ある晴れた日に第224回
夢の中で、もうかなり前に亡くなった近藤さんを見かけた。
近藤さんの顔は茶色の斑点入りのヴェールのようなもので覆われていたためにちらとしか見えなかったが、たしかにそれは近藤さんだった。
彼女が腰をおろしていた丸いテーブルの反対側には、でっぷり太った広瀬さんが座っていた。
でもどうしてガンで死んだ女性が生きているのか。
もしかして男性の広瀬さんももう死んでしまっているのではあるまいか、と怪しみながら、僕が丸いテーブルの方へ近づいたとき、突然マガジンハウスの雑誌編集者のI君がその部屋に滑り込んできた。
そして背中に背負ったリュックサックをどさりと投げ出すと、そこから2枚のLPのアルバムを取り出して、部屋の片隅の壁のたもとに丁寧に並べた。
僕がI君に近づくと、彼は僕の顔を見るなり少し顔を赤らめてリュックをつかむとさっと走り去った。
そこで僕は好奇心に駆られてアルバムを手にとってみると、カール・リヒター指揮、ミュンヘン・バッハ管弦楽団が演奏しているバッハのブランデンブルグ協奏曲全曲のレコードだった。
1枚のジャケットに2枚のレコードが入っていた。
なにゆえに密室で歌ばかり詠んでいる原発にも秘密保護法にも口を噤んで 蝶人