三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

森山良子コンサート

2020年01月18日 | 映画・舞台・コンサート

 Bunkamuraオーチャードホールに森山良子コンサートに出掛けてきた。

 昨年の3月に日本武道館で観たジョイントコンサート「あの素晴らしい歌をもう一度」で初めて森山良子の生の歌を聞いた。よく歌手にとって喉は楽器という言い方をするが、森山良子には、たしかにこの人にとって喉は楽器なんだろうなと思わせるところがある。ひとりだけ他の歌手とは一線を画していたように感じた。もはや歌手というより歌のモンスターといった感じで、是非もう一度聞きたいと思った。
 そこでコンサートのチケットを探したが、随分と地方でのコンサートが多い人で、漸く取れたチケットは年明けのオーチャードホールだったという訳だ。
 聞いたことのない歌が何曲かあったが、大方は馴染みのある曲で、代表曲の「涙そうそう」「さとうきび畑」「この広い野原いっぱい」も含めて、沢山の歌をもう一度歌ってくれた。特にヴェルディの「乾杯の歌」(オペラ「椿姫」より)は見事だった。
 そして「さとうきび畑」。亡き寺島尚彦が1967年に作った歌で、以来50年に亘って森山良子をはじめ、たくさんの歌手が歌ってきた。沖縄戦の悲劇を歌った歌だ。早くこの歌が歌われなくなる時代が来ればいいと森山良子は言う。しかしまだそんな時代は来ず、これからも歌い続けなければならないとも言う。今回初めてこの長い歌(8分ちょっと)を最初から最後まで生で聴くことができて、本当によかったと思う。聞いていて、途中から涙が止まらなくなってしまった。

 アンコールは「聖者の行進」である。途中からのスキャットはルイ・アームストロングのトランペット、ソニー・ロリンズのサックスなど、演奏者と楽器のセットの真似をしながらで、これが延々と続く。まさに圧巻であった。この人は本当に歌のモンスターだ。次のコンサートは3月の大田区民ホールで、既に予約済みである。今から楽しみだ。


映画「L'heure D'ete」(邦題「夏時間の庭」)

2020年01月18日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「L'heure D'ete」(邦題「夏時間の庭」)を観た。
 https://eiga.com/movie/54365/

 ジュリエット・ビノシュは河瀨直美監督の「Vision」で見たのが初めてだった。河瀨監督らしい難解な映画で、心に空いた穴を埋める何かを探すような役柄を演じていたのが印象的だった。
 本作品のビノシュは10年以上前の映画とあって、見た目も演技もかなり若い。今回は三兄妹のひとりで、ニューヨーク在住のデザイナーの役である。珍しく英語を話すシーンがあって、フランス訛りの英語がアメリカンイングリッシュの溢れるニューヨークで異彩を放っていた。
 原題の「L'heure D'ete」はそのまま夏の時間であり、実家の家と庭が中心的な舞台となっていることから、邦題「夏時間の庭」はわかりやすくて秀逸だと思う。三兄妹はそれぞれフランス、アメリカ、中国に住んでいて、たまに実家に帰ってくる程度だ。母がなくなって家を処分することになる。その経緯の中での家族模様を描く作品であり、時の流れと人の移ろいが中心的なテーマだと思う。
 坦々と進むストーリーで起承転結がないから、物語としての盛り上がりには欠けるが、全体を通じて底に流れている無常感のようなものがあって、大森立嗣監督の「日日是好日」を思い出した。
 三兄妹は実家と庭のこまごまとした思い出をいつまでも心にしまって生きる。孫にとっておばあちゃんの家は人に自慢ができる宝物だ。家政婦にはそこで働くことが人生だった。家と庭に関わった人々にとってはどこまでも美しく楽しい場所であり品々であったのだ。
 俳優陣の演技があまりにも自然であり、本物の家族にしか見えなかった。映画としての完成度はとても高いと思う。こういう映画は雰囲気だけみたいに感じてしまう場合もあるが、本作品のそれぞれのシーンの奥にある世界観は、日本文学に通底する諸行無常のような死生観に通じるところがある。奥の深い作品である。


GGスペシャルコンサート2020

2020年01月18日 | 映画・舞台・コンサート

代々木公園駅近くのHakuju Hallの武満徹のGGスペシャルコンサート2020に出掛けてきた。Hakuju Hallはキャパが300席の小さなホールだが音響はいい。客席の傾斜が小さいので席を千鳥に配置して見やすくしている。なかなかいいホールだ。GGコンサートの意味は不明。調べてもわからなかった。

 武満徹は大江健三郎の著作で知った。イラストレーターの司修のことを紹介していた頃だと思う。同じくらいの頃に谷川俊太郎の詩についても言及していて、特に「カッパかっぱらった」という一節について、言葉遊びの要素について述べていたと思う。反戦歌「死んだ男の残したものは」は、谷川俊太郎作詞、そして作曲が武満徹である。
 今回のコンサートは前半はギタリスト福田進一さんのソロコンサートで、曲目は所謂現代音楽と呼ばれたものである。和音と不協和音が混じり合い、なんとも言えないいい雰囲気になる。ものすごく眠くなった。
 後半は最初は武満徹がアレンジした曲のギターソロ。早春賦、サマータイム、オーバーザレインボー、ビートルズのミシェル、イエスタデイなど。その後はカウンターテナーのオペラ歌手藤木大地さんとのコラボレーション。アンコールの一曲目は映画「マチネの終わりに」から「幸福の硬貨」。二曲目は再び藤木大地さんの歌で〆た。
 GGコンサートの意味さえわからずに、武満徹というワードだけで出掛けたのだが、思いがけずいいコンサートで、お正月から得をした気分である。