃えています。まさしく火事でしょうか。家を黒く焦がしては白い煙をはいています。リアルで恐ろしい。当然ながら楽しい光景ではありません。
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岡田葉「運動」 1999年 鎌倉画廊
ステートメントを読んで納得がいきました。火事は作家が見聞きした実話です。岡田はあえて個人的な記憶のうち、とりわけネガティブな感情を絵画に表現しています。とすればこの「運動」と名付けられた作品も、何らかの事故の様子なのでしょうか。着地に失敗したのか、逆さにひっくり返っては、驚いた様子で目を見開いています。
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南隆雄「Medi」 2016年
南隆雄の映像が目を引きました。タイトルは「Medi」。6面のスクリーンです。青、黄、水色などの色彩が鮮やかに浮かんでいます。一見、抽象面のようですが、よく見ると山や木、それに水面が映されていることが分かります。イメージは地中海の沿岸地域です。作家自身が移動しては記録。その景色の移ろいをグラデーションにして表現しました。
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南隆雄「Light Symbol」 2016年
この作品、さらに裏にも要注目です。電球から白い光が放たれていますが、その影に不思議なモチーフが現れています。結論からすれば古代の中国やシュメールの文字です。電球の表面に文字を彫刻し、拡大鏡を通じて壁面に映しています。
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松井えり菜「顔の惑星〜リンカネーション!!!」 2016年
松井えり菜の絵画も存在感がありました。お馴染みの女性のモチーフです。しかも全てが自画像。きのこの中に現れ、また動物に取り囲まれています。いずれの地平も彼女が主人公です。まるで創造主のようでした。ともかく顔に顔が続きます。ほぼ全てが2016年の新作です。同年夏に霧島アートの森で行われた個展のための作品だそうです。
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三原聡一郎「空白のプロジェクト#3 コスモス」 2013年
三原聡一郎のインスタレーションに惹かれました。木の台の上に並ぶのはビーカーです。書籍に顕微鏡や注射器、さらにスポイトらしき器具もあります。ビーカーの中には土が入っていました。そして電線が互いに行き来し、明かりが仄かに点灯しています。どことなく怪しくもあり、また有機的です。科学というよりも、錬金術といった、魔術的な実験が行われているようにも見えました。
たまたま日没後の観覧だったからでしょうか。光の陰影も殊更に際立っていました。展示場所は窓から外の光も入ります。昼間に見るとまた印象が異なるかもしれません。
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曽谷朝絵「inside」 2016年
ホワイトキューブによく映えていたのではないでしょうか。曽谷朝絵です。壁と床面を利用して華やかな作品を展開しています。色彩は花火のように広がります。万華鏡の中を覗き込む感覚に近いかもしれません。
今回のドマーニで最も印象深かったのが今井智己でした。研修で派遣されたオランダに関する写真を出展しています。
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今井智己 展示風景
まずは古写真です。舞台は第二次大戦中のオランダのヴィンスホーテン。ドイツの国境付近にある小さな町です。かの地に住んでいたアマチュアの女性カメラマン、Cobie Doumaの写真を引用しています。本職は家政科の教師でした。
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今井智己 展示風景
発端は1940年、オランダがドイツに占領された年です。彼女はその頃から日常の風景を写真に残し始めました。中には子どもたちの楽しげな姿も写されています。しかし反面には物資に欠乏する店やドイツ軍のキャンペーン、さらに摂取された車なども捉えています。ラストは広島の原爆と日本の降伏を伝える新聞記事でした。もちろん彼女は喜びのコメントを添えています。結果、5年間で284枚。まさに占領の生きた証言と呼べるでしょう。
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今井智己 展示風景
そこに今井も取材。現在の写真を添えています。2人の写真家を通して過去の記憶と現在が緩やかに繋がりました。
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今井智己 展示風景
ほかさらに今井は同じ占領下にありながらも、彼女とは相対する立場にあった写真家も引用。彼ら、彼女らを、加害者、被害者の立場だけでなく、傍観者と呼び、そこに「自らの視点を寄せる」(解説より)試みを行っています。歴史を紐解く一つのアプローチとしても有用かもしれません。
ラストは出展作品中、唯一、西欧以外に研修した金子富之です。行き先はカンボジア。密教やヒンドゥー教の神々をモチーフとした絵画を展示しています。
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金子富之「レッドバナスパティラージャ」 2012年 常陸国出雲大社
これがまた強烈です。極彩色に染まる神は猛々しい。まるで破壊神です。その牙に呑み込まれそうになります。思わず後ずさりしてしまいました。
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金子富之「大梵天王」 2016年
さらにドローイングやスケッチの類も膨大です。国立新美術館の広いスペースを効果的に利用していました。
12月20日から続いた年末年始の長いお休みも間もなく終わります。年始は1月11日の水曜日から開館します。
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2月5日まで開催されています。
「未来を担う美術家たち 19th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2016年12月10日(土)~2017年2月5日(日)
休館:火曜日。年末年始(12/20~1/10)
時間:10:00~18:00
*毎週金曜日は夜20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円、高校生以下無料。
* ( )内は20名以上の団体料金。
*1月21日(土)は、国立新美術館開館10周年を記念して無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
「未来を担う美術家たち 19th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」
2016/12/10~2017/2/5
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毎年冬恒例、現代美術家の活動を紹介するドマーニ展が、国立新美術館で行われています。
今回の出展は13名。いずれも文化庁の「新進芸術家海外研修制度」に参加した作家です。絵画、写真、映像のほか、インスタレーションなどのジャンルも問いません。
一部の作品を除き、会場内の撮影が出来ました。
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岡田葉「元彼の家の家事」 2006年
冒頭はペインターの岡田葉です。1974年に神奈川で生まれ、研修ではイギリスへ留学。現在もロンドンを拠点に活動しています。2枚の絵画に目がとまりました。家が燃えています。まさしく火事でしょうか。家を黒く焦がしては白い煙をはいています。リアルで恐ろしい。当然ながら楽しい光景ではありません。
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岡田葉「運動」 1999年 鎌倉画廊
ステートメントを読んで納得がいきました。火事は作家が見聞きした実話です。岡田はあえて個人的な記憶のうち、とりわけネガティブな感情を絵画に表現しています。とすればこの「運動」と名付けられた作品も、何らかの事故の様子なのでしょうか。着地に失敗したのか、逆さにひっくり返っては、驚いた様子で目を見開いています。
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南隆雄「Medi」 2016年
南隆雄の映像が目を引きました。タイトルは「Medi」。6面のスクリーンです。青、黄、水色などの色彩が鮮やかに浮かんでいます。一見、抽象面のようですが、よく見ると山や木、それに水面が映されていることが分かります。イメージは地中海の沿岸地域です。作家自身が移動しては記録。その景色の移ろいをグラデーションにして表現しました。
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南隆雄「Light Symbol」 2016年
この作品、さらに裏にも要注目です。電球から白い光が放たれていますが、その影に不思議なモチーフが現れています。結論からすれば古代の中国やシュメールの文字です。電球の表面に文字を彫刻し、拡大鏡を通じて壁面に映しています。
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松井えり菜「顔の惑星〜リンカネーション!!!」 2016年
松井えり菜の絵画も存在感がありました。お馴染みの女性のモチーフです。しかも全てが自画像。きのこの中に現れ、また動物に取り囲まれています。いずれの地平も彼女が主人公です。まるで創造主のようでした。ともかく顔に顔が続きます。ほぼ全てが2016年の新作です。同年夏に霧島アートの森で行われた個展のための作品だそうです。
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三原聡一郎「空白のプロジェクト#3 コスモス」 2013年
三原聡一郎のインスタレーションに惹かれました。木の台の上に並ぶのはビーカーです。書籍に顕微鏡や注射器、さらにスポイトらしき器具もあります。ビーカーの中には土が入っていました。そして電線が互いに行き来し、明かりが仄かに点灯しています。どことなく怪しくもあり、また有機的です。科学というよりも、錬金術といった、魔術的な実験が行われているようにも見えました。
たまたま日没後の観覧だったからでしょうか。光の陰影も殊更に際立っていました。展示場所は窓から外の光も入ります。昼間に見るとまた印象が異なるかもしれません。
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曽谷朝絵「inside」 2016年
ホワイトキューブによく映えていたのではないでしょうか。曽谷朝絵です。壁と床面を利用して華やかな作品を展開しています。色彩は花火のように広がります。万華鏡の中を覗き込む感覚に近いかもしれません。
今回のドマーニで最も印象深かったのが今井智己でした。研修で派遣されたオランダに関する写真を出展しています。
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今井智己 展示風景
まずは古写真です。舞台は第二次大戦中のオランダのヴィンスホーテン。ドイツの国境付近にある小さな町です。かの地に住んでいたアマチュアの女性カメラマン、Cobie Doumaの写真を引用しています。本職は家政科の教師でした。
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今井智己 展示風景
発端は1940年、オランダがドイツに占領された年です。彼女はその頃から日常の風景を写真に残し始めました。中には子どもたちの楽しげな姿も写されています。しかし反面には物資に欠乏する店やドイツ軍のキャンペーン、さらに摂取された車なども捉えています。ラストは広島の原爆と日本の降伏を伝える新聞記事でした。もちろん彼女は喜びのコメントを添えています。結果、5年間で284枚。まさに占領の生きた証言と呼べるでしょう。
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今井智己 展示風景
そこに今井も取材。現在の写真を添えています。2人の写真家を通して過去の記憶と現在が緩やかに繋がりました。
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今井智己 展示風景
ほかさらに今井は同じ占領下にありながらも、彼女とは相対する立場にあった写真家も引用。彼ら、彼女らを、加害者、被害者の立場だけでなく、傍観者と呼び、そこに「自らの視点を寄せる」(解説より)試みを行っています。歴史を紐解く一つのアプローチとしても有用かもしれません。
ラストは出展作品中、唯一、西欧以外に研修した金子富之です。行き先はカンボジア。密教やヒンドゥー教の神々をモチーフとした絵画を展示しています。
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金子富之「レッドバナスパティラージャ」 2012年 常陸国出雲大社
これがまた強烈です。極彩色に染まる神は猛々しい。まるで破壊神です。その牙に呑み込まれそうになります。思わず後ずさりしてしまいました。
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金子富之「大梵天王」 2016年
さらにドローイングやスケッチの類も膨大です。国立新美術館の広いスペースを効果的に利用していました。
あけましておめでとうございます!本年もどうぞよろしくお願いします!DOMANI展は、1月11日(水)から始まります!あと少しお休みをしますが、皆様にお会いできるのを楽しみにしています。それまでは情報をお届けしたいと思います!#DOMANI・明日展
— DOMANI展長のつぶやき (@DOMANI_ten) 2017年1月4日
12月20日から続いた年末年始の長いお休みも間もなく終わります。年始は1月11日の水曜日から開館します。
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2月5日まで開催されています。
「未来を担う美術家たち 19th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:2016年12月10日(土)~2017年2月5日(日)
休館:火曜日。年末年始(12/20~1/10)
時間:10:00~18:00
*毎週金曜日は夜20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円、高校生以下無料。
* ( )内は20名以上の団体料金。
*1月21日(土)は、国立新美術館開館10周年を記念して無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
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