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〔加筆〕神父の独白 (そのー1)
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(2017年2月11日に書き始め、25日に加筆)
深夜、机の前の窓から見上げると、空はむら雲に星もなく真っ暗だった。
数時間前には黄色い満月が雲間に見え隠れしていたのに・・・
満月を見ると思うことがある。懐かしい思い出が・・・
2月14日は満月からはや3日後の月
この2か月間、ほとんど外出することもなく、
神学校の広い敷地内に閉じこもった。
もうすぐ93歳の平山司教の老々介護の他は、
キコの新刊、「アンノタチオネ」( “Annotazione”)
-「覚え書き」とでもしておこうか-
の翻訳で時が流れる。
僧院の修道僧のように世間を絶った静かな時間、
昨日10ページ、今日4ページと、むら気な進捗ながら、
4月には最後まで通しの粗い訳が出来上がるだろうか・・・
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午後遅めのお茶の時間は、司教様との至福の時間。
日々工夫を重ねながら、煎茶の美味しい入れ方を追求する。
貴重な虎屋の羊羹が底をついたら、中村屋の柚子羊羹も悪くはない。
先輩の教訓に満ちた昔話に時は静かに流れる・・・
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夕食の後は、
「メンドーサ枢機卿様にご挨拶」???
・・・は、二人の合言葉。
そう、司教様のお部屋に戻って、クリスタルの丸いクグラスで、
「カーディナル・メンドーサ」という銘柄のブランデーを戴くのだ。
証拠写真が欲しくて、午前2時、そっと忍び込んで戴いてきた
深夜、キコの本の翻訳をしながら、
私は何者か、と問うてみた。
キコに影響されたか:
お前は、傲慢で、利己主義で、
好色で、淫蕩で、嫉妬深く、怠慢で、
恩知らずで、裏切り者で、人殺しで、
金に汚く、嘘つきで、盗人で、
食い意地が張って、酔っ払いで、
すぐにカッとなり、強情で、残虐で、
猜疑心が強く、・・・
と、リストはまだまだ続くが、全部そのまま自分の身に当てはまり・・・
要するに、わたしは救いようのない大悪党であることが
身に染みてよく分かってきた。
外資系銀行を辞めて、せっかく神父なったけど、
「日暮れて、道遠し」とはこのことか?
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高松の神学校がローマに移されて早くも8年になる。
その間に、この神学校を出た若い神父たちは、
カトリックの最高学府、グレゴリアーナ大学などで、
神学修士、博士の学位を取って、
アジア各地の第一線で宣教・教授活動に励んでいる。
日本の田舎の小さな神学校は、
いつの間にかアジア全体の宣教の拠点に育ちつつある。
司教様は、神学校の日本帰還まで死を見ない、と楽観しておられるが・・・。
哀れみ深い神様!彼の最後の願いをどうか聞き届けてください。
お願いします、神様!
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ローマに来てよーく分かった。バチカンの中は俗世の組織と選ぶところがない。
例外もあろうが、押しなべて能力もモラルも凡庸なお役人たちによって、
旧態然とした効率の悪い肥大した官僚組織の中で、
多数派の保守と少数派の革新がしのぎを削っている。
嘘も、怠慢も、誹謗中傷も、罠も・・・暗殺も、なんでもありの世界だ。
何も昨日、今日に始まった話ではない
http://blog.goo.ne.jp/john-1939/e/54748ace9ce6f15f2de45317dbce5eb5
忘れられた中世の町「アナーニ」への郷愁
「教皇ボニファチウス8世の屈辱」
(ブログ2014年3月17日参照)
2000年前、無学なガリレアの漁師たちに託されて以来、
中世を経て教会はずっとそうだった。
宗教業界ナンバーワンの規模と暖簾の古さを誇るカトリック教会が、
こんなに肥大したおんボロ船でありながら、
2000年の歴史の荒海を乗り切って沈没を免れたきたことは、
神の存在とそのご加護が無ければ、
全く説明不可能だ。
これほど明白で強固な神の存在証明が他にあるだろうか?
アーメン
谷口