映画「地下室のヘンな穴」を観た。
星新一のショートショートを映画にしたような作品だ。あるいは「笑ゥせぇるすまん」か。
アイデアはひとつだけ。地下室の穴に入って出たら12時間後になっていて、その代わりに3日間若返るというものだ。この設定について考えながらの鑑賞となった。
若返るという言葉がミソで、身体機能や脳の働きも含めて若返るのであれば言うことはない。12時間後になるなら、起床時間の12時間前に穴に入れば、次の日は睡眠不足ではあるが、日常生活を壊さずに済むし、身体は若返っている。3日間に一度、睡眠不足の日を過ごせば、いつまでも歳を取らずに過ごせることになる。
しかしそんなふうな堅実な投資家みたいな対応をしてしまうと物語にならない。ここは人間の欲望丸出しでストーリーを進めるのが王道だ。その結果がハッピーエンドにならないことは目に見えている。星新一のショートショートにも「笑ゥせぇるすまん」にもハッピーエンドはないのだ。
本作品は夫の勤務先の社長の仰天のエピソードを絡めて、徹底的に人間を笑い飛ばす。そして若返るという言葉が必ずしも言葉通りではないことが明かされる。それによって巻き起こされる悲惨な場面は早送りで済ます。これはちょっと有り難かった。
エンディング曲がバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」であるところがいい。ひねりが効いている。
「彼女のいない部屋」「デリシュ!」それに本作品と、2日間で立て続けに3本のフランス映画を観たが、どの作品も人間性に対する掘り下げがある。鑑賞時間だけ楽しめればいいというハリウッドの娯楽作も悪くはないが、余韻が残るフランス映画は、やっぱりいいものだ。