照る日曇る日 第2098回
死ぬほどの猛暑の中、どうするか迷っていたのだが、ずるずると2冊目を読んでしまう。
ツアーリの独裁時代に自由を求めてモスクワをうろちょろしていた若者が、ある日自分が出席していなかった宴会の件で突然不法逮捕され、なんと5年間も流刑生活を送るようになる。
といっても、主人公は一応名門貴族のはしくれなので、一介の素浪人のドストエフスキーのような劇的な死刑賦活の劇的体験があるわけでもない。
流されたのはベルミやヴェトカ、ウラジミールのような首都に比較的近い田舎で、本物の遠隔地のシベリアでもなく、強制労働もなく召使までついている「流され者」だが、それでも流刑は流刑に違いはなかった。
さはさりながら、訳者の解説によれば、我らがゲルツェン選手は、「「検察官」の悲喜劇世界を見聞こそすれ、同じゴーゴリの「死せる魂」の深刻な貧民生活の悲惨までは実地に体験し得なかった」のである。
文中で一番面白かったのは、ゲルツェンが兄の従者に化けて流刑地を抜け出し、親戚の魔法使いのお婆さんに監禁されている可憐な白雪姫のような若い娘ナターリアを奪取してなんと結婚式まで上げてしまうロマンチックなエピソード。さうしてこの略奪された花嫁は終生変わらぬゲルツェンの最愛の妻になったというから愉快ではないか。
さりながら、7人の子に死なれ後で物凄い思想家になり、ゲルツェンを完全に論破したという女性とは、いったい誰だったんだろう?
今頃は中村歯科で麻酔中さぞや怖かろ息子よがんばれ! 蝶人