映画「お隣さんはヒトラー?」を観た。
イスラエル映画だが、主人公のポルスキーが、ユダヤ人の気持ちを代表している訳ではない。ましてや、イスラエル政府の思惑とはまったくの無関係だ。それどころか、シオニズムを否定するような発言もある。イスラエル、ドイツ、ポーランドの合作であり、バイアスなしに鑑賞するのが正解だ。
悲劇寄りの喜劇というと、変な言い方になるが、老人のあるあるがたくさん詰まったユーモラスな作品である。隣人のヘルマンを演じた俳優はそうでもないが、ポルスキーの俳優さんはとても達者で、ちょっとした表情に豊かな感情が見える。
戦争で家族、特に黒いバラを愛した妻を失った悲しみがあり、家族を奪ったナチに対する怒りがある。恨みを果たしたい気持ちもあるが、許したい気持ちもある。もしかしたら忘れたい気持ちもあるかもしれない。
自分の残りの人生が、長いのか短いのかわからないが、どうやって生きていけばいいのか、途方に暮れているようなフシもある。それに身体が言うことをきかなくなりつつあるという情けなさもある。年老いた悲哀を一身に背負っているポルスキーだ。
一方の隣人ヘルマンには、消し去ることができない記憶があり、罪悪感がある。だから南米を転々としている。何度目かに越した先の隣人が、まさか大戦で生き残ったユダヤ人だとは思ってもみなかった。
ふたりのスリリングな日々が始まる。ポルスキーの努力は大真面目だが、何故か笑える。一体何のためにやっているのか、本人にもよく分かっていない様子が垣間見える。そのうち、疑念が徐々に確信に変わっていく。決定的なシーンの演出が見事だ。
ちょっとしたどんでん返しがあって、互いに戦争に蹂躙されていたのだと気づいてからは、二人の関係性が激変する。大切なものを贈りあうラストシーンはとてもいい。秀逸なヒューマンドラマである。