撤退戦の研究 (青春新書インテリジェンス) | |
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青春出版社 |
半藤一利、江坂彰氏の太平洋戦争の研究だ。成功体験への固執、情報・兵站の軽視、組織をつぶす人事など多くのことが書かれている。今のビジネスに共する事柄も多い。その中で「理想の指揮官像」というのがでてきた。ここは私もサラリーマン時代に経験があるから、これについて詳しく書く。
太平洋戦争時には、理想の指揮官像は「何も言わず、うんうんと言っていればいい、それが理想の指揮官像だ」と言われていたそうだ。これは、日露戦争に遡って作られたものとか。日露戦争で、大山巌が日本軍が危機の時、「今日は大砲の音がするがなにか戦でもあったんですか?と部下に聞いた、理想の将とは、このように悠々としているもので、「さすがは名指揮官」、と言われたそうだ。
しかしこれはあとで作られた嘘話。この記述は、司馬遼太郎の坂の上の雲でも同じ嘘話として載っていたのを私は覚えている。実際は、これがなぜか本物の話として伝わって、「理想の指揮官像」になった。そして参謀を重用するスタイルとなってしまった。実際は、大山巌はかんかんに怒って、参謀を叱り飛ばしていたそうだ。
ここからは私の感想。このようなコミュニケーションのない指揮官では、判断に必要な情報収集や重要な方針・判断を部下に徹底させることなどはできなくなるはずだ。しかし、私が入社した頃は、理想の上司というのは、このようにどっしり構えていて、仕事は部下に任せ、責任だけを取るのが理想なんだ、と何人かの先輩に教わった。新入社員当時はそんなものかと思い、それなら上司は自分の抱えているこんなややこしい話は知らないな、自分の好きにやればいいか、と思っていた。
それから約20年、上司が何人も変わって、ある上司が着任し、新任のあいさつがあった時は驚いた。「仕事は任せるが、後でもいいから必ず報告しろ」という。こんな上司は初めてだった。今思うと、仕事は任せ、報告させ、おかしかったら修正する、これが本来のマネジメント、理想の上司なんだろう。20年経って初めて気が付いたことだった。
大山巌のような太平洋戦争時の昔風の上司、あなたの周りにはいませんよね。