三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「東京自転車節」

2021年07月11日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「東京自転車節」を観た。
 
 孤独である。孤独だがやるべきことをやるしかない。雨の中、言うことを聞かなくなりそうな脚を無理矢理に動かして自転車を漕ぐ。なにがなんでも商品をお客さんに届けるのだ。店から預かった大切な商品。店にもお客さんにも信義を尽くさなければならない。それが配達員の矜持じゃないか。
 それにしても今日はどこで寝るのだろう。いや、そんなことは最後の配達を終えてから考えよう。友達のところか、奮発してアパホテルに泊まるか、いや持ち金がない、ガード下の歩道で横になるか。寝る場所なんてどこでもいい、何時間か眠れば朝が来る。そうしたらまたスマホの電源を入れよう。すぐに配達の依頼が来るはずだ。
 
 山梨から東京まで自転車で行くのは時間的にも体力的にも大変だろう。それ以上に、所持金8,000円で何の伝手もない新宿で生きていこうとする覚悟が凄い。友人たちはその覚悟に動かされて協力したのだろう。
 政治が発表することは朝令暮改で何を言っているのか殆どわからない。政治なんか放っておいて、今日を生きるしかない。しかし今日を生きることのなんとしんどいことか。金を稼ぐってこんなに大変だったか。山梨で代行をやっているときはそれほど大変じゃなかった。コロナは世の中をこんなに変えてしまったのか。
 
 最近の動画カメラGoProはとても優秀で、自転車で疾走する様子をブレずに撮影できて、驚くほど臨場感がある。それ以上に驚くのが青柳拓監督の若い体力だ。よく頑張れるものだと感心しながら鑑賞した。
 上映後の舞台挨拶では、一緒に登壇した友達3人と親しく話をしていたが、映画の中では今回の体験で得た真実を吐露している。自分は孤独だ、そして誰も彼も孤独なんだ、孤独だから繋がりを求める。しかしそう簡単に繋がりなんか得られるはずはない。都会は孤独の集まりだ。
 青柳監督の本音が全部詰まっていて、この作品を発表するのは世間に向けて自分の本音をさらけ出すことになる。とても勇気が要ることだったと思う。しかし、闇を抱えた青柳監督をその闇ごと受け入れる友達がいるのは、とても幸福なことだ。拍手。
 今後も Uber Eats を続けるという監督。何の保障もない個人事業主。しかし監督には感謝の気持がある。これからも丁寧な挨拶を心掛けて、お店の可愛い女の子から優しい言葉をかけてもらえるように、心からお祈り申し上げる。身体に気をつけてください。

映画「ブラック・ウィドウ」

2021年07月11日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ブラック・ウィドウ」を観た。
 スカーレット・ヨハンソンは2012年日本公開の「We bought a Zoo」(邦題「幸せへのキセキ」)でマット・デイモン演じる主人公の相手役を演じていて、女のたくましさと優しさを存分に表現していた。その後は「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」といった変わり種の映画や、ちょっとイマイチの興収だった「ルーシー」などを経て、アベンジャーズのブラック・ウィドウというはまり役を得た。
 しかしこれまでのブラック・ウィドウはそれほど特徴のない戦闘員のひとりで、折角のスカーレット・ヨハンソンの演技力をあまり活かせていなかった。アベンジャーズの主人公は大体ロバート・ダウニーJrのアイアンマンで、ブラック・ウィドウは脇役だったからやむを得ない部分もあった。
 本作品ではブラック・ウィドウが漸く日の目を見た感じで、単なる冷酷な殺し屋ではないことが解る。ちょっとホッとした。そして意外に戦略家でもある。なかなか逞しい。
 戦闘があまりシビアでなく、笑えるシーンもちらほらあるから、本作品はアクションコメディの部門に入ると思う。スカーレット・ヨハンソンはまたひとつ演技の幅を広げた訳だ。
 妹役のフローレンス・ピューは映画「レディ・マクベス」では、自分の欲望に忠実な恐ろしい主人公を迫力満点に演じていて、本作品でも存在感十分だった。
 ストーリーはスパイ映画みたいに舞台を世界中に転々としながら進み、大団円にはほぼ女性ばかりのシーンがあって、略取された女性たちをブラック・ウィドウに仕立て上げた計画が水泡に帰した瞬間をうまく表現する。女性たちが存分に活躍するアクション映画は、とても爽快であった。