検証 アベノミクス 同志社大学教授 浜矩子さん② 「リフレ政策」 弱者救済の思想ない
―アベノミクスは「デフレ脱却」をめざす「リフレ政策」だといわれました。それに対して浜さんは2013年5月に「これは『リフレ政策』ではない」(『「アベノミクス」の真相』)と指摘しています。資産インフレと実物デフレが同居することになるだけだ、という警告でした。その後、日本経済はこの予言通りの状況になりました。
リフレーションとは「もう一度膨らます」という意味です。しぼんだ経済風船をもう一度ほどよいところまで膨らますという考え方は、それ自体が悪いわけではありません。
しかし安倍晋三政権と黒田東彦日銀がやり始めたことは、しぼんだ実物経済の風船に空気を送り込むリフレ行為ではありませんでした。リフレ政策を展開するという建前は、隠れみのだったのです。
安倍氏の狙いは当初から、財政ファイナンス(中央銀行が政府に資金を供給すること)のために日銀にがんがん国債を買わせることでした。日銀を政府の打ち出の小づちにすることを正当化するために「リフレ派」といわれる論者を集めて体裁を整えただけでした。
日本銀行本店=東京都中央区
バブル製造装置
安倍氏のもう一つの狙いは、日銀をバブル製造装置にすることでした。21世紀版大日本帝国づくりに協力してくれる大企業の株が上がれば仕事がしやすくなる、という発想だったのでしょう。まともなリフレ政策の考え方ではありません。
日銀が国債を買いまくっても、資金はあまり市場に流れず、金融機関の日銀当座預金に積みあがりました。その余り金は生産的な投資に向かわず、個人消費の盛り上がりにもつながりませんでした。賃金が上がらないのに人々はカネを使いません。企業も内部留保を積み上げており、資金需要がありません。
結局、あふれ出たカネは株式市場に向かって資産インフレを高進させました。実物経済のシワシワ風船はしぼんだまま、もう一つ別のバブル風船がパンパンに膨らんだだけだったのです。
―黒田日銀は「異次元の金融緩和」と称して株式投資信託や不動産投資信託まで大量に買いました。
もはや金融政策ではありません。日銀を除いて世界の中央銀行は株を買いません。中央銀行は節度のないことをやらない、という暗黙裏の大鉄則があるからです。
金融政策の最大の使命は通貨価値の安定を図ることです。そういう使命を担う中央銀行にとって、価値の安定しないリスク資産への投資は明らかにふさわしくありません。ですから黒田日銀は本来の使命を果たそうという意志を最初から全く持っていなかったとしか考えられません。
下は冷たいまま
―アベノミクスで実物経済が膨らまないのはなぜですか。
安倍氏は、日銀の財政ファイナンスによってやりたいことに湯水のごとくカネを使える状態にし、「いけいけ、どんどん」的な日本経済をつくりだそうと考えたのでしょう。その中で大きな一角を形成しているのが軍備増強です。ほかにも「地方創生」や「観光立国」などを掲げました。
教科書通りなら金融緩和と拡張財政に経済は反応するのですが、安倍式経済運営の枠組みではそうなりません。弱者を救済するという思想が政策の中に全然ないからです。
日本経済の大きな問題は豊かさの中の貧困です。たいへん豊かな国であるにもかかわらず、6人に1人が貧困者という状態です。
弱者を救済して格差を埋めるという政策をとっていれば、結果は全然違っていたことでしょう。そこに目を向けず、ビッグプロジェクトにカネを使い、大企業に大盤振る舞いをしても、冷たいところにいる人たちには何の恩恵も及びません。
上の方がオーバーヒートして資産インフレになっても、トリクルダウン(富が滴り落ちる効果)が働くわけもなく、下の方は冷たいままなのです。これでは実物経済が力強く回るはずがありません。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月4日付掲載
リフレーションとは「もう一度膨らます」という意味。しぼんだ経済風船をもう一度ほどよいところまで膨らますという考え方は、それ自体が悪いわけではありません。
日銀が国債を買いまくっても、資金はあまり市場に流れず、金融機関の日銀当座預金に積みあがりました。その余り金は生産的な投資に向かわず、個人消費の盛り上がりにもつながりませんでした。
日本経済の大きな問題は豊かさの中の貧困。たいへん豊かな国であるにもかかわらず、6人に1人が貧困者という状態。
上の方がオーバーヒートして資産インフレになっても、トリクルダウン(富が滴り落ちる効果)が働くわけもなく、下の方は冷たいまま。これでは実物経済が力強く回るはずがない。
―アベノミクスは「デフレ脱却」をめざす「リフレ政策」だといわれました。それに対して浜さんは2013年5月に「これは『リフレ政策』ではない」(『「アベノミクス」の真相』)と指摘しています。資産インフレと実物デフレが同居することになるだけだ、という警告でした。その後、日本経済はこの予言通りの状況になりました。
リフレーションとは「もう一度膨らます」という意味です。しぼんだ経済風船をもう一度ほどよいところまで膨らますという考え方は、それ自体が悪いわけではありません。
しかし安倍晋三政権と黒田東彦日銀がやり始めたことは、しぼんだ実物経済の風船に空気を送り込むリフレ行為ではありませんでした。リフレ政策を展開するという建前は、隠れみのだったのです。
安倍氏の狙いは当初から、財政ファイナンス(中央銀行が政府に資金を供給すること)のために日銀にがんがん国債を買わせることでした。日銀を政府の打ち出の小づちにすることを正当化するために「リフレ派」といわれる論者を集めて体裁を整えただけでした。
日本銀行本店=東京都中央区
バブル製造装置
安倍氏のもう一つの狙いは、日銀をバブル製造装置にすることでした。21世紀版大日本帝国づくりに協力してくれる大企業の株が上がれば仕事がしやすくなる、という発想だったのでしょう。まともなリフレ政策の考え方ではありません。
日銀が国債を買いまくっても、資金はあまり市場に流れず、金融機関の日銀当座預金に積みあがりました。その余り金は生産的な投資に向かわず、個人消費の盛り上がりにもつながりませんでした。賃金が上がらないのに人々はカネを使いません。企業も内部留保を積み上げており、資金需要がありません。
結局、あふれ出たカネは株式市場に向かって資産インフレを高進させました。実物経済のシワシワ風船はしぼんだまま、もう一つ別のバブル風船がパンパンに膨らんだだけだったのです。
―黒田日銀は「異次元の金融緩和」と称して株式投資信託や不動産投資信託まで大量に買いました。
もはや金融政策ではありません。日銀を除いて世界の中央銀行は株を買いません。中央銀行は節度のないことをやらない、という暗黙裏の大鉄則があるからです。
金融政策の最大の使命は通貨価値の安定を図ることです。そういう使命を担う中央銀行にとって、価値の安定しないリスク資産への投資は明らかにふさわしくありません。ですから黒田日銀は本来の使命を果たそうという意志を最初から全く持っていなかったとしか考えられません。
下は冷たいまま
―アベノミクスで実物経済が膨らまないのはなぜですか。
安倍氏は、日銀の財政ファイナンスによってやりたいことに湯水のごとくカネを使える状態にし、「いけいけ、どんどん」的な日本経済をつくりだそうと考えたのでしょう。その中で大きな一角を形成しているのが軍備増強です。ほかにも「地方創生」や「観光立国」などを掲げました。
教科書通りなら金融緩和と拡張財政に経済は反応するのですが、安倍式経済運営の枠組みではそうなりません。弱者を救済するという思想が政策の中に全然ないからです。
日本経済の大きな問題は豊かさの中の貧困です。たいへん豊かな国であるにもかかわらず、6人に1人が貧困者という状態です。
弱者を救済して格差を埋めるという政策をとっていれば、結果は全然違っていたことでしょう。そこに目を向けず、ビッグプロジェクトにカネを使い、大企業に大盤振る舞いをしても、冷たいところにいる人たちには何の恩恵も及びません。
上の方がオーバーヒートして資産インフレになっても、トリクルダウン(富が滴り落ちる効果)が働くわけもなく、下の方は冷たいままなのです。これでは実物経済が力強く回るはずがありません。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月4日付掲載
リフレーションとは「もう一度膨らます」という意味。しぼんだ経済風船をもう一度ほどよいところまで膨らますという考え方は、それ自体が悪いわけではありません。
日銀が国債を買いまくっても、資金はあまり市場に流れず、金融機関の日銀当座預金に積みあがりました。その余り金は生産的な投資に向かわず、個人消費の盛り上がりにもつながりませんでした。
日本経済の大きな問題は豊かさの中の貧困。たいへん豊かな国であるにもかかわらず、6人に1人が貧困者という状態。
上の方がオーバーヒートして資産インフレになっても、トリクルダウン(富が滴り落ちる効果)が働くわけもなく、下の方は冷たいまま。これでは実物経済が力強く回るはずがない。