都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館
すみだ北斎美術館
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』
2022/9/21~11/27
すみだ北斎美術館で開催中の『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』を見てきました。
1枚摺の浮世絵は、元々、板木に文字や挿絵を彫って摺ったものを本に仕立てた板本(版本)から、次第に絵のみが独立したと言われてきました。
そうした板本に着目したのが『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』で、会場には北斎や門人たちの制作した板本が約110点ほど公開されていました。
冒頭では、板本の形態や板木、また内容による分類など、板木の基礎的な知識を解説していて、そもそも版本とは一体どのようなものであるのかについて知ることができました。例えば、上小口、版心といった、板本の各部の名称なども意外と知られていないかもしれません。
続いては板本に関して幾つかのトピックから見どころを紹介していて、文字や絵を囲む枠である匡郭から絵が飛び出した蹄斎北馬の『千代曩媛七変化物語』(巻之五)といった迫力ある作品を見ることができました。
初摺と後摺の比較も興味深い内容といえるかもしれません。葛飾北斎の『飛騨匠物語』では、初めに夢の中の夫たちの背景を濃墨にして、寝ている現実の姫君と対比させているのに対し、後摺では濃墨が省かれていて、いわば簡略化された表現がとられていました。このように後摺は手間をかけないで制作することが多かったとのことでした。
今回の展示で最も面白かったのは、板本が作られていた江戸時代、当時の所蔵者や読者の痕跡についても紹介していることで、入手した嬉しさのあまりに書き込みした北尾政演の『百人一首 古今狂歌袋』や、悪役の部分の顔を擦り潰してしまった柳斎重春の『秋葉霊験 絵本金石譚』(後編 六)に目を奪われました。
さらにイチョウに防虫効果があるとされていたことから、袋とじの内側にイチョウの葉を挟んだ板本や、貸本屋に対して文句をつけるような落書きを記したものなど、所蔵者や読者が板本に残した書き込みなどを通して、江戸時代の人々の息吹を感じることができました。
ラストでは板本の優品と題し、色彩鮮やかな板本を紹介していて、とりわけ月明かりの波の面に銀摺を施した魚屋北溪の『三都廼友会』には見惚れました。
ともすれば地味とも受け止められがちな板本の見どころをうまく引き出した好企画だったのではないでしょうか。「ここに注目」とするパネルでの解説も大変親しみやすく、かつ充実していた上、展覧会にあわせて刊行されたリーフレットもとても良く出来ていました。今後の板本や浮世絵の鑑賞に際して大いに有用となりそうです。
葛飾北斎『遊女図』高精細複製画(原画:フリーア美術館) *展示室外。撮影が可能でした。
10月25日より後期展示がスタートしました。出展作品などは公式サイトにてご確認ください。
「北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―」作品リスト(PDF)
前期:9月21日(水)~10月23日(日)
後期:10月25日(火)~11月27日(日)
11月27日まで開催されています。おすすめします。
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(@HokusaiMuseum)
会期:2022年9月21日(水) ~11月27日(日)
休館:月曜日。但し10月10日(月・祝)は開館し、10月11日(火)は休館
時間:9:30~17:30(入場は17:00まで)
料金:一般1000円、大学・高校生・65歳以上700円、中学生300円。小学生以下無料。
*団体受付は中止。
*観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラスも観覧可。
住所:墨田区亀沢2-7-2
交通:都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口より徒歩5分。JR線両国駅東口より徒歩10分。
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』
2022/9/21~11/27
すみだ北斎美術館で開催中の『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』を見てきました。
1枚摺の浮世絵は、元々、板木に文字や挿絵を彫って摺ったものを本に仕立てた板本(版本)から、次第に絵のみが独立したと言われてきました。
そうした板本に着目したのが『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』で、会場には北斎や門人たちの制作した板本が約110点ほど公開されていました。
冒頭では、板本の形態や板木、また内容による分類など、板木の基礎的な知識を解説していて、そもそも版本とは一体どのようなものであるのかについて知ることができました。例えば、上小口、版心といった、板本の各部の名称なども意外と知られていないかもしれません。
続いては板本に関して幾つかのトピックから見どころを紹介していて、文字や絵を囲む枠である匡郭から絵が飛び出した蹄斎北馬の『千代曩媛七変化物語』(巻之五)といった迫力ある作品を見ることができました。
本図は雨降る夕方の場面が描かれた挿絵。懐中電灯のように使う江戸時代の道具・龕灯(がんどう)による光と闇を、薄墨(うすずみ)と濃墨(こずみ)を使い、ドラマチックに表現しています🔦
— すみだ北斎美術館 (@HokusaiMuseum) October 23, 2022
光の当たっていない着物の部分は、薄墨を重ねてやや濃くするなど、手がこんでいます。#北斎ブックワールド pic.twitter.com/EjZYHIuJy1
初摺と後摺の比較も興味深い内容といえるかもしれません。葛飾北斎の『飛騨匠物語』では、初めに夢の中の夫たちの背景を濃墨にして、寝ている現実の姫君と対比させているのに対し、後摺では濃墨が省かれていて、いわば簡略化された表現がとられていました。このように後摺は手間をかけないで制作することが多かったとのことでした。
今回の展示で最も面白かったのは、板本が作られていた江戸時代、当時の所蔵者や読者の痕跡についても紹介していることで、入手した嬉しさのあまりに書き込みした北尾政演の『百人一首 古今狂歌袋』や、悪役の部分の顔を擦り潰してしまった柳斎重春の『秋葉霊験 絵本金石譚』(後編 六)に目を奪われました。
さらにイチョウに防虫効果があるとされていたことから、袋とじの内側にイチョウの葉を挟んだ板本や、貸本屋に対して文句をつけるような落書きを記したものなど、所蔵者や読者が板本に残した書き込みなどを通して、江戸時代の人々の息吹を感じることができました。
ラストでは板本の優品と題し、色彩鮮やかな板本を紹介していて、とりわけ月明かりの波の面に銀摺を施した魚屋北溪の『三都廼友会』には見惚れました。
ともすれば地味とも受け止められがちな板本の見どころをうまく引き出した好企画だったのではないでしょうか。「ここに注目」とするパネルでの解説も大変親しみやすく、かつ充実していた上、展覧会にあわせて刊行されたリーフレットもとても良く出来ていました。今後の板本や浮世絵の鑑賞に際して大いに有用となりそうです。
葛飾北斎『遊女図』高精細複製画(原画:フリーア美術館) *展示室外。撮影が可能でした。
10月25日より後期展示がスタートしました。出展作品などは公式サイトにてご確認ください。
「北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―」作品リスト(PDF)
前期:9月21日(水)~10月23日(日)
後期:10月25日(火)~11月27日(日)
11月27日まで開催されています。おすすめします。
『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(@HokusaiMuseum)
会期:2022年9月21日(水) ~11月27日(日)
休館:月曜日。但し10月10日(月・祝)は開館し、10月11日(火)は休館
時間:9:30~17:30(入場は17:00まで)
料金:一般1000円、大学・高校生・65歳以上700円、中学生300円。小学生以下無料。
*団体受付は中止。
*観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラスも観覧可。
住所:墨田区亀沢2-7-2
交通:都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口より徒歩5分。JR線両国駅東口より徒歩10分。
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