あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

マルセル・カルネ監督の「天井桟敷の人々」をみて 

2019-01-16 15:34:50 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1941



これは確かドイツ占領下で総力を挙げて製作されたフランス映画で、そこには「武の国独逸」に対する「藝の国仏蘭西」の意地が賭けられている。というような評をむかし読んだことがあるが、さもありなんというべき輝かしい傑作である。(原題は「天国の子供たち」であり、天井桟敷とは何の関係もない)。

しかしその内容はと問えば、サーカスの芸人の浮かれ女への宿命の恋物語、というのであるから、物語としてさほどの変哲があるわけはない。

しかし「6年間朝から晩まであんたを思っていた」と妻が自慢するのに対して、他の男と遠く蘇格蘭に旅していた浮かれ女が「ミーツウ」と返すところには度肝を抜かれ、この脚本を書いた人物が他ならぬ詩人のジャク・プレヴェールであったことを知って「成程なあ」と納得したりもするのである。

しかしながら、それほどにも男を愛した2人の愛の深さに、拮抗するほどの愛を持ち得なかった男を、誰も責めることはできない。
「2人の女の愛こそが仏蘭西であり、その前に項垂れる貧しい男こそが独逸である」と、無理やり言い切ってしまいたい誘惑にオラッチは駆られるのである。


  「恋なんてこんな簡単なものだった」と一生に一度だけでも言うてみたい 蝶人


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