廃棄された椅子はまだかけることができた。真夜中にミニトマトを食べるのは、クリエイティブを炸裂させたかったからだ。テーブルがガタガタと震える。近くに霊的な何かが降りてきたせいだろうか。冷たい風がおぼろげな断片をさらって行く。風だけを頼りにしたい。僕はもう空っぽになりかけていた。
橋を渡ると爆音が響いた。トマトを持っていれば、襲撃されることはないだろう。渡り切ったところで家が反対方向だと気がついた。
部屋のあちこちに飲みかけのトマトジュースがあった。甘いものが欲しくなって、残ったミニトマトの1つにはちみつを垂らした。はちみつの蓋が突然消えた。さっきまであったのに、いくら捜してもみつからない。いつの間にか、窓が開いている。風に引き入れられたカーテンが、ちょうど子猫のような形になった。
本と本の間から何かわからないコードがみつかる。テレビだか、ゲームだか。何でもいい。捨てようか。何かわからないシャツも、捨てようか。シャツのようなパンツのような、わからない奴。
「さよなら」
目も合わさない。別れの言葉がそれだけ。またねの1つもないとは、僕らはいったい何だろう。ああ、友達とは難しいものだな。
朝が近い。おにぎり2つしか食べていなかった。
スーパーの前では夜を通して作業する男の姿がある。開店時間をたずねると無言で上の看板を指した。8時30分。中途半端に早い。
「わしらより早いでー」
スーツ姿の酔っぱらいが看板の下でくだを巻いていた。
コンビニの前に立つが開かない。ドアは手動になっていた。中に入ると大勢の男たちで賑わっている。夜の間は立ち食い寿司屋になっているのだ。お弁当やサンドウィッチやアイスやお菓子やカップ麺など、昼間売られている商品の一切が姿を消していた。
「テイクアウトで」
数秒前に入った男が大将に慣れた様子で注文している。
「4ー4ー1ー1で」
数字が何を指すのかさっぱりわからない。
「一人前持ち帰りで」
女将さんに言って丸椅子にかけた。
「時間がかかるから奥へどうぞ」
奥のソファーには誰もいなかった。畳の上に新聞や雑誌が散らばっていて、隅っこには無数の縫いぐるみが山積みになっていた。
テレビ画面に映る大家族の映像を、興味ありげに睨みつけた。
きっと時間がかかる。前の男が凝った注文をしたからな。