PCR検査の数が少ない、もっと増やせという人がたくさんいる。たしかに”現在の症状が新型コロナウイルス感染によるものであるか?”はPCR検査によってしかわからない。でも、体調が少々悪いからといってコロナかもしれない、PCR検査をすぐ受けさせろ、というのは乱暴な話だ。検査というのは自動販売機のように、コインを入れた、ハイぱっかんと結果が出てくるようなものではない。
専門的知識・技術を持った人、設備、試薬を要するものだということがわかっていない人が声高に検査を検査をといってもそれは現場の状況を想像できないからだと思ってしまう。中央検査・診断部門に属している人間として、この問題が国会やSNS上で検査数の少ないことが、簡単に増やせるのにそうしない、怠慢だ、といようなニュアンスで取り上げられているというのはとても残念でならない。
臨床検査技師の仕事というのは多岐にわたっていて、病院の業務としては採血、心電図や超音波(エコー)、聴力などの生理検査、輸血時のチェックという輸血検査、病理・細胞診検査、血液データ、肝機能データ、腎機能データなどを調べる一般検査、そして細菌検査などがある。PCR検査はこのうち細菌検査業務に含まれるが、それなりの設備・技術が必要とされる。新型コロナウイルス(COVID-19)のPCR検査は検査会社が大部分を行なっているようだが、そこにしても体制を整え、技術者を育成するにはある程度の時間を要する。それに、検体を採取する医者だって個人用防護具(personal protective equipment:PPE) がひっ迫している状態で出動はできない。不十分な状況下で検体採取をして、1週間後に入院なんていうことになったら、それがどれほどの損失になるか考えてみてほしい。
PCR検査にしてもそうだが、新型コロナウイルス感染症にかかわる医療関係者へのプレッシャーは強い。感染のストレスに加え、直接、間接的な差別があって精神的に参っている。政治家や役人には、戦時下の司令官になったかのつもりで、初めのうち医療従事者なんて代わりはいくらでもいると思っていたような節すらある。そんな中でも一部には医療崩壊を目の当たりにしてそうではないということに気がつきつつある人もいる。いま私たちが戦っているのは、戦争のように人を殺すための戦いではなく、人の命を救うための戦いなのだ。未知の感染症という”政治的解決”というのが通用しない状況で、医師である”専門家”の意見を聞かざるを得なくなってやっと考えを改めたのだろう。医療、公衆衛生というのが、いかに高度な知識と技術を要するものであるかということを認識してほしい。
これが仕事と頑張っている