筒井康隆著「カーテンコール」を読んで
照る日曇る日 第2030回
作者の生前最期の書物として世に出た短編集を読んでみたが、名手の掉尾を飾るにふさわしい見事なアンソロジーだった。
7.5調のリズムに乗って終止符めがけて前へ前へと突進していく西鶴流の「コロナ追分」こそ作者の本領発揮だろうが、「武装市民」の空恐ろしさ、虚実が一体となってアングラ劇の夢想を顕現させた「宵興行」、かつて少年時代の我が家にいた女中のお良ちゃんを偲ばせる「お咲の人生」、近親相姦寸前の官能を活写してのけた「夜は更けゆく」がさすがの出来栄えである。
さりながら、51歳の若さで食道癌で逝った画家の長男の画家、筒井伸輔へのレクイエム、「川のほとり」が本書のハイライトで読者を思う存分泣かせてくれる。
幾千里波濤を超えて桜咲く瑞穂の国に着いた燕よ 蝶人