「首長の育休」どう思う? ~職務と育児の両立は可能か~ 2010年12月11日 産経夕刊
http://sankei.jp.msn.com/life/education/101211/edc1012111314000-n1.htm
今年、誕生したイクメン首長 今年、広島県の湯崎英彦知事(45)ら育児のために休暇を取る「育休」を宣言する“イクメン”首長が相次いで登場した。背景には、改正育児介護休業法の施行で、妻が専業主婦であっても夫の育児休業取得が可能になった事情がある。しかし、首長の育休には賛否両論があることも事実。ここでは、前半で12回の転職経験から民間の会社事情に詳しい経済評論家、山崎元さん(52)に話を聞き、後半は大阪府の橋下徹知事の発言が巻き起こした「首長の育休論争」について考察する。
--首長の育休、どう思われますか?
「仕事の負荷を最小限にしながら『男性も育休を取れるぞ』と、世論を喚起するために休んだにすぎない。育児の重要性を訴える効果はあったかもしれないが、首長が育休したからといって一般にはあまり関係ないのでは。特別職ですから」
《育児介護休業法は、雇用されている労働者が対象。休業中の賃金は労使の取り決めで決まる。無給の場合は雇用保険から最高で基本給の半額が「育児休業給付金」として支給され、仕事をする義務はない。一方、知事や副知事、市長ら特別職は勤務時間に定めがなく、24時間365日、自治体住民の暮らしに責任を負う》
--つまり、首長の育休には反対?
「首長の任期は4年しかないのに、全く登庁せず、1カ月間職務から遠ざかるのは、現実的ではないし、正しいことでもない。数週間でも空白ができるのは望ましくない。育休している女性も、休んでいる間にできる仕事をして、少しでも継続していると復帰が楽。育児に専念するから仕事をしない、仕事をするから育児をしないという二分法では考える必要はない。民間企業の社長だったら仕事も考えながら、育児もする。何日休むかの問題より、仕事と育児を両立できる態勢を整えられるかどうか。その上で、休みを取ることで仕事のクオリティーがあがるなら、裁量を持って取ればいい」
--そもそも首長の職務と育児が両立しますか?
「育児には何年もかかるわけだから、何日、何週間という単位ではなく、その後も幼稚園のお迎えを継続するなどして、公務と両立できる働き方を示せばいい。自分も工夫して役所のなかでも融通しあうことで、両立の仕組みが職員の間でも広がっていく」
--広島県の湯崎知事は、育児時間のために会議の時間をずらすなど県庁内での調整をお願いしたことを「迷惑をかけて申し訳ない」と“陳謝”した。これでは知事の育児が県庁にとって「迷惑なこと」になり、意識変化につながらない。
「『申し訳ない』ではなく、『協力してくれて、ありがとう』といえばよかった。会議が本当に必要かどうかという問題もある。世の中にはお互いの仕事をじゃましあうような会議が多いですから(笑)。コアタイムだけ決めて必要な会議はそこでするとか、メールでやりとりするとか、やり方は色々ある」
--では危機管理上、問題という意見には?
「災害など緊急事態が発生したときに、自分の仕事に戻れるようにしておけばいい。(もし、子供が病気で生死がかかるなど両方の緊急事態が重なったときに)育児の代わりを見つけるか、仕事の代行を頼むのかは、自分の裁量の範囲。育児でなくても、自分が病気になったり、災害で死亡したり、拉致されたりする緊急事態もあるわけだから、バッグアップをどうするかは常に考えておくべきだ。時間があるときに休みを取って、バッグアップ体制の点検をしてしたらいい」
--茨城県龍ケ崎市と東京都文京区で制定された特別職のための育児介護出産条例については。この条令では、首長は自分で宣言するだけで、何カ月でも何年でも休める。
「首長が女性で、出産でどうしても離れないといけないというなら育休は仕方ない。結局、仕事と両立できる体制を整えられるか、整えられず辞任するかという選択。男性の市長の場合は、妻が産後、不安定で近くにいたほうがいいなどケース・バイ・ケースだろうが、ルールを決めておけば休みやすいのであれば、あってもいい。結局は、4年の間にどれだけの仕事をするかが問われているので、有権者が信任するかどうかの問題でしょう」
--育児をする首長のほうが、子育て環境の整備が進むと思いますか?
「どこがポイントかわかるから、それはそうでしょうね。子供を持って初めて、保育所探しの大変さがわかる。私たちの場合は、保育園の立地を唯一最大の理由で転居した。それでも、定員いっぱいで、受け入れてくれないとなると保育園難民ですよ。今の状況は、子供を安心して産んで、働き続けられる状況にはなっていない。育児をする首長の登場で、変わってくるのでは。短期の産休・育休取得よりも、長期的な仕事と育児の両立が重要だと思っています」
【首長の育休論争】
大阪府の橋下徹知事が10月、湯崎知事らの育休取得に苦言を呈したのが論議の発端。その後、北海道の高橋はるみ知事が「知事に育休という概念はあり得ない。選挙で選ばれた自治体トップであり、住民の生命と安全を24時間守る責務がある。災害時、陣頭指揮を執らなければならない場面でも『子育てがあるからやらない』と言えるかが、本当の意味での知事が育休取得ということ」と指摘し、論争が過熱した。
「社会意識を少しでも変えるという点では意味があり大事な発言だ」とする嘉田由紀子滋賀県知事、「知事といえども人の子」とする石原慎太郎東京都知事らは湯崎知事らの行動に理解を示し、知事の間でも意見が分かれた。
その後、橋下知事は「議論をしてもらって(社会全体が)仕事に支障があっても育休を取るという機運になればいい」と、育休取得の普及が苦言の真意だと明かした。
パフォーマンス?
橋下知事の思惑に乗って「首長の育休」を取材した記者の印象では、社会全体で仕事に支障があっても育休を取るという機運の醸成にはほど遠い。
湯崎知事の育休時間は第3子誕生後の1カ月の間で、上の子の幼稚園の送りが10回とお迎えが5回で、時間で換算すると約20時間だという。「公務に支障のない範囲」でしか、知事や市長が育休を実践できなかったことで、さらにその機運は後退した。
なぜ、男性の育児参加が必要なのか。地域社会のつながりの希薄化や核家族化、個人主義的な考え方が浸透したために、初めて子供を持つような未熟な母親が、気軽に相談できる相手がいない。一方で、社会的に「男性は家事育児より仕事」の役割分担が変わらず、母親は孤立する。1人で育児を抱え込み、悩むことが子育てを難しくする。
さまざまな要因から今の社会は、結婚し子供を持ちたいという人間としての自然な感情を育みにくくしている。
男性の育児参加について全国で講演活動などを行うNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は「少子高齢化は中長期的な危機」とし、男性の育児参加の意味を足下から考えてみる必要があると主張する。
自治体トップの育休、過半数賛成 全国の知事アンケート 2010年12月05日 共同通信
http://www.47news.jp/CN/201012/CN2010120401000409.html
広島県知事や長野県佐久市長らが“育児休業”を取ったことに賛否の議論が起きているが、47都道府県知事の過半数の25人が自治体の長の育休取得に賛成していることが4日、共同通信の調査で分かった。反対は4人で18人は賛否を示さなかった。トップが職務を離れることに住民の反発も予想されるが、賛成の知事らは、男性の育休取得を促すにはリーダーが率先して取ることが有効、と判断しているようだ。
賛成は岩手、静岡、岡山、徳島、沖縄の知事ら。中国、四国、九州の17県では7割に上った。
賛成の理由は「男性の育休の取得促進」(橋本茨城県知事)「社会の機運盛り上げのきっかけとなる」(横内山梨県知事)が多い。ただし、職務に支障を来さないよう配慮することを前提にした賛成が目立った。
「自らの子育てができない者が子育て政策を論じることはできない」(平井鳥取県知事)「子育ての経験や力を仕事に生かすことができる」(広瀬大分県知事)などもあった。
反対は、群馬、千葉、大阪、兵庫の4知事。「県民の生活と安全を守る職責がある知事の取得は危機管理から難しい」(森田千葉県知事)などが理由。
残りの18知事は賛否を明らかにしなかった。
自治体首長の育児休業(実質的には育児休暇)について書かれた興味深い記事が2本あったので、当ブログでも紹介したいと思います。
ん…。私も最近は30代や40代前半くらいまでの子育て世代の市長が相次いで誕生している(政令指定都市だけでも、千葉市で31歳、福岡市で36歳の若い市長が誕生しています)だけに、公務に支障が生じないことを前提に条件付き賛成派ですが、確かに女性市長が産前産後休業からそのまま育児休業に突入するケースなどは、欧米と異なり権限の移譲がまだまだ進んでいないこともあり、実務上長期間の取得は厳しいのかな…と思います。
とはいえ、同世代の自治体トップそれも男性が育児休業を取得すれば、『実は育児休業を取得したいけど、世間の目が気になって取得を言い出せない』といった子育て世代の取得を促す効果も期待できそうですし、ここは『できない理由』を探すのではなく、『どうすればできるか?』を考えたいところ。
ノルウェーでは大臣就任中に、出産し育児休業をとった女性が何人もいると聞いていますし、まだまだ男性の育児休業取得にネガティブなイメージの強い日本では、まずは議論をすること、そして自分自身の問題として男性全体がこの問題を真剣に考えることが重要なのかな…と思います。
http://sankei.jp.msn.com/life/education/101211/edc1012111314000-n1.htm
今年、誕生したイクメン首長 今年、広島県の湯崎英彦知事(45)ら育児のために休暇を取る「育休」を宣言する“イクメン”首長が相次いで登場した。背景には、改正育児介護休業法の施行で、妻が専業主婦であっても夫の育児休業取得が可能になった事情がある。しかし、首長の育休には賛否両論があることも事実。ここでは、前半で12回の転職経験から民間の会社事情に詳しい経済評論家、山崎元さん(52)に話を聞き、後半は大阪府の橋下徹知事の発言が巻き起こした「首長の育休論争」について考察する。
--首長の育休、どう思われますか?
「仕事の負荷を最小限にしながら『男性も育休を取れるぞ』と、世論を喚起するために休んだにすぎない。育児の重要性を訴える効果はあったかもしれないが、首長が育休したからといって一般にはあまり関係ないのでは。特別職ですから」
《育児介護休業法は、雇用されている労働者が対象。休業中の賃金は労使の取り決めで決まる。無給の場合は雇用保険から最高で基本給の半額が「育児休業給付金」として支給され、仕事をする義務はない。一方、知事や副知事、市長ら特別職は勤務時間に定めがなく、24時間365日、自治体住民の暮らしに責任を負う》
--つまり、首長の育休には反対?
「首長の任期は4年しかないのに、全く登庁せず、1カ月間職務から遠ざかるのは、現実的ではないし、正しいことでもない。数週間でも空白ができるのは望ましくない。育休している女性も、休んでいる間にできる仕事をして、少しでも継続していると復帰が楽。育児に専念するから仕事をしない、仕事をするから育児をしないという二分法では考える必要はない。民間企業の社長だったら仕事も考えながら、育児もする。何日休むかの問題より、仕事と育児を両立できる態勢を整えられるかどうか。その上で、休みを取ることで仕事のクオリティーがあがるなら、裁量を持って取ればいい」
--そもそも首長の職務と育児が両立しますか?
「育児には何年もかかるわけだから、何日、何週間という単位ではなく、その後も幼稚園のお迎えを継続するなどして、公務と両立できる働き方を示せばいい。自分も工夫して役所のなかでも融通しあうことで、両立の仕組みが職員の間でも広がっていく」
--広島県の湯崎知事は、育児時間のために会議の時間をずらすなど県庁内での調整をお願いしたことを「迷惑をかけて申し訳ない」と“陳謝”した。これでは知事の育児が県庁にとって「迷惑なこと」になり、意識変化につながらない。
「『申し訳ない』ではなく、『協力してくれて、ありがとう』といえばよかった。会議が本当に必要かどうかという問題もある。世の中にはお互いの仕事をじゃましあうような会議が多いですから(笑)。コアタイムだけ決めて必要な会議はそこでするとか、メールでやりとりするとか、やり方は色々ある」
--では危機管理上、問題という意見には?
「災害など緊急事態が発生したときに、自分の仕事に戻れるようにしておけばいい。(もし、子供が病気で生死がかかるなど両方の緊急事態が重なったときに)育児の代わりを見つけるか、仕事の代行を頼むのかは、自分の裁量の範囲。育児でなくても、自分が病気になったり、災害で死亡したり、拉致されたりする緊急事態もあるわけだから、バッグアップをどうするかは常に考えておくべきだ。時間があるときに休みを取って、バッグアップ体制の点検をしてしたらいい」
--茨城県龍ケ崎市と東京都文京区で制定された特別職のための育児介護出産条例については。この条令では、首長は自分で宣言するだけで、何カ月でも何年でも休める。
「首長が女性で、出産でどうしても離れないといけないというなら育休は仕方ない。結局、仕事と両立できる体制を整えられるか、整えられず辞任するかという選択。男性の市長の場合は、妻が産後、不安定で近くにいたほうがいいなどケース・バイ・ケースだろうが、ルールを決めておけば休みやすいのであれば、あってもいい。結局は、4年の間にどれだけの仕事をするかが問われているので、有権者が信任するかどうかの問題でしょう」
--育児をする首長のほうが、子育て環境の整備が進むと思いますか?
「どこがポイントかわかるから、それはそうでしょうね。子供を持って初めて、保育所探しの大変さがわかる。私たちの場合は、保育園の立地を唯一最大の理由で転居した。それでも、定員いっぱいで、受け入れてくれないとなると保育園難民ですよ。今の状況は、子供を安心して産んで、働き続けられる状況にはなっていない。育児をする首長の登場で、変わってくるのでは。短期の産休・育休取得よりも、長期的な仕事と育児の両立が重要だと思っています」
【首長の育休論争】
大阪府の橋下徹知事が10月、湯崎知事らの育休取得に苦言を呈したのが論議の発端。その後、北海道の高橋はるみ知事が「知事に育休という概念はあり得ない。選挙で選ばれた自治体トップであり、住民の生命と安全を24時間守る責務がある。災害時、陣頭指揮を執らなければならない場面でも『子育てがあるからやらない』と言えるかが、本当の意味での知事が育休取得ということ」と指摘し、論争が過熱した。
「社会意識を少しでも変えるという点では意味があり大事な発言だ」とする嘉田由紀子滋賀県知事、「知事といえども人の子」とする石原慎太郎東京都知事らは湯崎知事らの行動に理解を示し、知事の間でも意見が分かれた。
その後、橋下知事は「議論をしてもらって(社会全体が)仕事に支障があっても育休を取るという機運になればいい」と、育休取得の普及が苦言の真意だと明かした。
パフォーマンス?
橋下知事の思惑に乗って「首長の育休」を取材した記者の印象では、社会全体で仕事に支障があっても育休を取るという機運の醸成にはほど遠い。
湯崎知事の育休時間は第3子誕生後の1カ月の間で、上の子の幼稚園の送りが10回とお迎えが5回で、時間で換算すると約20時間だという。「公務に支障のない範囲」でしか、知事や市長が育休を実践できなかったことで、さらにその機運は後退した。
なぜ、男性の育児参加が必要なのか。地域社会のつながりの希薄化や核家族化、個人主義的な考え方が浸透したために、初めて子供を持つような未熟な母親が、気軽に相談できる相手がいない。一方で、社会的に「男性は家事育児より仕事」の役割分担が変わらず、母親は孤立する。1人で育児を抱え込み、悩むことが子育てを難しくする。
さまざまな要因から今の社会は、結婚し子供を持ちたいという人間としての自然な感情を育みにくくしている。
男性の育児参加について全国で講演活動などを行うNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は「少子高齢化は中長期的な危機」とし、男性の育児参加の意味を足下から考えてみる必要があると主張する。
自治体トップの育休、過半数賛成 全国の知事アンケート 2010年12月05日 共同通信
http://www.47news.jp/CN/201012/CN2010120401000409.html
広島県知事や長野県佐久市長らが“育児休業”を取ったことに賛否の議論が起きているが、47都道府県知事の過半数の25人が自治体の長の育休取得に賛成していることが4日、共同通信の調査で分かった。反対は4人で18人は賛否を示さなかった。トップが職務を離れることに住民の反発も予想されるが、賛成の知事らは、男性の育休取得を促すにはリーダーが率先して取ることが有効、と判断しているようだ。
賛成は岩手、静岡、岡山、徳島、沖縄の知事ら。中国、四国、九州の17県では7割に上った。
賛成の理由は「男性の育休の取得促進」(橋本茨城県知事)「社会の機運盛り上げのきっかけとなる」(横内山梨県知事)が多い。ただし、職務に支障を来さないよう配慮することを前提にした賛成が目立った。
「自らの子育てができない者が子育て政策を論じることはできない」(平井鳥取県知事)「子育ての経験や力を仕事に生かすことができる」(広瀬大分県知事)などもあった。
反対は、群馬、千葉、大阪、兵庫の4知事。「県民の生活と安全を守る職責がある知事の取得は危機管理から難しい」(森田千葉県知事)などが理由。
残りの18知事は賛否を明らかにしなかった。
自治体首長の育児休業(実質的には育児休暇)について書かれた興味深い記事が2本あったので、当ブログでも紹介したいと思います。
ん…。私も最近は30代や40代前半くらいまでの子育て世代の市長が相次いで誕生している(政令指定都市だけでも、千葉市で31歳、福岡市で36歳の若い市長が誕生しています)だけに、公務に支障が生じないことを前提に条件付き賛成派ですが、確かに女性市長が産前産後休業からそのまま育児休業に突入するケースなどは、欧米と異なり権限の移譲がまだまだ進んでいないこともあり、実務上長期間の取得は厳しいのかな…と思います。
とはいえ、同世代の自治体トップそれも男性が育児休業を取得すれば、『実は育児休業を取得したいけど、世間の目が気になって取得を言い出せない』といった子育て世代の取得を促す効果も期待できそうですし、ここは『できない理由』を探すのではなく、『どうすればできるか?』を考えたいところ。
ノルウェーでは大臣就任中に、出産し育児休業をとった女性が何人もいると聞いていますし、まだまだ男性の育児休業取得にネガティブなイメージの強い日本では、まずは議論をすること、そして自分自身の問題として男性全体がこの問題を真剣に考えることが重要なのかな…と思います。