きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

社会保障と新自由主義② 「必要充足」から逸脱

2021-12-17 07:12:07 | 予算・税金・消費税・社会保障など
社会保障と新自由主義② 「必要充足」から逸脱
神戸大学名誉教授 二宮厚美さん

―新自由主義の政策は、社会保障制度をどのように変質させてきたのでしょうか。
日本の社会保障が本来どんな原則で成立しているかという点は、明確にいえます。憲法25条で生存権を保障する国の責任が規定されているからです。
一言でいえば、「必要充足・応能負担原則」です。給付は生存のための必要に応じて保障し、負担は支払い能力に応じて課すという原則です。新自由主義はこれを「私的欲求充足・応益負担原則」に変えます。両者の違いを対比しながら説明してみましょう。
日本の公的医療制度では、患者は自己の私的欲求に基づいて医療サービスを選ぶのではありません。医師が病気を診断し、健康のために必要と判断した治療を、患者の合意に基づいて提供します。給付が保障されるのは現金ではなく、医療行為の現物です。医師が必要と認め、保険診療に含まれる治療法であれば、費用がいくらかかっても施せるし、施さなければなりません。
必要充足原則に基づくと、必要なサービスは、現物の形で保障されなければならないのです。重要なのは、金額の上限を設けないということです。現物給付原則といいます。
保育や教育や福祉でも原則は同じです。例えば、生活保護の生活扶助費は、現金で支給されますが、その金額は日常生活に必要な食費・被服費・光熱費などを綿密に計算して決定されています。



「高齢者医療費2倍化法案を止めよう」とアピールする人たち=6月1日、参院議員会館前

給付に上限設定
新自由主義は、これを現金給付方式に変えることで、必要充足原則から逸脱します。典型が介護保険制度です。保険給付に金額で上限を設けたのです。
要介護度5の人であれば、月額約36万円まで保険サービスを使うことができ、自己負担額を除いた費用が保険から給付されます。保障されるのは現物のサービスではなく、一定額の現金なのです。36万円を超えるサービスについては全額自己負担になる一方、介護保険のメニューにないサービスも、自己負担で自由に併用できる仕組みです。
これでは、必要な介護が保障されません。重度の要介護者の場合、人間的な生活保障には月々60万~80万円程度の介護給付が必要だというのが常識です。それを36万円で打ち切る。それ以上のサービスについては、対価を支払える人だけが、専門家の判断によらず、私的欲求を満たす形で使えばよいという仕組みなのです。「私的欲求充足・応益負担原則」と呼ぶ理由です。
利益に応じて負担する「応益負担」とは、実は、市場取引の原則です。この原則に基づき、公的医療・介護の自己負担割合は2~3割に引き上げられてきました。こうした新自由主義的な社会保障改革が必要充足原則を壊し、医療・介護難民を生み出しています。

絶望郷を夢見る
―究極の現金給付方式がベーシック・インカムですね。
新自由主義の元祖ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」はベーシック・インカムの原型とされ、新自由主義派が夢見る制度です。国民に一定額の最低所得を保障するかわりに、あらゆる社会サービスを現金給付に一本化し、それでおしまいにしてしまう。必要なサービスは市場で買いなさいとなる。生存に必要な現物給付を国家が保障する必要がなくなり、給付額の上限が確定するので、社会保障費の圧縮をめざす新自由主義のユートピア(理想郷)となっています。
フリードマンは「老齢扶助、社会保障給付の支払い、扶養児童手当、一般援助、農産物価格支持制度、公営住宅」などを現金給付に一本化すれば、現状の「半分以下の費用ですむ」(『資本主義と自由』)と主張しました。多くの国民にとっては、生きるために必要な手術も受けられないディストピア(絶望郷)となるでしょう。
理論的には、新自由主義的ではないベーシック・インカムも考えられます。例えば、高齢者向けの最低保障年金はその一種で、実現すべき課題です。
しかし、日本維新の会などの新自由主義派が唱えるベーシック・インカムは、フリードマンの構想に近づけて社会保障を縮小する方向です。部分的に導入する構想でも、必要充足原則を破壊し、生活保護を切り詰めるなどの効果を発揮することに警戒が必要です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月16日付掲載


日本の公的医療制度では、患者は自己の私的欲求に基づいて医療サービスを選ぶのではありません。医師が病気を診断し、健康のために必要と判断した治療を、患者の合意に基づいて提供します。医師が必要と認め、保険診療に含まれる治療法であれば、費用がいくらかかっても施せるし、施さなければなりません。重要なのは、金額の上限を設けないということです。現物給付原則といいます。
保育や教育や福祉でも原則は同じです。
新自由主義は、これを現金給付方式に変えることで、必要充足原則から逸脱。私的欲求充足・応益負担原則です。
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社会保障と新自由主義① ゾンビのようなしぶとさ

2021-12-16 07:14:29 | 予算・税金・消費税・社会保障など
社会保障と新自由主義① ゾンビのようなしぶとさ
新型コロナウイルス危機の下で関心が高まった社会保障と新自由主義の関係について、二宮厚美神戸大学名誉教授に聞きました。(杉本恒如)

神戸大学名誉教授 二宮厚美さん
―岸田文雄氏が「新自由主義からの転換」に言及して首相になりました。どうみますか。
国民生活からみれば、新自由主義の破綻は明らかです。
1990年代後半以降、新自由主義思想に沿って労働法制を緩和した結果、低賃金の非正規労働者が増え、貧困と格差が広がりました。大企業や富裕層の得た利益が庶民にしたたり落ちる「トリクルダウン効果」は起きませんでした。下から上へ富を吸い上げる「ストロー効果」を強めたのだから、起きるはずがありません。
また、新自由主義思想に沿って社会保障費を圧縮し続けた結果、新型コロナ感染症が広がった途端に保健・医療体制が崩壊しました。感染拡大の第4波から第5波にかけて、入院できずに自宅待機とされる感染者が続出しました。大阪では自宅待機中の感染者が毎日毎日、命を落としました。安倍晋三元首相と菅義偉前首椙は立て続けに「コロナ敗戦」に見舞われ、首相の座を放り出しました。



東京の新規感染者数が3177人となったことを伝える電光掲示板=7月28日、東京・渋谷駅ハチ公口

圧力に押されて
誰の目から見ても新自由主義の政策が破綻する中で、岸田氏は総選挙に向けて野党共闘勢力との政策的対決を意識せざるを得ませんでした。著書『岸田ビジョン』で岸田氏が「残念ながら、『トリクルダウン』の現象はまだ観察されていない」と書いたのは、新自由主義の破綻を認めたものです。保育、介護、医療従事者の給与水準の見直しを言い出したのも、野党共闘の圧力に押された結果です。
しかし、発足後の岸田政権の政策をみれば、そうした部分的手直しすら不十分です。雇用や社会保障の分野で新自由主義の枠組みを根本から転換する発想はありません。国民生活との関係で破綻しても、新自由主義は簡単にはつぶれないのです。
―なぜ新自由主義はしぶといのでしょう。
現代の新自由主義を三つの視点から把握すればわかります。
第一は、市場原理主義の教義という性格です。すべての財貨やサービスを市場取引に委ねることが国民生活と経済に最良の結果をもたらすと説きます。この考え方が貫徹すると、市場競争の勝者が利益を総取りし、敗者は生存権すら保障されない、弱肉強食のジャングルの法則が現れます。例えば、等価交換の市場取引ではサービスを受けるために同等の対価を支払わなければなりません。社会保障分野にこの「応益負担」原則が持ち込まれた結果、患者負担や介護利用料が次々に引き上げられ、生存に必要な医療・介護を受けられない事態が生じています。

聖域に風穴開く
第二は、規制緩和と民営化・営利化の推進力という性格です。現代社会では市場原理はむき出しの形では通用しません。市場原理に敵対する人権原理があるからです。人権原理は、市場部門の外に公共部門をつくって営利企業を排除し、教育・福祉・医療・雇用・環境・文化・研究などを守ってきました。これらの「聖域」に規制緩和や民営化で風穴を開ける新自由主義的改革が全国の自治体を席巻した結果、公共部門は空洞化してしまいました。
第三は、福祉国家解体戦略のために体制側が動員するイデオロギーという性格です。多国籍企業に変貌した現代の大企業は福祉国家を邪魔者扱いします。グローバル市場を相手に競争する大企業は、国内需要の不足を大きな問題とせず、総人件費と税負担の削減に明け暮れるからです。生存権・労働権・環境権・教育権などの人権を保障する財源を大企業に求める福祉国家を妨害物とみなし、縮小・解体をたくらむのです。市場原理主義・規制緩和・民営化はそのための戦略とされます。
他方で、福祉国家への諸国民のニーズは繰り返し生まれ、封じ込めることができません。コロナ危機と地球環境危機が大企業への課税や規制を焦点に押し上げたのは典型的事例です。新自由主義は繰り返し破綻しながら、多国籍型大企業の要求に応じて、新たな福祉国家の芽をつぶす戦略として繰り返しよみがえります。これが、新自由主義がゾンビのように生き延びる理由です。
(つづく)(4回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月15日付掲載


大企業や富裕層の得た利益が庶民にしたたり落ちる「トリクルダウン効果」は起きませんでした。下から上へ富を吸い上げる「ストロー効果」を強めたのだから、起きるはずがありません。
すでに破綻しているはずの新自由主義がしぶといのは、第一は、市場原理主義の教義という性格、第二は、規制緩和と民営化・営利化の推進力、第三は、福祉国家解体戦略のために体制側が動員するイデオロギー。
賃金が安いのは本当は非正規労働を推進したからなのに、能力が足りないで片づけられる。
非営利の医療を担っている公立病院の統廃合は、営利優先のため。
医療費・介護費の負担増は、受益者負担の理論。
そこには、寒々しい新自由主義の社会。
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7-9月期GDPマイナス コロナ以前から続く後退局面

2021-12-15 07:01:18 | 経済・産業・中小企業対策など
7-9月期GDPマイナス コロナ以前から続く後退局面
2021年7~9月期のGDP(国内総生産)の実質成長率は、前期比マイナス0・8%(年率に換算してマイナス3・0%)と大きく落ち込みました。(内閣府が11月15日に発表した1次速報)背景にあるのは新型コロナウイルスの感染拡大であり、「緊急事態宣言」
の発令による経済活動の自粛などの影響です。これにより、同期の実質民間消費支出は前期比マイナス1・1%となり、GDPを0・6%引き下げました。

ことしに入ってからのGDPの実質成長率は、1~3月期にマイナス1・1%となった後、4~6月期はプラス0・4%とやや持ち直していましたが、7~9月期は再び落ち込んでしまったわけです。
昨年についても、GDPの実質成長率は、1~3月期、4~6月期とマイナスの後、7~9月期、10~12月期はプラスと四半期ごとの動きはプラスの期とマイナスの期が入り交じっています。コロナ禍がやや収まるとプラスになり、再び拡大し始めるとマイナスになる、の繰り返しです。




ただし、もう少し期間を長くとり、年単位でまとめてみますと、GDPの実質成長率は18年プラス0・6%の後、19年0・0%、コロナ禍発生の20年はマイナス4・6%、21年(1~9月までの前年比)はプラス2・2%と一つの流れが見えてきます。
IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」(21年10月)は、21年の日本経済のGDP実質成長率を2・4%と予測しています。
しかし、プラス成長の予測に喜んではいられません。同じIMFの見通しでは、21年のGDP実質成長率を、アメリカ6・0%、ユーロ圏5・0%と見ており、日本のそれは、欧米先進国に比べ低いものと見られているのです。
どうしてでしょうか。三つの理由が考えられます。
一つは、1997年以来、日本の成長率は欧米諸国をおおむね下回るようになっており、その傾向を見通しに反映させたとみられることです。
二つは、日本はコロナ禍発生以前から景気後退局面に入っており(19年のゼロ成長はその表れです)、そこからの脱出策が、いまだに何ら講じられていないことです。
三つは、日本政府のコロナ禍対策が、これまで後手を踏んできたことからうかがえるように、あまり評価されていないことにあるのではないかと思われます。
まずは、新型コロナ感染症の拡散防止に全力を挙げること(感染拡大の中で「Go To」キャンペーンや東京オリンピック・パラリンピック開催の強行のような、コロナを軽視しての政策は二度と実施しないこと)、18年秋からの景気後退(その原因は安倍晋三内閣による2度の消費税増税です)、さらには長期停滞(その原因は働く人の賃金が上がらなくなっていることです)からの脱出策をきちんと講じることです。
山家悠紀夫(やんべ・ゆきお 暮らしと経済研究室主宰)

「しんぶん赤旗」日曜版 2021年12月12日付掲載


コロナ禍での2020年のGDPの落ち込み。それに対して、2021年はGDPが持ち直しているのが世界的な標準。
それに後れを取る日本経済。
安倍内閣による2度の消費税増税、非正規労働の拡大により働く人の賃金が上がらなくなっていることに背景があります。
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変わる高校野球③ 鳥取・米子東高校 研究・発表通じて強豪に

2021-12-14 06:59:35 | スポーツ・運動について
変わる高校野球③ 鳥取・米子東高校 研究・発表通じて強豪に
野球に関わる研究を行う同学会で発表するのは、ほとんどが研究者や大学院生です。
しかし、米子東高は2018年から発表しています。先進的な理数教育を実施するために行われる「スーパーサイエンスハイスクール事業」指定校の同校には「課題探究応用」という授業があり、野球部の2年生は野球に関するテーマを扱っています。

けがから着想
今回発表したのは「腰椎分離症の治療期間中に適切なトレーニングをすることでパフォーマンスの向上は可能か」と「前の回の守備内容が次の回の攻撃に影響するのか」をテーマにした2班。
「腰椎―」の班では、投手である山崎壮選手自身が経験した故障から着想。治療期間中に医師や理学療法士からの助言をもとに、柔軟性の向上や体幹強化のメニューを実践し、可動範囲や筋力などの変化を記録していきました。約4カ月の治療から復帰したあと、球速は落ちることなく、1・6キロ向上していました。
「けがの復帰に向けた取り組みの事例が少なかった。ここで実践例を発表することで、同じけがをした選手の役に立てるかもしれないとも思った」(山崎選手)
発表で参加者からの質問に答えた藪本鉄平選手は「楽しかった。この機会に経験できたことは自信になる」と話しました。
「前の回の守備内容―」では、「ピンチのあとにチャンスあり」という言葉が本当なのかという疑問から、全国大会の試合結果151試合分を分析しました。その結果、前の回の守備内容と攻撃の結果には、有意差(偶然に起こったとは判定できない差)はないが、有意傾向が見られました。
瀬川凛太郎選手は「野球でよく言われる“流れ”には選手のメンタルが関わっていると分かった。流れをつくるのは自分たちの気持ちなんだと分かれば、どう行動すべきか考えることができる」と語ります。
徳丸航祐選手は「チャンスをつぶして落ち込むチームは負けていくという感覚があったが、データでもそうだった。これを知ることで試合での心構えが変わると思う」と話しました。
これまでの卒業生の研究テーマは「ゴロを打て、は正しいか」「表情や姿勢、言動はパフォーマンスに影響するか」「動画を使った練習は動作習得に有効か」など。高校野球で当たり前だと思われていた作戦を見直したり、新しい練習方法の効果を検証したり、自由な発想のものばかりです。



野球科学研究会で発表した米子東高の(左から)瀬川、山崎、徳丸、薮本の各選手=11月27日、石川県金沢市・金沢星稜大学

自信になった
県内有数の進学校として知られる同校では部活動のあとに学習塾に通う部員もおり、平日の練習は2時間半もとれません。それでも19年には23年ぶりに春の選抜に出場。同年夏にも甲子園の土を踏むと、21年夏にも県大会で優勝し甲子園へ。県内外の私立高校とも互角以上にたたかえるチームに成長しました。
紙本庸由(かみもと・のぶゆき)監督(40)=同校保健体育教諭=は、野球や指導に関する情報を積極的に集めることで練習の効率を上げてきました。「選手には、目標を設定して達成するための習慣を形成しようと話しています」といい、そのために研究と発表の経験が役立ったといいます。
山崎選手は「目標と課題を明確にして、それに一向けて有効な方法でアブ一ローチすることを学べた」といい、練習メニュー一つにも根拠を考えるようになったと話します。
取り組みが結果につながったことで、選手たちが自信を持つようになりました。
「研究を通じて科学的な考え方を身に付け、野球も強くなった。それによって選手に自信が生まれました。地方でも公立校でも進学校でも、強くなれるんだと。レベルの高い大学で野球を続ける選手や、プロを目指す選手の数が増えています」(紙本監督)
従来の野球指導を見直し、根拠のある練習で野球と向き合う米子東高の姿勢は、全国から注目されています。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月11日付掲載


けがの治療期間中に医師や理学療法士からの助言をもとに、柔軟性の向上や体幹強化のメニューを実践し、可動範囲や筋力などの変化を記録。復帰したあと、球速は落ちることなく、1・6キロ向上。
「ピンチのあとにチャンスあり」という言葉が本当なのかという疑問から、全国大会の試合結果151試合分を分析。「野球でよく言われる“流れ”には選手のメンタルが関わっていると分かった。流れをつくるのは自分たちの気持ちなんだと分かれば、どう行動すべきか考えることができる」
ただただしゃにむに頑張れば良いってもんじゃない。スポーツにも科学がある。
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変わる高校野球② 大阪・独自リーグ戦 成功体験が選手伸ばす

2021-12-13 10:45:05 | スポーツ・運動について
変わる高校野球② 大阪・独自リーグ戦 成功体験が選手伸ばす
10月の日曜日、大阪府東大阪市の府立花園高校グラウンドで、同校と府立香里丘(こうりがおか)高校(枚方市)が独自リーグ戦「リーガ・アグレシーバ(スペイン語で『積極的なリーグ』)」の公式戦を行いました。負けたら終わりのトーナメントが主流の高校野球ながら、リーグ戦には、選手を伸ばすルールや工夫がありました。(山崎賢太)

外野に飛んだヒット性の当たりを、落下点に駆け込んだ外野手が捕球すると、周りから「ナイス!」「いいプレーだ!」と声が上がりました。
継投、代打、代走が頻繁に送られ、次々とベンチから選手が飛び出していきます。
選手同士の声がけは自然で前向き。好投する投手がベンチで「頼むわ、点取ってくれ。俺、のってきてるから!」と明るくチームを鼓舞します。

特殊なルール
毎年10月から11月にかけての週末を使って行われるこのリーグには、特殊なルールがあります。
投手は1試合の球数制限と、50球以上投げた場合の連投制限があります。また、1日2試合消化する際はベンチ入りした選手全員を一定イニング以上出場させなければいけません。
バットは木製か低反発金属バットを使用。投手は直球中心で変化球は肘への負担が比較的軽いカーブとチェンジアップが推奨されます。
部員の多い高校は複数のチームでエントリーでき、多くの出場機会を保証します。
2015年に大阪の6校ではじまったこのリーグは、毎年参加校を増やし、いまや14都府県約80校に広がり、それぞれの地域でリーグ戦が行われています。
創設当時から関わる香里丘高の藤本祐貴部長(28)=同校保健体育教諭=は「それぞれのルールに目的があって、それは選手にうまくなってもらうこと、けがをさせないことにつながっています」と語ります。
中でもバットの規制は効果が大きいといいます。「選手たちに力がつきました。試合用として販売される従来のよく飛ぶ金属バットとは違うので、体全体を使ったスイングが必要です。ボールをとらえるポイントが体の近くになって、手も足も出なかった強豪校の投手からもいい当たりが出るようになりました」



プレーする選手たち=大阪・東大阪市の花園高校グラウンド

失敗が経験に
香里丘高ではリーグ戦期間中は平日をすべて自主練習にしています。「毎週末試合があるので、そこで課題を持ち帰ることができる。平日の練習で改善し、次の試合でうまくいけば成功体験になりますよね。失敗したなら成功するまで改善を繰り返せばいいんです」
花園高の山住将也監督(35)=同校社会科教諭=もリーグ戦の効果を実感しています。「試合後のミーティングでも、選手自身でチーム全体について話し合えるようになりました。試合から得られる課題は具体的なので振り返りやすい」
同校の榛田(はりた)雅人部長(54)=同校保健体育教諭=は言います。「最後の夏の公式戦はトーナメントなので、エース格にはこのリーグよりも多くの球数を投げてもらうことがあります。でも、普段から投げ過ぎないようにしているから少し無理できる余裕がある。もちろん控えもリーグで育っているから、継投もできる。チームが強くなりますよ」
リーグに取り組む思いを指導者は、こう語ります。
「高校野球がけがをして終わり、公式戦に出ないまま終わりだと、選手が将来、自分の子どもに野球をやらせたくなるだろうかと疑問に思います。野球の発展を考えると、大学野球やプロを目指さない子でも自分で考えてうまくなる経験をして引退してほしい」(香里丘高・藤本部長)
「同感です。やっぱり“野球ってええな”で終わってほしいです」(花園高・山住監督)
2試合を終え、上級生同士のアフターマッチファンクション(試合の振り返り)とグラウンド整備を済ませた選手たちは、午後3時ごろに帰宅しました。
「早くていいでしょう。このくらいの時間に帰れたら野球以外のこともやれる。高校生なんやからそういうのも大事です。その時間で勉強をするかは知らんけどね」。花園高・榛田部長は笑いました。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月9日付掲載


リーグ戦なので、一度負けたら終わりでなくって、チームも選手も出場機会が増えます。
木製か低反発金属バットを使用、投手は直球中心で変化球は肘への負担が比較的軽いカーブとチェンジアップが推奨。選手に力がつくように。
野球を楽しんでもらえるように。
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