照る日曇る日 第911回
お名前何とおっしゃいましたっけと言われ斉藤としては斉藤とする
という冒頭の1首から始まって
ちょっとどうかと思うけれどもわたくしにわたしをよりそわせてねむります
で終わる作者の第1歌集です。
この方の斉藤斎藤ですが、斉藤が名字で斎藤が名前だという説明を聞いたときにちょっとつまずいたのですが、作品を読んでもまたつまずく。すべてにおいて一筋縄で通りすぎることが出来ないのがこの作者と作品であります。
エレベーターの3つのランプが点いて消え2が点く手前わたくしが匂う
などというのは、先だって私が横須賀の岸本歯科へ行った時に同じように体験した現象でしたが、まさかそんなことがこんな短歌に出来るなんて夢にも思いませんでした。
ところがそんな想定外の事柄を、こんな意表をつく短歌にしてしまうのが、斉藤斎藤選手の得意技なのです。
そんな私を変えたくなくて屋上のきかんしゃトーマスに乗ってみました
などという不敵な居直りめいたユーモアも彼独特の世界でして、
町中でやまびこ隊は町中で君がヤッホー叫ぶまで待つ
という素敵な歌が私にも詠めたら、どんなに楽しいことでしょう。超ウラヤマ。
ぼくはただあなたになりたいだけなのにふたりならんで映画を見てる
公園通りをあなたと歩くこの夢がいつかあなたに覚めますように
というような切ない相聞歌もお得意ですが、
「みんな結局さびしいんだよ」この場合、腰を振るのは男の仕事
という下品なオチも躊躇わないのが斉藤斎藤選手という人なんです。
でも時折こんな奇妙な歌も飛び込んでくる。
羊が匹敵、羊が匹敵、羊が匹敵、羊が匹敵、
「七割ですか?」「はい七割です、ありがとう。あなたも」「七割です、ありがとう」
こりゃいったいなんじゃらほいと考え込んでいると、駄目押しの1首が突き刺さるんです。
このうたでわたしの言いたかったことを三十一文字であらわしなさい