「まずはメンバー紹介から。
センター玉。いつもは囲いの中にいるけど、実は最強の守り駒。
はい、その隣は金。いてくれるだけで心強いぜ!
はい、叩かれると弱いけど、攻撃の主軸銀将よろしく。
続いて曲者の桂ちゃん今日も速攻たのむよ。
まっすぐ前しか見ていない、縦だけなら飛車と一緒隅には置けないぜ、香ちゃん!
はい左サイド。いつも遠くを見据えてる角さん。今日も華麗なさばきよろしく。
誰もが恐れる大駒だ。はいみんな大好き飛車! 龍になって大暴れしてくれ。
前列一直線に並ぶのは、このゲームの主役。将棋は歩からだ!
そして、俺は人間。奇跡を見届けるものだ」
「それでは準備が整いましたので対局を開始してください」
記録係がゲームのはじまりを宣言する。
(準備が整った時ほど幸福な瞬間はない)
俺はゆっくりとお茶に口をつける。
まだ初手は指さない。無理に進める必要はないだろう。
「前進させぬ駒がある」
そう。すべては俺の指次第だ。
もう一度、俺は湯飲みに手を伸ばす。
胸の中がじんわりと熱くなっていく。
(いつでもはじめることができる)
俺は薄々気づいている。
いま目前にある初形こそが一番美しい。
俺たちはこれから長い時間をかけて崩れていくのだろう。
それこそが人間にできるライブというものだ。
「さあ、みんな! ついてきてくれ!」