三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

ニート・引きこもり

2006年06月21日 | 政治・社会・会社

 相当に前の話になりますが、大学の先生の浅田彰さんという方が書かれた「逃走論」という本について競馬評論家の井崎脩五郎さんがご自身の著書の中で解説しているのを読んだ記憶があります。それによると、人間はパラノ型とスキゾ型に分けることができ、パラノ型は言うまでもなくパラノイア(偏執狂)ですなわち、結婚し家を建て子供を生産しその子供がまた同じように結婚し家を建て子供を生産していくという「パラノドライブ」によって「やめられない、とまらない」とばかりに走り続けるもので、人類は主にそうやって発展してきた。対してスキゾ方はこれも同じように心理学で言うスキゾフレニー(分裂症)ですなわち、一定の考え方によらず従来の価値観からとにかく逃げるというもので、浅田彰さんはパラノ型からスキゾ型への転換を進めておりその理由は「そのほうが面白いから」というものである・・・・そういった感じの内容でした。
 実は「逃走論」自体を読んでいないので正確でなくて申し訳ないのですが、井崎的「逃走論」を読んだ限りでは、人類の歴史は大多数のパラノ型の庶民によって地道に維持され、少数のスキゾ型の天才たちによって文化文明の飛躍的な発展がもたらされた、ということが言いたいような印象を受けました。パラノ型=多数派、保守的、建設的、スキゾ型=少数派、革新的、破壊的、といった分類になるのでしょうか。そうすると〝少数の革新的エリートが新しい価値観をもたらして人類を発展させ同時に社会歴史をリードしていく〟のを理想とするような考え方の人たちと似ているのかもしれません。
 それはともかく、なにかと話題のタイゾー君が国会で取り上げたニートや引きこもりなんてのはスキゾ・パラノ論で言うとスキゾ型に分類されるのでしょうね。新しい価値観をもたらすかどうかは不明ですがとにかく既成の価値観に縛られることなく社会から「逃走」しているように見えますし、「パラノドライブ」に乗っからずに(あるいは乗ることができずに)スキゾ的な生活をしています。浅田彰さんも想像できなかった「スキゾ型」なんじゃないでしょうか。それでなにが問題かというとパラノ型の人間からみるとニートなんてものの存在自体が問題であるという点が問題なんですね。別に強盗や殺人を犯しているわけじゃないんだからニートや引きこもりが直ちに解決されなければならない大問題というのではないけれども、ニートや引きこもりの割合が多くなっていくと共同体全体の「パラノドライブ」が維持できなくなる、という危機感があるのでしょう。しかしその危機感は必要でしょうか?
 もちろん強盗や殺人の犯人の中にニートや引きこもりもいるのでしょうが、だからといってニートや引きこもりの全員が強盗や殺人を犯すわけではない、当たり前ですね。だからニート対策は緊急の課題ではない。しかし仕事をしない人間が多くなってしまうと社会全体のサービスの低下を招くので、それはなんとしても防がねばならない、そう考える人は多いでしょう。コンビニが役所みたいに土日休みで午後5時に閉まったら困るわけです。しかし逆に、一つの共同体全員が異常に前向きなのも、気持ち悪い。よく「社員一同一丸となって目標に邁進する」というふうな訓示を垂れる社長さんがいます。企業の場合はそれでいいかもしれませんが、国家となるとこれはもう、危険な香りがプンプンしてきます。パラノイアここに極まれりって感じですか。その反対がニートや引きこもりになる気もします。共同体のバランスとしてはニートや引きこもりの存在もあながち悪くはないかもしれません。
 知り合いで飲食店の店長をしている人がいますが、これがまあ、ほとんど休まずに働く働く。朝は8時半くらいに出勤してそれからはもうランチの準備と掃除→ランチ→後片づけと掃除買い物事務仕事料理の仕込み→ディナー、ときどき掃除→後片づけと掃除→ときどき徹夜で掃除というのをほぼ毎日やって帰宅はたいてい夜中の12時半くらいでときどきは帰れないという生活をしていますが、それでも給料は下げられときどきは社長にこっぴどく殴られて、殴られながら「過労死されると困るから体には気をつけろよ」と言われています。どうして辞めないのかなんて聞くまでもありませんよね、経費削減で人は減らされる反面、売上目標は下がらないから仕事の負担は増大するがにもかかわらず給料は下げられるけれども、それでもやっぱり生きていかなきゃならないから仕事も選んでいられないし辞めて簡単に次の仕事が見つかるわけでもない、ということです。人間はパンのためにだけ生きるのではないのかもしれないが、パンを与えられれば喜んで自由を投げ出すと、「カラマーゾフの兄弟」に書いてありました。あるアメリカの作家によれば「仕事とは人格がスポイルされること」だそうです。みんな苦しい。苦しいから結婚もしないし子供も作らないし人によってはニートになったり引きこもったり自殺したりするということになる。たいていは後ろ向きなんだけど、人前では前向きの顔をする。後ろ向きは社会から否定されていますから、生きていくためには前向きの顔をしなければならない。もともと前向きな人も前向きな顔をしているだけの人も「がんばります、一生懸命やります」
 何のために?