こんな気持ちでいられたら・・・一病理医の日々と生き方考え方

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STAP細胞論文の感想・・・十年一昔

2014年02月11日 | 病理のこと、医療のこと、仕事のこと

以前、山中伸弥京都大学教授がiPS細胞を発表されたときに、その論文を読もうと思ったのだが、読み始めてあまりの難しさにすぐに断念してしまった。山中4因子なんていうのも最近、当たり前に使われるようになって、やっと馴染んできたがOCT3/4・SOX2・KLF4・C-MYCのうち、KLF4はなかなか覚えられないでいる。
だが、不肖コロ健も20年ちかく前になるが、発生学に関する研究を行って博士号を取得した。発生学をかじったという意地もあって、こんどこそと、先日Nature誌に掲載されたSTAP細胞の論文を読んだ。

論文の解説をここで行うつもりは無い。もちろん、誤訳や誤解釈があってはならないということである。なので、論文の読書感想文ということにしたい。



内容を簡単にいうと、ネズミの白血球の一つ(リンパ球)を弱酸性(pH5.7)の状態に25分浸してから元に戻すとおよそ1週間後にはSTAP細胞という、いろいろな細胞に分化する能力(多分化能)のある未分化細胞がたくさんできて、さらにはそれを維持できるということが報告されている。
そもそも、論文の冒頭で、あれこれやらなくても未分化細胞を作ることができた、といっているのである。

とはいえ、Nature誌に原著として掲載された論文である。その、STAP細胞の多分化能の証明方法は私が大学院で研究していたころから、格段に進歩していた。

この論文、内容的には上に述べたように単純なものなので、読んでいる途中で大学一年の息子にも読まないかと勧めたら、一緒に読むという。1週間ほど前に渡しておいたのだが、ちょうどどこにも出られなくなってしまった大雪の日があったので、拙く解説しながら一緒に読んだ。息子は科学論文初挑戦で、ずいぶん頑張って予習をしていた。説明しながらだったり、インクを垂らしてしまったりで、論文の写真が汚くなってしまった。

とにかく、どんなことでも人に説明すると、自分でもよくわかるというが、この論文でも(多少は)そうだった。



発生というのは、受精から生体になるまでにいろいろなタイミングでいろいろな遺伝子が出て、タンパク質が作られて、脳だの、筋肉だの、胃だのが作られてくる。で、どの遺伝子やタンパク質がどの時期で出てくるかを捕まえて、これはまだ受精卵、すこし脳のようになった、筋肉になってきた、胃になることが決まった。というようなことを証明する。

論文に登場する遺伝子だのタンパク質、だいたいは知っていたし、病理医は遺伝子だのタンパク質の証明については結構自信があった。
でも、この論文内で語られている、私が知らなかったこと、というのがきわめて重要であるということが読んでいるうちにわかった。キメラマウスの作り方の辺りはアナログっぽくて、想像もついたが、聞いたことのない新手法も数多くあった。



結局のところ、私にとっては二十年一昔、となったわけだが、この論文、一本読んですべて理解すれば、一気に発生学の最先端を知ることができるのではないか。話はそれるが、論文を読む、というのはタイトルから、方法まで、隅から隅まで読むことだ、とは私の指導教官の口癖であり、論文を1本読む、というのはとても大変なことであり、私は、方法のところ、わからない用語が多くてすべては理解できなかった。

この論文を読むと、やっぱりiPS細胞はすごいということがよくわかる。
ジリ貧となりつつある日本は、もはや科学立国として生き延びるしかなく、こういった独創的な研究を推進し、さらには若い科学者を引き上げていく必要がある。

京都大学、理化学研究所が素晴らしい科学者を養成してくれていることに敬意を表したい。

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