照る日曇る日第668回
はじめは都会暮らしの働く女性の苦労話かと思わせておいて、ヒロインが田舎の夫の実家の傍に住むようになった段階から突如雲行きが怪しくなる。
彼女の回りでは蝉が狂ったように泣き喚き、至るところにあいている穴だの正体不明の奇妙な人物や黒い獣!までが登場するところはさながら泉鏡花お得意の怪異小説の世界を思わせる。
しかし著者の視線はあくまでも冷静であり、ホラー小説や怪奇小説を書こうとしているのではなく、とある田舎の、とある住民たちに混じって生活している若い「嫁」の日常をあるがままに叙述しているに過ぎないのだが、そうでありつつも常に漠然とした不安と狂気、何らかの異常を孕んだ不穏な空気が漂っているのが恐ろしいのである。
表面は恐ろしくないけれど、ひと皮めくればたちまち戦慄に貫かれるようなこの恐ろしさは、どこかスタンリー・キューブリックの映画「シャイニング」の世界にも似ているようだが、この物語はその映画のような阿鼻叫喚をちらりともほのめかさず、じつにあっさりと終わってしまうのであって、じつはそこが「シャイニング」より一層怖いところなのである。
なにゆえに大阪では街中にプールが多いのか「モータープール」とは駐車場なりき 蝶人