「今から名古屋方面への仕事で出張、車で行くから一緒に行こうか」
一度出かけた夫が引き返してきて、妻のS子に声をかけた。
「え? 」 何事かと思いながらも、せかせる夫に促されて
急いでエプロンをはずし、 幼い4人の子どもを実母に頼み、
S子は夫について車に乗った。
S子は、成人式を迎えるとすぐに結婚。プロポーズの言葉に
「私は、お味噌汁と卵焼きしかつくれません・・・」
「それでもいいよ」といわれて、6歳年上のK義と結婚。
家族の心配をよそに新生活にはいり、
3男、1女の子供にめぐまれて、忙しい毎日を送っていた。
子育てで多忙な毎日。
夫の名古屋への急な仕事を兼ねての、夫婦2人だけの長距離ドライブ旅行は、新婚旅行以来初めての旅といっていいかも知れなかった。
預けてきた子供たちが気がかりながらも
ほんの数時間の、二人きりの楽しい旅であっただろう。
名古屋からのお土産には、
名古屋の和菓子で知られている「ういろう」を買いもとめた。
それから数年後、4人の子供たちは無事に成長して、
次男、3男の結婚式を終えた。
孫2人に目をほそめ、3人目の孫の誕生予定日を1週間後に控えて
いた。
「もう、私には時間がないのよ・・・」
S子は、あと1週間でむかえるはずの自分の誕生日も、3人目の孫の誕生も待たずに、壮絶なガン闘病の果てに
さみしく一人旅立っていった。
享年56才で・・・
これは私の2番目の妹、早世したS子を思い出しながら、
ういろうにまつわる話をまとめてみたものです。
偶然にもこの数日前に、お抹茶があったので作ってみようと思い立ちました。
出来上がったういろうは、軽く冷やした後にいただきました。
もちもちして、甘さ控えめでとても美味しいものでありました。
ういろうを作ろうと思い立ったのは、
命日が近い亡き妹が引き合わせたのかもしれません。
死んだ子の年を数えるとか、妹が亡くなってから早や20年・・・
妹より9才も年上の私は、この夏が来れば85才に。
亡き妹の分まで、これからきっと長生きしていくのでしょう。