個人事業主の宅配ドライバー リスク 常に自分持ち 高騰する燃料代も・ミスの対応費も
インターネットを利用した宅配サービスは今や日常生活に不可欠なインフラとなっています。商品を消費者に届けているのは、人です。気温35度を超える猛暑日でも宅配ドライバーたちは炎天下を走り回ります。彼らの苦労を、多くの人は知りません。
(小村優)
7月21日朝8時。健さん(24)=仮名=は東京都内を軽バンで駆け回っていました。ドライバー歴1年2カ月。インターネット通販大手「アマゾン」の荷物を専門に配達する個人事業主です。
「エンジン音がうるさい」。近隣住民からの苦情が頭にこびりついて離れません。数メートル走らせるごとに車を止め、エンジンを切ります。車内が涼しくなる前に次の配達先へ。気温35度を超える猛暑の中、「頭がボーっとしてくる」。
時間指定の荷物に間に合うよう効率的な配送ルートを頭で組み立てます。指定された時間内に配達しても、数軒は留守です。バックミラーが見えないほど車内を埋め尽くす荷物。具合が悪くても途中で配達を投げ出すことはできません。
宅配ボックスに商品を入れる配達員
限界まで働き
精神と体力が限界に近づく午後。一瞬の気の緩みがミスを誘いました。
同じマンションで異なる2軒の配達先。どちらも宅配ボックス指定です。商品をロッカーに入れ部屋番号を打ち込みます。
「配達完了」
数分後、スマートフォンが鳴りました。「客から商品が違うと連絡が入った。すぐに確認してくれ」。倉庫の管理者からの電話でした。
違う部屋番号を打ち込んでしまった…。
すぐに戻って客に平謝り。開錠のためロッカーの管理会社へ連絡します。かけつけたスタッフの人件費などで1万5000円を実費で払いました。配達数量の多寡に関係なく日給は1万5500円。管理会社への支払いを差し引くと、この日残ったのは、わずか500円です。「自分のミスなので仕方がない」。炎天下、過去最多の264個を配達した日でした。リスクは常にドライバーが背負っています。
個人事業主は、燃料代も自己負担です。昨年末から続くガソリン価格の高騰で収入も目減りしています。資源エネルギー庁によると、8月22日時点でレギュラーガソリンの全国平均価格は1リットル当たり169・0円と、去年の同じ時期と比べ10円以上値上がりしました。
エアコンを使う夏場はガソリンの消費量も多い。週5日配達に出る健さんも、2日半から3日に1回給油が必要です。ガソリン代で1カ月に3万円が消えます。満タンにして1週間はもつ春先と比べ1万円の負担増です。同じ収入で出費ばかりがかさみます。
アマゾンは7月12~13日の2日間、年に1度の有料会員向けセール「プライムデー」を実施しました。健さんの荷量が急増したのはこのためです。
期間中の値引き特典などで、会員が節約した金額は過去最多の270億円以上。アマゾンのサイトに出品する中小の販売業者の売上個数も1400万個を超え、売上高とともに過去最大となりました。
法の保護なく
ドライバーの多くは独立系小企業である「個人事業主」です。労働法が適用される「労働者」ではありません。アマゾンは配送を外部委託することで、「雇用主」として負うべき義務から逃れてきました。セールで急増する荷量でドライバーが過重労働になろうとも何ら責任を負いません。
しかし、与えられた業務量を拒否できないなど、働く実態は労働基準法などが定める「労働者」にあたり得ます。世界では「個人事業主」と誤って分類されている現状を是正し「労働者」として保護しようと法整備が進んでいます。
配達員に人間らしい働き方を保障する―。このことが、社会インフラを守ることにもつながるのです。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月27日付掲載
配達数量の多寡に関係なく日給は1万5500円。管理会社への支払いを差し引くと、この日残ったのは、わずか500円。「自分のミスなので仕方がない」。炎天下、過去最多の264個を配達した日でした。リスクは常にドライバーが背負っています。
個人事業主は、燃料代も自己負担。
与えられた業務量を拒否できないなど、働く実態は労働基準法などが定める「労働者」にあたり得ます。世界では「個人事業主」と誤って分類されている現状を是正し「労働者」として保護しようと法整備が進んでいます。
日本でも法整備が必要です。
インターネットを利用した宅配サービスは今や日常生活に不可欠なインフラとなっています。商品を消費者に届けているのは、人です。気温35度を超える猛暑日でも宅配ドライバーたちは炎天下を走り回ります。彼らの苦労を、多くの人は知りません。
(小村優)
7月21日朝8時。健さん(24)=仮名=は東京都内を軽バンで駆け回っていました。ドライバー歴1年2カ月。インターネット通販大手「アマゾン」の荷物を専門に配達する個人事業主です。
「エンジン音がうるさい」。近隣住民からの苦情が頭にこびりついて離れません。数メートル走らせるごとに車を止め、エンジンを切ります。車内が涼しくなる前に次の配達先へ。気温35度を超える猛暑の中、「頭がボーっとしてくる」。
時間指定の荷物に間に合うよう効率的な配送ルートを頭で組み立てます。指定された時間内に配達しても、数軒は留守です。バックミラーが見えないほど車内を埋め尽くす荷物。具合が悪くても途中で配達を投げ出すことはできません。
宅配ボックスに商品を入れる配達員
限界まで働き
精神と体力が限界に近づく午後。一瞬の気の緩みがミスを誘いました。
同じマンションで異なる2軒の配達先。どちらも宅配ボックス指定です。商品をロッカーに入れ部屋番号を打ち込みます。
「配達完了」
数分後、スマートフォンが鳴りました。「客から商品が違うと連絡が入った。すぐに確認してくれ」。倉庫の管理者からの電話でした。
違う部屋番号を打ち込んでしまった…。
すぐに戻って客に平謝り。開錠のためロッカーの管理会社へ連絡します。かけつけたスタッフの人件費などで1万5000円を実費で払いました。配達数量の多寡に関係なく日給は1万5500円。管理会社への支払いを差し引くと、この日残ったのは、わずか500円です。「自分のミスなので仕方がない」。炎天下、過去最多の264個を配達した日でした。リスクは常にドライバーが背負っています。
個人事業主は、燃料代も自己負担です。昨年末から続くガソリン価格の高騰で収入も目減りしています。資源エネルギー庁によると、8月22日時点でレギュラーガソリンの全国平均価格は1リットル当たり169・0円と、去年の同じ時期と比べ10円以上値上がりしました。
エアコンを使う夏場はガソリンの消費量も多い。週5日配達に出る健さんも、2日半から3日に1回給油が必要です。ガソリン代で1カ月に3万円が消えます。満タンにして1週間はもつ春先と比べ1万円の負担増です。同じ収入で出費ばかりがかさみます。
アマゾンは7月12~13日の2日間、年に1度の有料会員向けセール「プライムデー」を実施しました。健さんの荷量が急増したのはこのためです。
期間中の値引き特典などで、会員が節約した金額は過去最多の270億円以上。アマゾンのサイトに出品する中小の販売業者の売上個数も1400万個を超え、売上高とともに過去最大となりました。
法の保護なく
ドライバーの多くは独立系小企業である「個人事業主」です。労働法が適用される「労働者」ではありません。アマゾンは配送を外部委託することで、「雇用主」として負うべき義務から逃れてきました。セールで急増する荷量でドライバーが過重労働になろうとも何ら責任を負いません。
しかし、与えられた業務量を拒否できないなど、働く実態は労働基準法などが定める「労働者」にあたり得ます。世界では「個人事業主」と誤って分類されている現状を是正し「労働者」として保護しようと法整備が進んでいます。
配達員に人間らしい働き方を保障する―。このことが、社会インフラを守ることにもつながるのです。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年8月27日付掲載
配達数量の多寡に関係なく日給は1万5500円。管理会社への支払いを差し引くと、この日残ったのは、わずか500円。「自分のミスなので仕方がない」。炎天下、過去最多の264個を配達した日でした。リスクは常にドライバーが背負っています。
個人事業主は、燃料代も自己負担。
与えられた業務量を拒否できないなど、働く実態は労働基準法などが定める「労働者」にあたり得ます。世界では「個人事業主」と誤って分類されている現状を是正し「労働者」として保護しようと法整備が進んでいます。
日本でも法整備が必要です。