眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

インスタント・チーム

2021-02-17 19:26:00 | ナノノベル
 どんなフォーメーションになるか。それは夜だけが知っていることだった。どこからともなくやってくるメンバー。海のものとも山のものともわからない。
 今夜やってきたのは、
豚ロース
長田ソース
千切りキャベツ
エッグ
とろけるチーズ
 なかなか濃い顔ぶれが揃った。
 チーム名は「お好み」だ!
 まとまるかまとまらないかは運次第。
「俺がいれば何とかなる」
 みんなが密かにそう思っている。
 きっとそれがチームの強み。

キックオフ!

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さらば理想の上司

2021-02-17 01:31:00 | 無茶苦茶らくご
 親は選べないと申しますが、上司だって選べないもんでござんす。苦労して意中の会社に就職できたはいいが、そこの上司が酷い奴だったとあればさぞがっかりでございましょう。上司というのは、毎日毎日顔を合わせるものでございます。贅沢は言わないまでも、最低の上司だけは避けて通りたい。それが人情ってもんでございますな。

「下手でもいいじゃないか。
半沢!
好きなように踊ってみたらどうだ?
お前が思う以上にお前は下手かもしれん。
それは誰からも誉められたりしない。
馬鹿にされたり、笑われたりもするだろう。

だがな、半沢!
それは人に勇気を与えるんだ!
お前のような下手くそこそが、皆に大きな勇気を与える。
そうだ、お前の捨て身の舞が力になるんだ。
だから、思いっ切り踊ってみせろー!
なあ、半沢!」

 悪い上司というのは、面倒な仕事は全部まとめて部下に押しつけるもんでござんす。そのくせ後で美味しいところだけ持っていってしまう。全くとんでもねえ野郎がいるもんでございます。反対にいい上司というものは、面倒なところを引き受けて部下にいい感じでバトンを渡すんですな。後方を援護しつつ部下の力が発揮できるような道を作り、全体として仕事が円滑に回るようにしてしまうんですな。そりゃもう人間の度量と申しましょうか、器が違うんですな。残念ながら、部下は上司を選ぶことができません。会社の情報はリサーチできても、上司の人間性までも知ることは極めて難しい。しかしながら、本当にいい会社ならば人材も整っているはずでございましょう。ろくでもない上司がいばっているような会社はろくなもんじゃねえや。やめちまえってなもんだい!

チャカチャンチャンチャン♪

「半沢!
私の言いたいことはここにまとめておいた。
あとは皆にお前から伝えてくれ!
ここに長々と書いて、はんこも押しておいた。
はんこもこれが最後になるかもしれん。

お前の方が息が続くだろう。
抑揚をつけて皆に訴えかけてくれ!
お前の声はなかなか響くじゃないか。
だからお前に任せようと思う。
多少細かい表現は変えてくれて構わない。
そこはお前の好きにやってくれ。
その方がお前もやりやすいだろう。
信頼できるお前だから、私も任せられる。

半沢!
あとのことは任せたぞ!」

 仕事というのはチームワークが大事でござんす。よいチームというのは1+1が2になるどころが3になる。もっとよいチームなら10にも20にもなる。色んな化学反応が起きて個の実力からは考えも及ばないくらいのチームが作られるものでございます。悪いチームではこうは事が運びません。1+1が2になるどころか1のまま。もっと悪いチームならゼロにもマイナスにもなるのでございます。足しているはずが実際は引っ張り合っているんですな。力が合わさるどころか弱まりながらバラバラになっていくのですから、そんなチームはチームとして最悪です。一人でやった方がましってもんでございます。いったい誰のせいでそんなチームになっちまうんでしょう。えーっ、なんなんだーい!

チャカチャンチャンチャン♪

「迷った時には人の仕事から先にやるんだ。
その方が仕事が上手く回るぞ。
仕事を回すということは庭を作るようなものだ。
どこに何を置けば美しいか、全体からみて考えねばならん。

半沢!
油断はするな。傘を持って行け。
それから薄手のセーターか何かも、持って行ったらどうだ。
向こうはこちらより寒いからな。
心配するな。ちゃんと申請は済ませてある。
現地に着いたら、早速クーポンを受け取ってくれ。
遠慮なくお前の好きに使え。
クーポンとはそういうものだ。

いいか、半沢!
仕事は遊びだ! 
だから胸を張ってクーポンを受け取ってこい!
そして受け取ったら、忘れずに使え。
使いそびれたクーポンは、ただの紙屑だ。
そうならないためにも、どうか存分に使ってくれ!」

 いったいこの仕事は自分に向いているのだろうか。誰しもそんな疑問を抱くもんでござんす。好きなことが向いているとは限らない。向いていることが好きだとも言い切れない。なかなか難しいものでございます。思わぬミスが続くと自信がなくなってミスがミスを呼ぶ悪循環に陥るなんてこともございます。頑張っても頑張っても結果が出ないともう逃げ出したくもなりますな。ミスを責めるくらいなら誰でもできる。そんなものは上司の仕事じゃございません。ミスをネチネチ責めるなんてのは、いい上司でもなければ人としてもろくでもねえもんだ。そんな会社はとっととやめちまえ。逃げ出しちゃえーってなもんだい!

チャカチャンチャンチャン♪

「半沢!
人間いい時も悪い時もあるぞ。
世の中いい奴ばかりではあるまい。
それと同じだ。ははっ。
お前はいいものを持っている。
だが、今は少し迷う時のようだ。
言ってみればスランプだ。

なあ、半沢。
スランプを引きつけけてみろ!
バネのように引きつけるんだ。
駄目な時は、何をやっても駄目だ。
どうやっても上手くいかんのだ。
しかしな、半沢。
ある瞬間、必ずターンする時が来る。
そういうものだ。
辛い時を乗り越えれば逆転するんだ。

なあ、半沢。
だったら耐え甲斐もあるじゃないか!
失敗しない奴がいるか。
今はたくさん失敗して、先で笑えばいいじゃないか」

 世の中には自分そっくりな人間がいるそうでござんす。「あんた日曜日の夜あそこにいましたね」なんて言われると思わずドキッとするものでございます。冷静になって考えてみるといるはずがない。ところが相手方は否定してみても一向に引き下がらないから困ったものでございまして。「いやいや絶対いたって」思い込みの激しい人はいるもんでございまして、しかし人間というものは同じ瞬間に別の空間に存在することはあり得ないわけですから、当人がいないと言っている方が確かなはずでございますが。「いやいや絶対いたって」といつまで経っても引き下がらない、その絶対という自信を他に取っておいたらどうだいお前さん。えーっ、どーなんだい!

チャカチャンチャンチャン♪

「おい、半沢!
その後調子はどうだ?
少しは前が向けるようになったか。 
飯は食ったか?
何でもいいから食べないと駄目だぞ。
カレーでもラーメンでもいいじゃないか。
パンだっていいんだぞ。
菓子パンもいいじゃないか。
なあ、半沢。
聞いているのか?
返事は?

おい! 半沢!
聞いてるのかと言ってるんだ。
どうなんだ、半沢。
聞いているのかと言っているを聞いてるのか?
聞いてないのか?
聞いているのか?
聞いている振りをして聞いてないのか?
聞いてない振りをして聞いているのか?
それを私に聞かせてほしい。

おい、半沢!
どーなんだ!

おい!
半沢半蔵!

はっ?
お、お前は……
いや、
こ、これは失礼した。

ちょっと姿勢がよかったものでな、
つい勘違いしてしまっていたようだ。
もしやと思ったが、
いやこれは、お恥ずかしい限り、
大変な人違いであった。
どうか、お許しいただけたい。
全面的に私の落ち度を認めさせてもらう。
この通りだ。
誠に、
誠申し訳なかった。

では、さらばだ!」

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雨上がり鴉は街に

2021-02-16 10:59:00 | 無茶苦茶らくご
お、何だい鴉の野郎
でかい顔して下りてきやがった

「今日はあの猫はきてないのか
いつもならあの店の扉があいて
いつもあいつは背中丸めて
缶詰食べてるのに
まあ今日は雨だしな」

鴉が何ぶつぶつ言ってやがんだ

チャカチャンチャンチャン♪

「今日は雨で
雨だからどこかに
隠れているのかな
空腹を抱えながら
どこかで雨を待つのか
それとも他に行ったのか
僕はあの店先の
あの猫しか知らないからな
僕は何も知らないんだから」

鴉が何言ってやがるんだ
わけわかんねえこと言ってんじゃねえ
全く鴉ってのはしょーがねえや!

チャカチャンチャンチャン♪

「僕は虹を探してるのさ」

何をぶつぶつ言ってんだい
えーっ、この野郎が
人間は大変なんだぞ
恋に仕事に税金課金
色々と大変なんだぞ
わかってんのかー、てやんでい!

チャカチャンチャンチャン♪

「また降ってきたな
雨上がりも長続きしない
危うい朝だ
これからだんだん変わって行く
そういう雨かもしれないぞ」

鴉の野郎がうっせーんだよ
何が不満だかは知らねえがよ
全く鴉ってのは暇かよ
人間は考えること多いぞ
仕事に趣味に税金課金
世界平和に地球環境
もういっぱいいっぱいなんだぞ
やってられるかい、べらぼうめー!

チャカチャンチャンチャン♪

「コンビニ袋が風にのって
うさぎのようにはずんでいくよ
どこからきたのだろう
どこへ行くのだろう
ああ何か甘栗みたいな匂いがするな」

鴉が朝っぱらから何言ってやがる
ぎゃぎゃーうっせーぞこの野郎
くそっ鴉がー!
まあ鴉に人間の言葉はわかんねえか
いつまでもほざいてんじゃねえぞーっとこらー!

チャカチャンチャンチャン♪

「向こうに何だか柄の悪いのがいるな
もう僕も行かなくちゃ
どこか身を隠せるとこへ飛ぼう

さよなら、
あの猫のいない朝」

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自作自演アンコール

2021-02-15 11:16:00 | 自分探しの迷子
「これか」
 その時、僕は少し浮かない顔をしていた。はっきりとどれに期待していたというわけでもないが、これかという感じだった。どうも違和感がある。これだという手応えがなかった。美味しくないというわけではない。美味しくないものは一つも含まれていないのだ。ただ満足できない。
 
 私はもう一度袋の中へと手を差し入れるのです。そうして引き出すまでの時間にときめきを覚える。それはギャンブラーの心というものでしょうか。
「これか」
 それは私の心に描くのとはほんのちょっと違う。これには悪いけれど、口の中で壊れていく間もどこかであれのことを思い描いているのでした。よーしもう一丁引くか!

 俺はくじ引きに夢中だ。盆の上にむき出しに置かれたのではない。袋の中に埋もれている。それがギャンブラーの魂に火をつけるのか。底知れぬ恐ろしさがこの袋にはある。あるいは楽しさだ。俺は奥まで手を差し入れて、一つのあられを引き出す。この小さな仕草にロマンがある。
「また、これか」それが今の俺の実力というところだ。甘辛く、少し苦いあられを俺はかみ砕く。次こそは当たるかもな。そうだ。次こそは本命の……。

「また、あんたか」
 ここにはあんたしかいないのか。いや、そんなはずはない。もっと他の仲間がいるはずだ。僕の好く奴が含まれているはずなのだ。なのに、嫌がらせのように同じことばかりが起こる。多様性とはおべんちゃらか。ずっと日照りが続いています。これでもかと押しつけられるあなたのおせっかいが終わった時、きっと革命的な雨降りになるでしょう。
 リスから鹿に変わり、シマウマからラクダ、リスに戻ってチーター、ライオン、カバ、キリン……。空からまとまった動物園が降ってきたとしてもおかしくない。動物園の次は水族館かもしれない。不条理は今に始まっているのです。

 私が欲しいのはやっぱりこれじゃない。でも、もう忘れてしまった。裏切りが続きすぎたために、本当に望むものがわからなくなりました。思い出すための手段はただ一つ。私がそれを引くことだ。私はもう一度手を底知れぬ袋の奥へと。

「またお前か」
 お前は少しも悪くはない。もしもそこがお前だけの世界だったら。俺は文句も言わずにお前を噛み砕く。落胆も何もない世界。だが、ここは純粋じゃない。紛れの多い世界から俺は手を引くことができない。お前は少しも悪くないのに俺は笑うことができない。ここは裏切りの街だ。もう一度チャンスをくれ。そうだ。何度でもいい。もっと艶のある奴が欲しいのだ。あるいは、今度こそは。

「また、これか」
 これっばかりはわからないや。僕の手は決してあられを見ることはないから。あれは幻だったのでは? これはこれで美味しいのだから。これでよしとすればいいのではないか。むしろこれこそがよい。そうして踏ん切りをつけなければ進めない場所があるのではないか。

 これこそがそうだったかもしれない。そう思いながらあられは砕けていきました。もう一つ行こうかな……。
 指先ほどに儚いものが際限のないアンコールを誘います。けれども、これ以上行けば空っぽになってしまう。私はそれを望んではいない。代わり映えのしなかった小さな宇宙から、今日はこのまま手を引こうと思います。きっとそれでいい。あれこれ思わず続きは残しておこう。
 心残りが明日の希望となりますように。

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【新小説指導】ドラゴンを呼べ

2021-02-15 03:00:00 | 新・小説指導
書きあぐねてるの?
何か書いたらええねん
スペースあんねんから
それからの話ですわ

異世界への道が見えない?
誰でもそうやで

ドラゴン呼んだらええねん
みんなドラゴン好きやねんから
呼んで泳がせたらええねん

「ドラゴン泳がす内に道が見えてきます」

そういうもんですわ
0から始めるのは大変や
でも書き始めたらあとは続けるだけや
コツコツコツコツ書いてったらええねん
どうも違うな思うたら消したらええねん
また1から書いてったらええやん

「小説は何度でもやり直せるよ」

ドラゴン呼んでドラゴン消して
呼んで消して呼んで消して
出したり消したり

「小説は魔法なんや」

ドラゴンと長くつきあっていく間に
異世界とのパイプができてきます
身近な人よりも親密になってくる
けんかしたり仲直りしたり
ドラゴンなんかもう知らん!
顔も見たくない!
言うようになってくるんや

そうなったら別れ時ですな

一旦みんな消して0にしたらええ

もうドラゴンなんか嫌や
異世界行きたくない
そうなってきた時は
我に返ってみることですわ
1から私小説でも書いたらええ

「私小説いうのはわかりやすく言うと日記です」

身の回りのことを書いていったらよろしい
暑いとか寒いとか
眠いとか腹減ったとか
どこぞ行きましたとか家帰りましたとか
何でもええやん
スペースあんねんからな

やっぱり何か合わんな
人生退屈やなーってなってきたらね

「そこでドラゴンの出番ですわ」

一度離れて逆に強くなってる
ドラゴンもあんたも強なってんねん
絆がぎゅっとなってますから

ドラゴンはまた生まれ変わり
あんたも生まれ変わっとる
スペース使ってきた分だけな

「小説家の人生は何回でもあんねん」

何回でも何回でも
ほんまに何回でもあんねん
何回でもですわ

だからやめられへんのよ

書き出したら終わりがない
わるくないでしょ?

思いがあるなら書いたらええ
書き出しの先はどうなることか
誰にもわからへん

何も悲観することはないっちゅうことやな
未来ちゅうのはようわからんもんです

「わからん分だけ占い師がおんねん」

ほらそこにおるやろ
占ったところでわからへん
わからん分おるわけやから
なんぼうでもおるけども
結局わからへんねんな

ドラゴンと一緒やな

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ハッピー・スタンバイ(最高の幸福)

2021-02-14 10:51:00 | 将棋の時間
「まずはメンバー紹介から。

 センター玉。いつもは囲いの中にいるけど、実は最強の守り駒。
 はい、その隣は金。いてくれるだけで心強いぜ!
 はい、叩かれると弱いけど、攻撃の主軸銀将よろしく。
 続いて曲者の桂ちゃん今日も速攻たのむよ。
 まっすぐ前しか見ていない、縦だけなら飛車と一緒隅には置けないぜ、香ちゃん!
 はい左サイド。いつも遠くを見据えてる角さん。今日も華麗なさばきよろしく。
 誰もが恐れる大駒だ。はいみんな大好き飛車! 龍になって大暴れしてくれ。
 前列一直線に並ぶのは、このゲームの主役。将棋は歩からだ!

 そして、俺は人間。奇跡を見届けるものだ」

「それでは準備が整いましたので対局を開始してください」
 記録係がゲームのはじまりを宣言する。
(準備が整った時ほど幸福な瞬間はない)

 俺はゆっくりとお茶に口をつける。
 まだ初手は指さない。無理に進める必要はないだろう。
「前進させぬ駒がある」
 そう。すべては俺の指次第だ。
 もう一度、俺は湯飲みに手を伸ばす。
 胸の中がじんわりと熱くなっていく。
(いつでもはじめることができる)

 俺は薄々気づいている。
 いま目前にある初形こそが一番美しい。
 俺たちはこれから長い時間をかけて崩れていくのだろう。
 それこそが人間にできるライブというものだ。

「さあ、みんな! ついてきてくれ!」

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【短歌】みえすぎた炎(折句)

2021-02-13 10:35:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
占いに頼れなかった一着は
屏風に秘めた虎の一着
(折句「うたいびと」短歌)


炎上を謳歌する桂馬のように
一瞬みえたあさがおに蜘蛛
(折句「エオマイア」短歌)


永遠にこもった部屋の爆音が
つくり出すミラクルストーリー
(折句「エコバッグ」短歌)


解釈は癇癪ボール認め得ぬ
一貫性に沈むアマゾン
(折句「鏡石」短歌)


抜きん出たタコスの将を討つために
長芋を研ぐ騎士の一手間
(折句「ヌタウナギ」短歌)


疑いを互いに置いた一日は
膝を合わせた友の一局
(折句「うたいびと」短歌)
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恋する棋士

2021-02-12 16:06:00 | 将棋の時間
 君はよく考える人だ。若い頃の私は今と比べれば考えることができた。それにしても君にはとてもかなわない。暇さえあれば君は将棋のことばかり考えている。暇という概念はもはや存在しないのだろう。言われてやる努力なんて続かない。本当に強いのは自然と向かう者。つまりは恋する者だ。恋は誰にも止められない。強くなるかどうかは恋するかどうかによって決まるのだ。すぐに醒めてしまうような柔な恋じゃない。終わりのみえない探究の恋だ。恋する者は強い。そして恋することによってどんどん強くなって行くのだ。もはや手に負えないことは明らかではないか。
 銀を出る手、香を打つ手、馬を引く手、歩を叩く手……。次の一手は、君にいい手ばかりがある。つまりは君が必勝だ。私はもうとっくに倒れている。それでも君は先の先を考えているんだな。私に勝つくらいは簡単すぎる。すぐに終わらせることもできるのに、未来へ力を溜めている。
 若い頃に比べ私は物わかりがよくなりすぎたようだ。
 さあ、投了の準備はできたぞ。
 私は君の敵じゃない。

「失礼します」

 そして、君は席を立った。
 私はゆっくりと身支度を整えながら勝者の帰りを待っている。

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【新小説指導】読者の居場所

2021-02-12 00:33:00 | 新・小説指導
まずあんた
行間が狭い!
きつきつやないか

どこに書いてるの?
ハンカチの上ですか?
米粒ですか?
駐車場か?
何も節約することあらへん

「スペースはあんねんから」

もっと優雅に空けたらええねん
難波から本町くらい空けてみ

読者はどこにいますか?
月の上ですか?
大草原ですか?
長居公園か?
ちゃうわー!

「読者は電車の中にいます」

あんたの読者は
きっつきつの通勤電車の中や
それでなくともしんどいねん
いっぱいいっぱいやねん
重たい本なんか持てません

片手でスマートフォンを持って
読んではんねん

あんたはアンドロイド?
アイフォーンか?
どっちでもええねん

必死で足踏ん張って
小説を読んでるんや
わかる?
なんでや思う?
どっか行きたいねん

「どこにも逃げ場ないからどっか行きたいねん」

ページをめくるんちゃうねん
スクロールさせるんや
そういうとこも考えなあかんねん

書くいうのは想像することです

あんたは文字をおにぎりみたいに固めて
詰め込んでるけど

「あんたの小説は弁当箱かいな」
スペースはあるやないの
節約することあらへん
空けたらええ
難波から南森町くらい

ばーっ













思い切って空けたらええねん
そうしたら世界は変わって見えますよ
スペースあんねんから
スペース見つけて
そこにピサトを走らせたらええねん

「言葉のピサトをみんな待ってますよ」

身動き一つもできへん
読者の心を動かしたりー

あんたそれができんねん

考えたらできんねん

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【短歌】小説ライター

2021-02-11 07:26:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
AIがとこしえに書く小説の
鎖に巻かれ錆びる現実
(折句「江戸仕草」短歌)


書き出せばどこかへ行ける幻想につかれて入る小説ロード

天井に蜘蛛が紡いだ糸を追うフードコートのローファンタジー

零れ出す時のしずくを受け止めて小説は永遠をみつめる

理屈から離れて光る小説は夕べ拾った夢のライター

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寝るひまない俺ら 

2021-02-11 00:31:00 | ナノノベル
「俺最近ちゃんと寝てへんねん」
「俺もそうや」
「横にもならへん」
「俺もやわ」
「俺無茶苦茶忙しいからな」
「俺の方が忙しいわ」

「だいたい立ったまま2、3秒くらいや」
「俺1、2秒くらいや」
「食わなあかん、遊ばなあかん」
「俺仕事もあんねん」

「俺もや。食って寝たら牛になるやろ。起きたらまた人や。俺そんなん嫌やねん」
「俺も嫌や。それやったら起きとく派や」
「俺もそっち派や。誰がわざわざ寝んねん」
「そうや。寝んでええやん」
「俺だいたい信号待ちの時くらいやで。することないやん」
「わかる。俺も暇つぶしで寝たるねん」

「まあ、ちゃんと寝るなら布団あった方がええな」
「ちゃんと寝る場合はな」
「枕とな」
「贅沢やな。タオルでええやん」
「まあタオルでもええけど」
「パーカーでもええやん」
「まあええけど」

「石でもええやん」
「石は硬すぎるやろ」
「何でもええやん」
「俺はお前より繊細やねん」
「ええやん。寝んでええやん」
「別に寝えへんけど」
「もったいないやん」

「だいたい忙しくて寝るひまないから」
「俺の方が忙しいわ」
「やらなあかんことが多すぎんねん。現代人は」
「俺も現代人やねん」

「洗濯もせなあかん。買い物もせなあかん。菓子食わなあかん。飯食わなあかん。茶も飲まなあかん。散歩もせなかん」
「そんなん昔からやで。俺は仕事もせなあかんねん。税金も納めなあかん」
「俺もやねん。ラインもせなあかんねん。インスタもせなあかん。ツイッターもせなあかん」
「みんなそうやわ。俺はいいねもせなあかんねん」

「俺もすんねん。noteもせなあかんねん。クリエイティブやねん」
「俺の方がクリエイティブやねん。アーティスティックやねん」
「色々削らな間に合わへんねん」
「俺もやで」
「寝る間を削らなしゃあないやん」
「俺もずっと削っとんねん」

「まあ日曜くらいはちょっと寝たりもするけどな」
「俺もそれくらいはするで」
「言うてもだいたい10秒くらいやけどな」
「まあ寝てもそんなもんやな」

「9秒と10秒やったらかなり寝た感がちゃうな」
「微妙に目覚めがちゃうな」
「あと1秒やったなとか肌でわかんねんな」
「まあアスリート的にわかるな」
「眠りも運動の内やからな」
「勿論そうやで」

「結局体力使うねん」
「無駄に使う時あるな」
「逆に疲れを感じる時あるな」
「わかるわ」

「それやったら寝ん方がええねん」
「そりゃそうやろ。何のために寝んねん」
「俺もう今年寝んとこ」
「俺もずっとオールでええねん」

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盗まれたディナー

2021-02-10 02:53:00 | 短い話、短い歌
 一口だけちょうだいと姉ちゃんが近寄ってくる。あまりお腹は空いていないと言う。一口食べてこれは美味いねと言う。
「なのでもう一口」
 自分でもう1つ作って食べればいいのに、決してそんなことはしない。
 そう言えばわたし朝から何も食べていなかった。
「だからもう一口」
 一口の定義は未だ発見されていない。
 あんた優しいから。
「じゃあもう一口」
 もう一口、これで本当に最後ね。
「はい、どうぞ」

 帰ってきたディナーを一口食べるともう底が見えている。
 王様のカップヌードル。
 口のうまいのには気をつけなきゃね。



ワンモアー
タイムワンモア
シガレット
フーアーユーあー?
寝ぼけてるのね!

(折句「渡し舟」短歌)

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【短歌】ハードボイルド

2021-02-09 10:59:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
愛情が密に広がる小説に
やさぐれながら噛むプロテイン
(折句「あみじゃが」短歌)


勝ち負けに咽せた暮らしの対岸に開かれたユートピア小説

照らし合う答えに疲れ小説を追って飛び出す解のない街

殺し屋の#で売り出す小説をマークしている文部大臣

リプトンで割ったウォッカを飲み干してダーリン君は小説を打つ

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帽子の女(テイクアウト・バス)

2021-02-08 04:46:00 | 幻日記
 夜と照明が硝子を鏡にして、遠くに赤い帽子の女を映していた。ラスト・オーダーが近い店内には、私の他に彼女一人のようだった。きっともう誰もやって来ないだろう。ここにあるのは来た時とは違う空気だ。だんだんと人が消えていくような居場所が好きだった。相棒のPomeraが次のフレーズを見つけられずに、カウンターの上で眠り込んでいた。
 硝子の向こうに突然強い光が射した。到着した路線バスが、一人の女を呑み込んだ。

(彼女だ!)

 帽子の女は、今はバスの中にいる。気怠いため息をついてバスは出発した。バス停の灯りが消えて、私は独りだった。

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【短歌】小説に捧ぐ

2021-02-07 10:44:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
おはようの頃にようやく打ち解けた睡魔を向いて小説枕

人間に引き留める係のようにはたはた君の小説が鳴く

たくわえを絞り出したらふくらんだ小説のあと空っぽの僕

一行が鮮やかすぎる憧れとなって止まらぬタッチ・タイピング

小説に食われるだけの人生を笑ってかける物書きの筆

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