眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

いなりの消えたうどん屋さん/追い出される前に

2023-06-30 15:52:00 | コーヒー・タイム
 どうしてうどん屋さんのいなりはいつも売り切れてしまうのだろう。仕込みが足りないのか、見込み違いなのか。人気がありすぎるためか。いなりの大食いが頻繁に訪れるのか。売り切れごめんのスタンスを取っているのか。(その時はその時だ)作る時間が足りないのか、たくさん作るのが面倒なのか。あるいは、店主は食品ロスの問題には熱心であって、絶対に余らせてはならないと思っているのだろうか。原因はだいたいこのいずれかの中にあるはずだ。

(たぬき&いなり)
 それが僕の購入した食券だ。
 売り切れにした(消した)はずのいなりの食券が出てきたと厨房内は騒然となった。ゴースト現象か?

「消したけどな……」
 店主はまだ腑に落ちない表情を浮かべていた。
「どうしましょう?」
 ないものはもうない。おかんが代案を問いかける。
 うーん……。
「おにぎり」
「もうこのままでええわ」

 本来はおにぎりに変更するとプラス20円を払わなければならないが、今回はそれについては免除するという意味だ。あるはずだったいなりが食べられなくなったというのに更に追加料金を払って別のものにしなきゃならないのかという気持ちが僕の方にも多少あって、おかんの好意を当たり前のように受け入れてしまう。
 しまったな……。えび天トッピングにしてもらえばよかった、とおにぎりが出てきてから後悔した。おにぎりは、いなりのように一口では食べられない。


 人だかりができて講談師を囲んでいた。
 積年の恨みを晴らそうと雇った刺客共は集まったか。しかしよくもこう早撃ちばかりを集めたもんじゃねえか。それで始末は済んだのか。それが駄目だったって。速いは速いが当たりゃしない。全く鞍替えしやがれってもんだい。全く年中無休ってのは忙しいもんで、お前さんたちは年がら年中腕比べに夢中だ。何でも二八の蕎麦が引きが強いようで。チャカチャンチャンチャン♪ お前さんは光速で、お前さんはチーター並、お前さんときたら青春以上だって。馬鹿野郎が。ちゃんと数字で示せってんだ。視聴率なんてあてにならないもんじゃございませんぜ。しかし、トーナメントってのはいつ見てもわくわくするね。飛ぶ鳥を落とすような勢いの奴がいるが、次元が違うもんでも見せられてるのかね。で、今度がどっちが勝った? またあんたか!
「お前さん、どこで修行なさったい?」
 えーっ、もう人数分できたって! ちょうど今夜は大晦日っていうからこいつはびっくらほいの仕事が早いや。来年も平和でありますように。パチパチパチパチ♪


 どうして人はカフェなんかに行くのだろう。どうせ帰るのに。どうしてコーヒーなんか頼むのだろう。どうせ冷めてしまうのに。どうして平気な顔して談笑していることができるのだろう。どうせみんないなくなるのに。知らないのか。それとも知っていて知らない振りをしているのか。だったらそれは集団ヒステリーか何かだろうか。どうせと思ってしまうと、心身を前に運ぶことが難しくなってしまう。それでも注文したコーヒーは自分で運んで行かなければならない。(それがセルフカフェというものだ)

「まだいます!」

 明かりの消えた銭湯の中で叫んだことがある。富士山も眠りについた静けさの中で清掃員の目が光っていた。あるいは猫だったかもしれない。閉じ込められた記憶は簡単に消えるものではない。

(ごゆっくりどうぞ)

 言葉を言葉通りに受け取ることには危険が伴う。例えばそれが閉店間際の店内であれば……。アディショナルタイムが短ければ主審に訴えたくなる。けれども、店員は審判とは違うことに注意が必要だ。(誰だって早く家に帰りたい)

 帰れ帰れ はよ帰れ♪
 ほれほれ帰れ とっとと帰れ♪
 いつまでもくつろいでんじゃねえ♪
 帰れ帰れ もれなく帰れ♪
 笑顔の押し売りはおしまいだ♪
 いっぱい飲んだら さっさと帰れ♪
 ほれほれ帰れ とっとと帰れ♪
 みんな帰って♪ 私たちを解放しておくれ♪
 帰れ帰れ はよ帰れ♪
 もういい加減に 追い出しちゃうぞ♪

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宝くじに当たる

2023-06-30 09:02:00 | 忘れものがかり
途方に暮れている母を
遺品に紛れた宝くじに引き込んだ
束の間ならば現実を離れられる
ジャンルというものもある
(それにしてもどうして未開封なのか?)

1等から順に確かめる
大当たりなんて認めないと母は言う
兄の命には見合わないからだ
(100万円までなら許すらしい)

案の定 まるで当たりくじは出てこない

手つかずのままのスクラッチを10円玉で削る
母は表面の銀のみならず絵柄まで削ってしまう
(力を込めすぎだ)

やっぱり 全部駄目だった

削りかすで真っ白になったテーブルの上に
コードレスの掃除機を滑らせた

母が使いこなせない奴

(なぜ?) 今はそう問うこともなくなった

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