「瀬戸内アートの楽園 直島を1日で巡る旅」 後編:本村地区・家プロジェクト

前編:ベネッセハウスミュージアム・李禹煥美術館・地中美術館から続きます。ベネッセアートサイト直島へ行ってきました。



つつじ荘を経由し、町営バスで家プロジェクトのある本村地区へ着くと、既にランチタイムは過ぎ、14時近くになっていました。実のところ、美術館エリア内で食事をとるつもりでしたが、昼時の地中美術館が想像以上に混雑していたため、少し時間をずらし、本村地区にあたることにしました。



同島東部の本村は、直島町役場もある町の拠点で、直島への観光客を受け入れるべく、宿泊施設やカフェなどが多く点在しています。



本村で食事をしたのは、一軒の古民家を用いたCafe Gardenでした。カレーとピザのメニューが豊富なカフェで、もちもちのピザも美味しくいただけました。店内も時間帯が外れていたからか空いていて、快適に過ごせました。



腹ごしらえをした後は、本村に展開する家プロジェクトを巡ることにしました。同プロジェクトは、使われていない古民家を保存しつつ、現代美術の展示場として利用したもので、1998年に築200年の家屋を改修し、宮島達男の作品を展示した「角屋」からスタートしました。現在は予約制の「きんざ」を含めると7軒の展示施設が開設されています。



本村のラウンジで共通チケットを購入し、細い路地の続く集落を歩くと、まず目についたのが宮島達男の「角屋」でした。暗がりの母屋内部では、プールの中に沈められたLEDのデジタルカウンターが1から9の数字を刻んでいて、あたかも宇宙にまたたく星のような光を放っていました。なおカウンターの変化するスピードは、最初のセッティングの際によって島の人が決めたそうです。



高台に位置する護国神社は、江戸時代から続く古い神社だったものの、著しく老朽化したことから、杉本博司が家プロジェクトの一環として再建しました。



社殿は伊勢神宮を思わせる古い建築様式に基づき、神社の下には古墳のような石室が築かれていて、上下をガラスの階段で結んでいました。



直接、社殿から石室に降りることは叶いませんが、横からのアプローチにて石室に入ることが出来ました。ちょうど石室の通路から背後を見やると海が広がっていて、まさに杉本の海景シリーズを連想させるものがありました。以前、江之浦測候所の隧道から眺めた海がフラッシュバックするかのようでした。



「碁会所」にて作品を展開したのが須田悦弘で、建物の外の椿の樹木を参照しつつ、椿の花を象った彫刻を見せていました。そしてここで面白いのは左右に対となる部屋に本物と写しを並べていることで、初めは竹までが彫刻であるとは気がつかないほどでした。なお「碁会所」とは、かつてこの場所で町の人々が囲碁を打っていたことに因んでいるそうです。



大きな古民家の「石橋」を舞台に、襖絵を描いたのが、日本画家の千住博でした。瀬戸内の風景に触発された襖絵は、幽玄な趣きをたたえていて、暗い蔵にある滝のシリーズ、「ザ・フォールズ」も迫力がありました。これまでも何度か千住の絵画を見てきたつもりですが、場所の風情もあるのか、今までで最も美しく思えたかもしれません。しばし庭の石に座りつつ、ぼんやりと襖絵を眺めては見入りました。



直島町役場近くにある現代美術家の大竹伸朗の「はいしゃ」も目立っていました。かつて歯医者であった廃屋を再生させた施設で、無数のペインティングやコラージュが施され、まさに大竹の世界観が建物全体を支配していました。



その他、古い看板やネオンサイン、さらには船をめり込ませたような壁も個性的ではないでしょうか。もはや建物そのものが作品と化していました。



家プロジェクトを観覧しながら本村を歩いていると、気が付けば夕方に差し掛かっていました。本村にはANDO MUSEUMもありますが、時間の都合により見学を諦め、町営バスで宮浦港へと戻りました。



そして写真を撮り損ねてしまいましたが、大竹伸朗の直島銭湯を見学し、予定していた16時半のフェリーで宮浦港を出発し、宇野港へと出て、その日のうちに岡山から新幹線で東京へと戻りました。



直島を周遊して感じたことは、まずバスの時間など、事前に一定のプランニングしておく必要があることでした。無料バスの運行する美術館エリア内も歩けなくはありませんが、昇り降りも少なくなく、夏の暑い時期などは大変なことも予想されます。また町営バスは現金のみの対応していたため、小銭が意外と重要でした。



また芸術祭期間中でないにも関わらず、多くの人々がやって来ていて、既に直島が瀬戸内の代表的な観光地であることも感じられました。さらに外国人向けの英語の対応も重要で、バスの方が積極的に英語でアナウンスしていたのも印象的でした。



美術館では李禹煥美術館に一番心惹かれましたが、家プロジェクトが想像以上に充実していたのが嬉しい誤算でした。また集落の中に点在するため、美術館エリアとは異なり、直島の人々の生活の息吹を感じることも出来ました。門などを美しくディスプレイしている家も目立っていました。



今回は先に触れたANDO MUSEUMの他、全ての展示を回りきることは叶いませんでしたが、朝から夕方まで同島のみに滞在したため、主だった施設は観覧出来ました。宿泊客のみしか観覧できないベネッセハウスミュージアムの一部の展示や、屋外作品などを網羅しようとすると難しいかもしれませんが、基本的に直島だけであれば1日で見て回ることは可能です。



とは言え、直島を取り巻く瀬戸内には、豊島美術館などのある豊島、そして精錬所で知られる犬島など、他のアートスポットも数多く存在します。次回、直島を訪ねる機会があれば、他の島へも是非行ってみたいと思いました。

「ベネッセアートサイト直島」 地中美術館、ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、家プロジェクトほか
休館:月曜日。但し祝日の場合開館し、翌日休館(地中美術館、李禹煥美術館、家プロジェクト)。無休(ベネッセハウスミュージアム)。
 *メンテナンスのための臨時休館あり。
時間:3月1日~9月30日 10:00~18:00、10月1日~2月末日 10:00~17:00(地中美術館、李禹煥美術館)。8:00~21:00(ベネッセハウスミュージアム)。10:00~16:30(家プロジェクト)
 *各館毎に最終入館時間の設定あり。
料金:2100円(地中美術館)。1050円(ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、家プロジェクト)。
 *各施設ともに15歳以下は無料。
 *ベネッセハウスミュージアムは宿泊客無料。
 *地中美術館はオンラインチケット予約制。
 *家プロジェクトは共通券。ワンサイトチケット(420円)あり。「きんざ」は完全予約制。
住所:香川県香川郡直島町3449-1(地中美術館)。香川県香川郡直島町琴弾地(ベネッセハウスミュージアム)。香川県香川郡直島町字倉浦1390(李禹煥美術館)。香川県香川郡直島町本村地区(家プロジェクト)。
交通:宇野港、または高松港より四国汽船フェリーにて宮浦港。(本村港へのルートあり)直島島内は路線バス、及びつつじ荘乗り換えの場内無料シャトルバスを利用
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