三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「クローブヒッチ・キラー」

2021年06月14日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「クローブヒッチ・キラー」を観た。
 
 面白かった。ホラー映画だろうと思って鑑賞したのだが、そうではなくて、父親がシリアルキラーではないかと疑問をいだいた息子の勇気ある行動の物語であった。
 とはいっても気の弱い真面目な16歳の少年で、キリスト教原理主義の町での話だから、できる行動には限りがある。加えて身内にシリアルキラーが出てしまえば、残された家族は後ろ指を指される。ましてやキリスト教原理主義の町である。食料調達もままならないだろうし、家を燃やされるかもしれない。
 少年と少女の追求は遅々として進まず、途中で証拠を失ってしまう間違いも犯しながらも、徐々に真相に迫っていく。本当のことを知ることはとても恐ろしい。しかし知らなければ、この先嘘を吐き続けることになるかもしれない。少年は迷い途方に暮れるが、明晰な少女の言葉に導かれるように行動し、ついには真実と向き合う。そして決断を迫られる。
 少年の選択に感心した。少年には母親と妹がいる。彼らがこれからも安全に暮らしていく方法はひとつしかない。明敏な少女は一瞬にしてそれを理解し、少年とともに最後の片付けを行なう。

 主人公の少年タイラーを演じたチャーリー・プラマーは名作「荒野にて」でのひとりでの演技もよかったが、本作では人との触れ合いの中で、恐怖、わだかまり、欲望、愛情といった感情が入り混じった複雑な表情が素晴らしかった。
 対して父親役のディラン・マクダーモットの存在感がいまひとつ。もっと底知れぬ力強さや滲み出る悪意などを出して、タイラーを肉体的にも精神的にも追い詰める恐ろしい父親を演じてほしかった気がする。
 当時23歳のマディセン・ベイティだが、十代後半の少女の役も難なくこなしていた。この年頃の少女は、同じ年頃の少年にとって自分のキスがどれだけの力を持つかをよく知っている。落ち着いた、いい演技だったと思う。
 グロいシーンはないので安心して観られる。物語を冗長に陥らせない演出がとてもいい。次から次へと展開していくので、目が離せなかった。少年と少女の行動と決断が見事で、怖いというよりも感心させられる作品だった。

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