「奈良原一高のスペイン―約束の旅」 世田谷美術館

世田谷美術館
「奈良原一高のスペイン―約束の旅」
2019/11/23~2020/1/26



世田谷美術館で開催中の「奈良原一高のスペイン―約束の旅」を見てきました。

1962年、まだ30歳の若き奈良原はヨーロッパへと旅立つと、フランスからドイツ、スペイン、ポルトガルなどを約3年間かけて巡り、帰国後、同地で撮影した写真作品を発表しました。その1つが「スペイン 偉大なる午後」と題した連作で、スペインの街や祭り、そして闘牛などの光景を収めました。

冒頭、プロローグとして紹介されたのが「ヨーロッパ・静止した時間」で、ルーアンやヴェネツィア、パリやバルセロナなど、ヨーロッパの古い街を写していました。いずれも重厚な石造りの街の歴史が滲み出すような写真でしたが、奈良原自身はパリを「老婆のような街」と評すなど、どこか馴染めない違和感を覚えながら撮影に向き合ったとされています。



続くのが「スペイン 偉大なる午後」で、「フェエスタ」、スペイン語でさよならを意味する「バヤ・コン・ディオス」、そして闘牛の際に演奏される曲を指す「偉大なる午後」が順に展示されていました。作品数はゆうに120点にも及んでいて、スペインの乾いた空気感や眩しい光の感覚、さらに人々や祭りの生み出す熱気がひしひしと伝わってきました。



奈良原の写真で印象に深いのは、現地の人々に極めて近しい距離感で祭りなどを捉えていることでした。実際、奈良原は牛追い祭りにおいて、誰でも参加出来ることと、若者の「爆発する喜び」(解説より)に感動したそうですが、まさに祭りに入り込み、歓喜を共有しているような体験を得られるかもしれません。

「バヤ・コン・ディオス」では、大都市ではなく、観光客の少ない小さな町や村を訪ねていて、スペインの何気ない日常の一コマを時間とともに見事に切り取っていました。街に差し込む光は殊更に輝いていて、画面で織りなす白と黒の強いコントラストも魅力的でした。

また闘牛ではより臨場感をもって舞台に迫っていて、牛が走り、人が身をこなし、砂煙が舞うような光景を、あたかも映像のような動きを伴って写し出していました。奈良原はよほど闘牛に心を引かれたのか、1963年に初めて観戦して以来、実に200頭もの闘牛を見続けました。



「スペイン 偉大なる午後」は1965年に発表され、1969年には写真集として出版されましたが、どういうわけか2010年の島根県立美術館の回顧展にて紹介されるまで、殆ど世の中で展示されることがありませんでした。実に東京での展覧はほぼ半世紀ぶりとなります。同時期に撮影された「ヨーロッパ・静止した時間」とあわせて鑑賞出来る、またとない機会と言えるかもしれません。 *上の掲載写真は全て会場外のバナー


さて展覧会も終盤を迎え、突然の訃報が舞い込んできました。写真家、奈良原一高は、1月19日に心不全のため亡くなりました。88歳でした。


「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」から

現在、奈良原の作品は、都内において本展の他に、東京国立近代美術館の「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」と、半蔵門のJCIIフォトサロンの「奈良原一高 人間の土地/王国 Domains展」にて鑑賞することが出来ます。(ともに2月2日まで)


「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」から

15年ほど前にくも膜下出血で倒れ、以来、療養を続けていましたが、今回の展覧会も開幕後、家族の方と一緒にご覧になったそうです。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

「奈良原一高のスペイン―約束の旅/クレヴィス」

次の土日で会期末です。1月26日まで開催されています。

「奈良原一高のスペイン―約束の旅」 世田谷美術館@setabi_official
会期:2019年11月23日(土・祝)~2020年1月26日(日)
休館:毎週月曜日。(祝・休日の場合は開館、翌平日休館)。年末年始(12月29日〜1月3日)、1月13日(月・祝)は開館し、翌1月14日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17時半まで。
料金:一般1000(800)円、65歳以上800(600)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
良い企画展です。 (まっきい)
2020-01-25 21:10:34
以前にどこに掲載されていたか忘れましたが 「王国」を見て印象深かったものです。数年前に島根県立美術館に先生がシリーズものを寄贈されたことを知り久しぶりに近況を知りました。そして、今年、世田谷とJCIIフォトサロンで個展をされていることを知って2か所とも行きました。
一度見たら深く心に残る静謐な美しさ、厳しさのある写真と思います。詳しいご紹介ありがとうございます。
多くの人に見ていただきたい企画展です。
尚、窓展にも出ていることは知っていましたが行けそうにありません。JCIIでも見られた写真もあります。こちらも記事で拝見できてうれしい限りです。
 
 
 
印象深いです。 (まき)
2020-01-25 21:20:03
世田谷とJCIIフォトサロンの両展を見ました。
大分以前に「王国」を何かの掲載記事でだったか見て深く心に残りました。先生が倒れられたこともあり気になっていました。この数年動きがあり今回念願のシリーズを両方で見られて本当に良かったです。
詳しい記事で多くの方に見ていただけることを願っています。先生のご冥福を祈ると同時に感謝している者です。
 
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