眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

詰将棋とスパイ小説

2020-07-19 08:56:00 | 将棋の時間
「主役を疑え」

 ミステリーの醍醐味は最後のどんでん返しにあると考える人も多い。ほとんどの場合、それは実に意外な人物である。犯人面の人がそのまま犯人であることは少ない。また、最終章になっていきなり現れた人が真犯人であるというケースも希だろう。それでは「誰やねん」という読者の反感を買ってしまう。結末へ向かって読んできた時間を、無駄に感じさせてはならない。最初の方から登場し、主人公にとって身近な存在でありながら、実は顔に表裏がある。そのような人物が怪しい。「あなただったのか……」仮面を取ってみれば実は父であったというようなことがある。いい人はわるいことはしない。好きな人は優しい。そうした読みの先入観がトリックに利用される。

 多くの読者は角より飛車が好きなのではないだろうか。


「あなたの好きは利用されている」

 飛車を取ればうれしい。飛車を取られるのはかなしい。できれば飛車は大事にしたい。もしも、飛車を失うという時は、相当な見返りがなければ納得できない。
 但し、詰将棋の世界では飛車も歩も玉を詰ますために配置された同等の駒である。躊躇なく飛車を切り、頭金で詰ますことが、詰将棋の醍醐味と言える。
 それでも飛車を切りにくいという場面は存在する。どうみてもそれが重要なキープレイヤーに見える、という局面である。そういうケースでは、普段の飛車好きが復活し、先入観となり読みを邪魔してしまう。局面が冷静に見れなくなった瞬間、作者の術中にはまって抜け出せなくなる。

 途中局面を例に挙げてみよう。
(玉方…4二玉他。攻め方…4四桂、5一飛車他。持ち駒…金、角)
 さて、大好きな飛車の5一飛車を大事に思うと迷宮入りする。

(正解手順…3一飛成、同飛、5一角!、同飛、3二金まで)

 3一飛車成!が英断の焦点の捨て駒である。そして5一に角を打つスペースを作ることに成功した。邪魔駒消去の詰将棋手筋、実は主役は飛車ではなく、角であるというのが作者の用意したトリックである。
 この飛車の裏切りに気づかなければ、犯人逮捕は永遠に実現しない。好きや先入観はトリックに利用される。


「学んだことが逆用される」

 将棋には多くの格言が存在する。実戦の多くの局面で、それらは割と正しい。格言の類を多く知ることで、直感の精度を上げたり、読みを省略したりできるようになる。
 例えば、金は斜めに誘え、金はとどめに残せ、下段の香に力あり、遠山の角に名手あり、二枚飛車に追われた夢を見た、三枚堂の攻め切れにくし、風邪を引いても後手を引くな。など役に立つ格言は山ほどある。
 しかし、「実戦は生き物」。全部が全部いつでも当てはまるわけもないのである。

 ごく希に格言の逆を行くような手が最善手になるといった局面が現れる。ハイレベルの戦いになるほど一手が勝敗を左右する。格言を正しく守るだけでもある程度の強さまでは達するが、その先へ進むことは難しい。先入観となって邪魔をし、その局面だけの好手を発見しにくくなるからである。

 下手に風邪を引いては精彩を欠きミスが多くなるのではないか。同時に後手も引くことにもなれば、踏んだり蹴ったりである。また、病院に行けばその分だけ診療代もかさむ。事前にケアしておくことが最善で、対局中はマスクをつけ、また、マスクを外してこまめに水分を補給することが大事である。そして、季節に相応しいマスクを探すなど新手の研究を怠ってはならない。

「金はとどめに……」これは実戦の多くに、また詰将棋においても当てはまることは、多い。しかしこうした「金言」も、逆用される恐れがある。読者の頭に深く刻まれた知識/感覚が作者のミスディレクションに使われることを、頭の片隅にでも置いておくことが望ましい。
「玉は下段に落とせ」そうした格言のすべて逆を行って、早々に金を捨て、玉を上に追っていく。そして、最後は大駒の脚の長さで詰め上げるといった図式もあることを知っておきたい。
 信じるものと疑うもの。そのバランスの中で詰将棋は上達していくものかもしれない。



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バイキング・コンプライアンス

2020-07-18 07:36:00 | ナノノベル
 今日はマネージャーが視察にやってきた。
 こういう日に限ってやたら忙しい。
「えっ? ランチタイム拡大したの?
 16時まで?
 店長、大丈夫? 人まわってる?」
「まあ、なんとか」 

「この肉じゃがもう肉ないよ。
 札このままじゃまずいよ。
 店長。クレーム入るよ。訴えられるよ!
 変えないとまずいよ」
「じゃがじゃがでいいですかね」
「何それ? わかんないよ。
 お客さんに伝わらないよ。
 元つけて。前にだよ」
「こうですか?
 『元肉じゃが』で」
「そういうことでしょ。バイキングって」
「はい」

「元札たくさん用意しといてね」
「はーい」
「店長! コンプライアンス!」
「コンプライアンス!」
「生き残れないよ。しっかりしなきゃ」

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デタラメ折句の旅、和歌、短歌、いかがでしょうか

2020-07-17 18:14:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
愛憎が桂馬のように飛んだから
馬の面にもフェイスシールド
(折句「揚げ豆腐」短歌)


アットホーム
首都を逃れて
旅の宿

(折句「あした」俳句)


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折句「終末占い師」、短歌、和歌、いかがでしょうか

2020-07-17 06:50:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
占い師たぶんどうでもいいことに
光を当ててトークトゥーミー

(折句「うたいびと」短歌)


地球が
くす玉みたいに
割れちゃった

(折句「竹輪」俳句)

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道場破り(将棋メシ)

2020-07-17 06:41:00 | 夢追い
 好敵手との対戦に疲れて道場の床に伸びていた。この戦いによって感覚は破壊され、世界観はまるで変わってしまったようだった。時刻は23時を大きく回っている。なのにこの道場の大盛況振りはどうしたことだろう。みんな家に帰らないのだろうか……。しかし、自分はもう限界だ。

「帰ります」
「800円です」
 と席主が言う。
「食べたぞ」
 誰かがすぐに僕が出前を取ったと告げ口をした。その料金がまだ未払いになっていたのだ。
「310円です」
 すると逆に料金が下がった。
 定食屋のセット割が適用されるという。

「大丈夫か?」
 その後、道場の中は定食屋の安さの話題でいっぱいになった。味はよくて、量も普通以上だった。それでいて料金の驚きの安さ。どういう商売をしているのやら。
「ありがとうございます」
 明日はあのデタラメ振り飛車を破ってやる。
 それにしても、僕は今夜自分が食べたものが思い出せないでいる。

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pomera心中

2020-07-17 03:38:00 | 【創作note】
 板を開くとpomeraが顔を現す。
「さあ、好きなところまで行け」
 僕は無計画にpomeraを走らせる。
 旅の大きさはどこで決まるのか。
 論点や主張、出来事の数?
 どうだろうか。指先に見えるのは記憶の断片と曖昧なモチーフだけ。プロットも終点も定まっていない方が、旅は気楽。あとから乗り込んでくる奴の発想の方が面白いこともあるから、あえて決め切らずに行こう。

「面白いのはあなただけ。そんな無謀な旅にいつまでも他人がつき合ってくれると思うの? みんなはもっと小さくて可愛いものが好きなの。ほら、これを、この器に合わせることが共感を集めるのよ」
 575の器を置いて先生が言いました。

「無理だよ先生。足りないんだ。僕には技量がない」
「だったら好きになさい。独りになる覚悟を持って行きなさいな」
 許された瞬間、僕は怖くなったんだ。
 色々あるのに、いくらでもあるはずなのに、一行も伸びなくなってしまった。
 pomeraは顔を伏せて、ただの黒い板に戻ってしまった。

「納めることもあふれることもできないよ」

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星の宝物

2020-07-16 09:06:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
満天のフードコートに降り立って一番を待つ猫背の少女


人間のゴミ箱を掘る我ら猫にはときめきの箱に当たるの


揚げたてのチキンを一つ手にとって狐を語る先生の色


まだ光り輝いている22時モスバーガーに集まる詩人


ひとしずくダイヤの消えた線上を光と共に進む夜汽車よ


輝きで虫を募った電灯に一目置いて行き過ぎる猫


「お下げしてよろしいですか」生き残るパセリに向いた君のささやき


マルセロが一足先にキープした瞬間前へ開ける銀河

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鬼の人格ドーパミン

2020-07-16 05:13:00 | ポトフのゆ
 人生の機微を集めたキビ団子。突き上げる寂しさとあびるほどの不備の中を団子を探してしゅんさんは歩き回る。おびただしい数の偽のキビ団子が転がっている。しゅんさんはそれらをちょびちょび拾っては捨てなければならなかった。

 歪な形をした偽のキビ団子はすぐに偽のキビ団子と見破ることができたが、正しいキビ団子の手引きにも載っているような偽団子の時などに思わずそれを手に取ってしまい、脳内からドーパミンが出掛かることがあったが、厳しいチェック機関である脳内審判が旗を上げることで、直ちにドーパミンは引き下げられるのだった。

 ナビがあれば飛びつくのだけど。探求は老いへの道であるように思えて、おいおいおいおいしゅんさんは泣くのだった。どうしてここへ、どうして私はどうして……。おびただしい問いが追いかけ始めた時、しゅんさんはまた逃亡者になった。子供たちを置いて出て行ったのは、しゅん先生だった。

 風レオンから鬼の人格が現れた。二人三脚する人の間にどこからともなく入り込んで、両者の絆が消えてしまうまで居座ろうと試みた。トースターに手を伸ばすと、まだ焼けてもいないパンを引き出して、一面に容赦なくバターを塗りたくった。

 密かにシェフの背後に回ると手の込んだ料理の中から凝縮された旨味成分だけを取り出して回った。おびただしい数の偽のキビ団子をばらまいて大いなる困難を誘った。犬に乗り移っては高級なシューズばかりをくわえて逃げ回った。

「もうやめるんだ。きみは本当はいい子なんだ」
「いいえ。これが本当の私よ」



 風レオンから鬼の人格が現れた。濃縮4倍のめんつゆを7倍、8倍に薄めて回った。人々はいつもよりも少し味気ないめんを啜った後で、少し寂しげな表情を見せた。

 鬼の人格は自販機の陰に潜んだ。商品が購入される直前に神業的な速さで返却レバーを押して回った。セーターをもらったばかりの人に同じ色のセーターを重ねて贈ったり、スリッパをもらったばかりの人に色違いのスリッパを重ねて贈って回った。

 人間工学に基づいて作られた製品を片っ端から分解して、鬼工学に基づいた仕様に正して回った。

「やめるんだ。そんなことをして何になるんだ?」
「困った顔が見てみたいだけよ」
「そんなことをして何が楽しいんだ? 悪趣味じゃないか」

「私の中の人格がそうさせるのだから、仕方がないのよ」
「早く戻るんだ。本来の自分を取り戻さなくちゃ」
「だけどね、しゅんさん。これだって本当の私なの」





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躊躇せぬ人々

2020-07-15 22:32:00 | 短い話、短い歌
 友達はグルメ狂。
 美味しい店に案内してくれるのはいいが、食べ方にまで口を出してくるのは何とも疎ましい。そこを甘受してつきあいを続けるかは、難しい問題だ。

「まずは蕎麦だけを食べて」
 逆らうとうるさいのでここは言う通りにするしかない。
 何とも味気ない感じがした。
「次につゆをつけて食べてみて」
 やはりこの方が格段に旨い。
「めんつゆ旨いだろ!」
「確かに旨い」
 最初にめんつゆを差し引いた蕎麦だけを食べさせることで、めんつゆそのものの旨さを認識させるという高等テクニックだった。
「この店はめんつゆなんだよ」

「大将、ごちそうさん」
 友達は威勢よく声をかけながら、めんつゆを褒めた。
 入り口付近の土産コーナーには、自慢のめんつゆが並び光り輝いていた。


お父さんGoToどこへ行きましょう
私は風邪を運びたくない

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宇宙スタンダード

2020-07-15 09:06:00 | ナノノベル
 皿うどんを注文するとうどんだけが出てきた。
「ごめんなさい皿が切れちゃって」
 うどんは宙に浮いている。
「これじゃあ皿なしうどんだね」
 ふふふ。

「えっ。これどうやって食べるの?」
「何言ってるの。早く熱い内に食べるのよ」
 うどんが落ちない内に箸でつままなければならない。
 ふーふーふー。
「あちちっ!」
「気をつけて。宇宙じゃこれも普通よ」

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レア・ケース&コーヒー

2020-07-14 12:11:00 | ナノノベル
 とんでもない事態が発生した。
 マニュアルにはあらゆるケースを想定した、対処法が記されていた。それに沿って動けば解決不能の問題はないと長く信じられていた。それにしてもとんでもない事態が起きたものだ。
 私たちはマニュアルを一旦置くことにした。今必要とされるページがまるでわからなかったのだ。

 私たちはお菓子を食べた。歌ったり日記を書いたり昼寝をしたりした。それがよいことだとは思わなかった。それでも何か普通のことがしてみたかった。日常的な動作にくっついて落ち着いてみたかったのかもしれない。ぶらぶらと遊ぶ者がいた。パズルに興じる者がいた。酒に手を伸ばす者も現れた。

「そんなことをしている場合じゃない!」
 AIマネージャーが駆けつけて言った。
 私たちは何をしていいかわからなかった。
「これはどんな場合なんですか?」
 マニュアルにない事態は初めてのことだ。

「今はどんな場合でもない!」
 だったらそれは初めてのケースだ。
「そんなことが?」
「だから自分たちで考え動いてください!」
 私たちはただおたおたとしていた。
 コーヒーにしようよと誰かが提案した。

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おはよう無茶苦茶折句、和歌、短歌、いかがでしょうか

2020-07-13 06:59:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
躊躇なくチューはできない仲介の
中2を呼んで注意しないと

(折句「チュチュチュチュチュ」短歌)


あかさたな
塩バニラから
タラバガニ

(折句「あした」俳句)

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人を傷つけない妖怪の使い方

2020-07-13 06:28:00 | フェイク・コラム
「あれどこ行った?」
 物は勝手に動かないから、動かしたのはあなたである。
 ほとんどの場合は捜せばすぐに見つかる。少し記憶違いがあったとすれば、少し外れた場所から出てくるだけ。
 少し時間をかけることで、少し頭を働かせることで、ほとんどの捜し物はすぐに見つかることだろう。
 だが、一生の間にごく希にではあるが「絶対に出てこない物」というのが、必ず出てくるのである。
 もしかしたら、あなたも覚えがあるのではないだろうか。

(あった物をなかっかことにするのは難しい)

「絶対にあるはず」=「絶対に見つかる」
 強い信念はモチベーションを持続させる。最終的に見つかる物なら、どれほどの労力を注いでも、その甲斐はある。
 だが、もしも「絶対に出てこない物」に対しても同じようなマインドで向かったとしたら、努力は失望に結びつくばかりである。

「捜し物」=「本当に大切な物」
 という場合は、簡単にあきらめられるはずがない。
 そうではなく、ただ「あるはずだから見つけたい」という意地が先頭に立って捜し物に当たっている場合、以下の解決法をお勧めしたい。

「絶対にあるはず」
 信念が捜すをやめさせない。
 結果、捜し物は見つからず、時間だけが失われていく。
 これは(二重喪失)だ。

(勇気を持って信念を手放すことも必要)

 自分の記憶や人を疑うことは心が痛む。
 そこで今回ご紹介するのが
「妖怪の仕業」
 唐突なようだが、あえて妖怪という少し離れた存在を持ってきて、そいつのせいにしてしまう。(勿論、本気で妖怪に罪を着せるものではない)
 離れているということが重要だ。(そう思えるなら、猫でも幽霊でも宇宙人でも何でもいい)

 自分のせいで物がなくなったのではない。悪い妖怪が勝手に持って行ってしまった。腹立たしいが、一番のお気に入りのじゃなくてよかったな。妖怪が持って行ったのなら、いくら捜しても見つかりっこない。でも、運がよければその内に返してくれるかも。
「自分では(自分たちでは)どうすることもできない」
 みんな妖怪に押しつけることによって、自分の心を軽くすることができる。
 妖怪には悪いが、これは「悪者をつくらない」という人間の術なのだ。

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インタビュアー最接近

2020-07-12 09:49:00 | 夢追い
 確信のないコーヒーに何となく手を伸ばして飲んでしまった。ベンチに眠り込んだ先生の姿はどこか新鮮に思えたし、なかなか声をかけにくかった。後になって自分のためのコーヒーだとわかり安心した。

 本棚が降りてくるのは終わりの合図のようだった。逃げるように、だけど少し得意げに、キーホルダーのついた紐をぶんぶんと回しながら歩いた。出口の前で腰を下ろしコーヒーを飲み干した。風を受け歩き出すと唇が少し濡れている感じがした。

 駐車場ではリモートコントロールされた車が足下を執拗につついてきた。ジャンプしてかわすと車もジャンプしてアタックしてきた。小さな攻撃でも繰り返しあびるとダメージになる。スニーカーも傷みそうだった。すぐ近くにコンビニがあったがそこに避難することは躊躇った。袋の鼠になることが怖かった。僕は走って逃げ出した。街は暗かった。恐ろしい宣言が出たからだ。人魂が飛び交っている。

(くる!)

 リモートコントロールしていた親玉が姿を現す予感が走った。僕は橋を渡り切らずに浮遊した。陸よりも川の方に活路を求めた。水よりもじゅんさんの方を恐れた。人気ない古民家の屋根からじゅんさんがぬーっと浮き上がって現れた。わーっ! 加速が違う。瞬く間に距離を詰められた。顔に強烈な圧がある。じゅんさんは更に巨大化した。ああ……。

(インタビューされる!)

「どうやってるの?」
 それはテレビショーのパワーだろうか。
「お宅こそどうやってるんですか」
 じゅんさんはつっこみながらネタばらしに入った。全部リモートコントロールされていたということだ。
「車がしゃべるわけないでしょ」
「……」
 じゅんさんは車がしゃべったと主張した。
 落ち着くと足に痛みを覚えた。

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バイトテロ

2020-07-11 15:12:00 | ナノノベル
 Aセットを頼んでから随分と時間が経った。もしや忘れられているのでは……。そんな心配も脳裏を過ぎる。
「お客さん待ってます?」
 確か最初に注文した店員だ。
「はい」
「じゃあ、待ち続けてください」
「はい?」
 ずっと待っているのに。

「飛び込み優先なんで」
「……」
「今来た人からどんどんやっていくんで。待てないという人から出していくんすよ」
 どうも納得がいかない。理屈が合わないではないか。
 店員の言葉に従って私は待った。
 20分ほどして別の店員がやってきた。

「あのー。お待ちになっています?」
「はい」
 店員は改めて注文を確認した。
「このAセットですけど」
 一瞬、店員の表情が変わった。
「このメニュー古い奴ですね。もしかして……」
 ありもしないメニューを私は頼まされていたみたいだ。

「あいつかー」
 バイトのテロだと店員は言った。

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