三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「かぞく」

2023年11月05日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「かぞく」を観た。
映画『かぞく』オフィシャルサイト

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吉沢亮 永瀬正敏 小栗旬 阿部進之介(登場順)豪華俳優陣4名が主演『 か ぞ く 』澤寛 監督デビュー作品、11月3日(金・祝) 公開決定

 さて困った。こういう互いに繋がりのないオムニバスは、行き当たりばったりのパッチワークみたいで、離れて眺めてみても、何も見えてこない。木を見ても森が見えない、森を見ても木が見えないという世界である。何も理解できないということで、放り投げる人もいるだろう。

 秋の天皇賞で1番人気の快速馬サイレンススズカが4角で故障したレースのラジオの実況が流れるから、時代はおよそ25年前だ。携帯電話は普及していたが、スマホはまだという時代だ。ただ時系列はそれぞれの家族ごとに前後している可能性もある。
 永瀬正敏が酒を飲んでいるバーのテレビが読み上げるニュースは、殺した女の話と、殺された夫や妻の話なのかもしれない。家族を亡くしてカネに困って、人生に詰んだ人々。喪失は新たな喪失を呼び、そして誰もいなくなる。
 悲劇だろうか。喜劇だろうか。ひとつだけ言えるのは、それでも人生は続くということだ。父を亡くしても、母を亡くしても、子どもたちは大きくなる。誰でも、死ぬまでは生きるのだ。雰囲気だけの作品だが、味わいはある。観ている間ずっと、人生の悲哀がさざ波のように押し寄せてくる。ずっと怪しく流れ続ける音楽が、ばら撒かれた紙切れみたいな作品を、うまくまとめていたと思う。

映画「Madeleine」(邦題「私がやりました」)

2023年11月05日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「Madeleine」(邦題「私がやりました」)を観た。
映画『私がやりました』公式サイト

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フランソワ・オゾン監督最新作 映画『私がやりました』 2023年11月3日(金・祝)TOHOシネマズシャンテ他全国順次ロードショー

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 とても楽しいコメディだ。登場人物は単純化され、それぞれの役割をきちんと果たす。いかにもそれらしい台詞を饒舌に話す内に、それぞれの登場人物の人となりが浮かび上がってくるという手法は、コメディらしい、王道の演出だと思う。
 こういう演出に応えるためには、相当の演技力が要求されるはずだが、役者陣はいとも容易く役になりきっていて、フランスの俳優の層の厚さを感じさせる。みんな大したものだ。
 笑える場面がそこかしこに散りばめられていて、特に膀胱を病んでいる秘書官の、エスプリに富んだシニカルさには感心した。
 批判精神も忘れてはおらず、女性差別や貧富の格差、それにフランス革命の欺瞞まで、幅広く問題にして、しかも笑い飛ばす。権力に媚びない笑いは庶民の味方である。

映画「As bestas」(邦題「理想郷」)

2023年11月05日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「As bestas」(邦題「理想郷」)を観た。
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2023年11月3日(金・祝)Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下・シネマート新宿ほか全国順次公開 | 第35回東京国際映画祭3冠受賞!衝撃の心理スリラー

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 スペインの男は馬を素手で倒して焼印を押して放つというテロップと共に、三人の男が馬を捕まえようとする冒頭のシーン。何の意味があるのかと訝っていた。それに原題の「As bestas」は野獣の意味合いだと思うが、どういう意図でタイトルにしたのかも分からなかった。
 夫のアントワーヌが登場すると、なんとなく理解できる気がした。100キロはありそうなガッチリした体格で、確かに抵抗力はありそうだ。

 スペインの風景は美しいが、夜は闇だ。それが不思議だった。こんなふうに街灯もビルの明かりもない開かれた場所は、晴れた日の夜は星が降るように見えるはずだが、どの夜も闇夜だった。
 アントワーヌが酒場で話す話は、酔っ払って彷徨って道端で寝てしまい、起きたら一面の星空だったという内容だ。なるほどと思った。美しい星空はその一度きりで、移り住んでからのアントワーヌの目に映るのは、闇夜だけなのだ。

 移住は簡単ではない。人間が地球は自分たちのものだと勘違いしているのと同様に、先祖代々同じ土地に住み続けている人々は、その土地が自分たちのものだと勘違いしている。
 移住者は彼らにとって、言うなればエイリアンだ。価値観は相容れず、恩恵よりも害悪をもたらしかねない。排除の衝動は自然に湧き上がる。

 アントワーヌとオルガが溺愛して育てた娘は、他人の気持ちが理解できない一元論者になってしまった。自分だけが正しくて、反対する者はみんな間違っていると主張し、牽強付会の理屈で自己弁護する。ヒトラーとそっくりだ。
 フランスの若者の一部が極右化しているニュースがあるが、多様性を認めない点で、娘の思想は既に極右である。娘は、周りの人の殆どは自分に賛成だという。自己正当化の発言だが、もし本当にその通りであるなら、フランスの極右化はかなり深刻だと言える。

 不自由な精神性に満ち満ちた作品である。登場人物に共通するのが、余裕のない苦しい生活をしているところだ。衣食足りて礼節を知るという諺は、ここでも正しい。余裕がないから利己主義になり、不寛容になる。
 人は誰でも明日のことを考え、不安になり、恐怖を覚える。イエスが「明日のことを思い患うな」と言ったのは、人間を不安と恐怖から解放するためだったが、二千年経っても、相変わらず人間は明日のことを汲々と思い悩んでいる。ヒトラーがつけ込んだのは、まさにそういうところだ。

 人間が不安と恐怖から解放されて、寛容な社会環境を確立する日は、永遠にやってこない。そんな気がする。