ピカピカに変身した 古兵の包丁と洋裁用のハサミ
わたしの町には、子どもの頃からの有名な百貨店があった。 Mデパートだ。
日曜日になると、家族ずれで、「M屋に行くぞ」と父親の声がかかると、心弾ませて
何か買ってもらえるかも知れないと 姉弟妹でワクワクしたものだった。
最近は大型店舗の進出で、小売り店が閉店の憂き目にあい、
三池炭鉱閉山から数年経過後も、 なかなか不況からの脱皮がままならず、
そのあたりの賑わいが当然のように消滅。
中心街にながく君臨していた老舗のM百貨店も、とうとう閉店に追い込まれたのは数年前のこと。
閉店後は、わずかに残された数軒の老舗店が細々と生き延びているだけ。
ところが、こちらもじっと指をくわえて負けてはならぬと、静かな町興しが始まっている。
とりあえず、今 代表的なものは 元Mデパート前で毎月開かれている十日市だ。
近郊の農家からは野菜物や、小間物店、金物店、古本屋他の有志があつまり、
少しずつ賑わいをみせてきた。
とにかく人を呼ぶために、安くて良い品物をならべて、魅力をあつめるしかない。
友人から聞いて、早速わたしも出かけてみた。
目的は、包丁研ぎだ。試しに十日市に出ている店に頼んだものは、包丁と洋裁用のハサミ1本。
閉店間際にもかかわらず、気持ちよく引き受けてもらった。
「30分ほどかかりますけん、ほかの店ば見よってください」
ざっとみたところ、まだ10軒ぐらいは片付け途中ながら、見るに充分だった。
「奥さん、トマト、枝豆はいらんかな?安くしますけん~」と声がかかる。
「は~い、ごめんね、うちに植えてます・・・」
30分過ぎたころ、研ぎ屋さんから声がかかった。
「ハイ、どうぞ 両方で1,500円です」
2本で? なるほど安い。
帰ってあけてみると、なんと両方とも ピカピカ!
試しにまずハサミ、ザクリと厚布が切れた。
このハサミは、昭和33年夜間の洋裁学校へ行きはじめたころに買ったものだ。
このハサミを使い、妹達の洋服を縫い、わたしの子ども達のも一晩で縫いあげた。
幼稚園時代に、はしゃぎながら着ていた二人の娘の姿を思い出して、涙ぐんでしまった。
実に50年以上使ったことになるが、一度も研ぎに出すこともなかった。
ハサミは使いようとはよくいったもので、結構切れていたので、研ぎなど考えてみなかったから・・・
研いでみて、こんなに気持よく切れるとは思いもしなかった。
包丁もしかり、25年前に婦人会のお世話で買った古兵の包丁だ。
これは2本あるので時々ほかの店に研ぎに出していたが、1本で700円也の支払いだった。
ハサミはもっと高かっただろうな。
夫に「指まで切らんように、用心してね」と声をかける。
時々は、これからは気分転換に店をのぞいてみょうか・・・