照る日曇る日第667回
かつて一世を風靡した「話の特集」の編集長による自称、辞世の書である。
これまで波瀾万丈の人世を送ってきたが、いよいよ年貢の納め時なので、付き合いのあった著名な作家たちの人となりについて、嘘偽りを交えずにありのままを告白すると前書きしてある。
ではその内容はといえば、惚れっぽい岩城宏之の最後の相手は俵万智であり、彼女は一子をなしたが岩城はパイプカットしていたので恐らく彼の子ではないだろうとか、
山口瞳は直木賞のキングメーカーであり、色川武大を受賞させたが超多忙で遅筆の彼はその負担に耐えきれず早世したとか、
五味康佑はイカサママージャンで泣く泣く80万円の罰金を払い、柴田錬三郎はイカサマトランプで大儲けして、ために生島治郎は家を売ってその負けを払ったとか、
伊丹十三と梶山季之は誰かに殺されたとか、寺山修司はマゾだとか、大江健三郎は変節漢で、瀬戸内寂聴はエロ女の破戒僧だとか、
これまでに文化勲章を辞退したのは大江健三郎のほかには小沢昭一、永六輔、杉村春子、千田是也、岸田今日子、吉行淳之介がいるとか、
革自連設立の張本人である五木寛之は、すべての準備を著者にやらせておきながら、その旗上げの日にどこかへとんずらしてしまったとか、
まあ恐らくは本当のことなのだろうが、私にしたら「それがどうしたの?」と言いたくなるような裏話がどしどし登場する。
それよりも本書の前書きで、自分はこれまで数多くの友人知己に莫大なお金を無償で貸し与えてきたが、それらの多くが亡くなってしまい、もう取り返すすべもなくとうとう無一文になってしまった。どうしたらよいかと途方に暮れたが出版社に前借したお金で最後の本を書くことにした、と書いてあるのだが、
ではこの本が売れなければこの人はいったいどうするのであろうか。人ごとながら心配である。
なにゆえに煙草の煙を憎むのかそれが障がい児を生んだと信じるゆえに 蝶人