三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「世界で一番しあわせな食堂」

2021年02月21日 | 映画・舞台・コンサート
映画「世界で一番しあわせな食堂」を観た。
 2019年に「日本鬼子」という映画を観た。日中戦争における関東軍の兵士たちの非道な行ないを、帰還した兵士たち自身が語る。すでに80歳、90歳となっている彼らが共通して話したのは、日本が無条件降伏したあと、中国に残った関東軍の兵士たちは中国軍に捉えられて捕虜となった。当然殺されるか、拷問を受けるものだと思っていた。自分たちが中国人に対してそうしてきたからだ。
 ところが周恩来はそうしなかった。日本兵にも人権があるから、大切に扱うように通達を出したのである。兵士たちは衣食住の足りた生活をして、漸く自分たちがどれほど非道なことをしてきたかを自覚する。周恩来は彼らが人間性を取り戻すのを待ってから戦争裁判をした。極刑はなく、大抵は10年か20年の禁固、その多くは満期前に釈放された。
 彼らの面倒をみた中国人たちは、自分たちでさえ満足な生活が出来ていないのに、どうして日本兵を厚遇するのかと不満だったらしい。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。周恩来の遠大な考えは理解出来なかったのだ。
 現代の一般の中国人の中には、周恩来と同じとまではいかないが、視野が広く寛容で懐の深い人物も結構いると思う。本作品のチェンも、人を思いやり、その土地の文化を尊重する礼儀正しい人間だ。
 フィンランド人と中国人の仲立ちは双方のつたない英語である。それでも意思は通じる。互いに歩み寄って相手を理解しようとするからである。料理という分かりやすい文化は、言葉がなくても美味しいものは美味しいと分かる。
 中国料理は世界三大料理の一つであり、チェンはプロの料理人であり人格者である。流石に本作品はフィンランドとイギリスと中国の合作だけあって、舞台はフィンランドで言葉は英語、主役は中国人とわかりやすい。映像だけでは中華料理の美味しさはいろいろな中華料理を食べたことのある人にしかわからないが、フィンランドの風景の美しさは映像から十分に伝わってくる。清流とそこに棲む魚、森にはトナカイがいて、食べられる野菜はそこら中にある。上海から来たチェンが、ここにはすべてがあると思うのは当然だ。
 ストーリーは一本道で起伏も少なく坦々と流れていくが、登場人物に味があって、飽きずに観られる。平和でホッとする作品だ。コロナ禍の時期に観るのに丁度いいかもしれない。