眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

消える人

2021-02-25 02:41:00 | 夢追い
 遙か向こうから手を上げる彼女に気がついた。その瞬間までまるで気づいていなかった。僕は思い出し笑いをしていたかもしれない。おかしな顔を見られてしまったかもしれない。一瞬そう思ったがそれには距離が遠すぎた。見つけるのが(知らせるのが)あまりに早すぎるのだ。まだ十数メートルもある中で、合図した以上は意識せずにはいられない。顔を合わせるのは久しぶりだった。何週間、それ以上かもしれない。どう声をかけようか。立ち止まった方がよいだろうか。周辺視野の奥にずっと彼女の存在が浮かんでいる。もう少しだ。
 彼女は不意に彼女の右を指さした。

「私はこっち……」
 唇がそのように動いた。
 そちらは駅の方向ではない。
 そちらには何もない。何もない風景が無限に開けているだけなのだ。どうして……。僕は彼女にたずねることも追いつくこともできない。

(みつけておいて消えるなんて)
 おかしな人だな。

コメント
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